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ドラゴンの使者・ドラコメサ伯爵家物語 ドラゴンの聖女は本日も運命にあらがいます!  作者: 栗栖 龍


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フィオラ8歳 母との別れ2

とぼとぼと歩きながらフィオラは寂しさに押しつぶされそうになったが、それを我慢するために目を瞑って心を落ち着かせようとした。そんな姉に気づいたフォルトは、握られていた手をぎゅっと握り返すと、逆にフィオラを引っ張りはじめた。


「ユルはキッチンにいるでしょうから。行きましょう」


フィオラはこっくり頷くと、そのまま重い足取りでキッチンまで歩いて行った。

キッチンに近づくと、中からいい匂いがしてきた。いつもなら匂いにつられてお腹がすくのに、今日はお腹も心も何も反応してくれなかった。


「フィオラ様、フォルト様。丁度よかったです。今お運びしようと思っていたところでした」


キッチンには沢山の人がいたので、ユルは丁寧な言葉使いで話しかけてきた。


「特製パンプティングを作りましたので、お召し上がりになりませんか?」

「うん」

「食べる」


二人が力なくぼそぼそと答えると、作業台ではなく脇に置かれていたソファーに座らされた。

するとフィオラの前にリュドが、フォルトの前にユルがしゃがみこんで、陶器の深皿に入っていたものを一口分、それぞれ差し出してきた。


「はい、あーん」

「あーん」


私も使った手だな、懐かしいと思いながらフィオラは素直に口を開けた。放り込まれた塊はやわらかく、パンの触感が分からないほど口の中でほろほろと溶けて、温かくて甘くて、飲み込むと癒される優しい味だった。


「バルセロノの孤児院の伝統の味だそうです」

「それってユルがいた?」

「はい。病気になったり、孤児院に引き取られたばかりの時に出される、卵・牛乳・砂糖たっぷりのパンプティングです」

「何かスパイスも入ってる?」

「それが秘伝だそうです」


そんな会話を交わす合間にフィオラの口の中にはパンプティングがポイポイ放り込まれていた。


「もうお腹がいっぱいよ」

「ではホットミルクはいかがですか?」


フィオラがこっくり頷くと、リュドが作業台に用意してあったマグカップを取ってよこしてくれた。それを一口飲んだら、やっぱり甘くて暖かかった。


「これ、懐かしい味がする。いつものじゃなくて、バルセロノでリュドが入れてくれた味よね?」

「ええ、私の姉直伝のはちみつ入りのホットミルクです。私が病気の時や元気のない時に、姉が作ってくれたものなのですよ」


ラフィリ先生はお元気だろうか、あの時産まれた赤ちゃんも、今はもう歩いているんだろうなと思いをはせながらフィオラがミルクを飲み切ると、同じく飲み切っていたフォルトの分と一緒にユルがマグカップを台の上に片づけてくれた。

そしていきなりユルがフォルトを、リュドがフィオラを抱きかかえると、そのままソファーに座り直した。


「え!?」

「なんですか?」


子供二人から上がる悲鳴や非難をものともせず、大人二人はそれぞれ子供を膝の上で体が向き合うように抱え直すと、子供たちを優しくぎゅっと抱きしめた。


「私は幼いころ、バルセロノの孤児院の仕事をよく受けていたので、子供をあやすのが上手くなりまして」

「あやすって……」


フィオラは今世ではまだ8歳だけど、前世を含めればもうとっくに40年以上生きている大人の女だ。今更あやされてもと思ったが、リュドたちから見ればたった8歳の女の子なのも確かなのだ。


「涙を我慢するのはおやめください。こういう時は素直に泣いたほうがいいですよ」

「でも……だったらフォルトに」

「ユルに任せてください。孤児院育ちのユルの方が、あやすのは上手いので」

「そうなの?」

「エウスカのことは、学ばれましたか?」


エウスカのことは衝撃的だった。先代ドラコメサ伯爵の過失で一つの村が、村人のほとんどが魔獣に殺されたことが原因で消滅してしまったのだ。


「……ユルはあの時」

「渦中に居たそうです。そして半年間、声も涙も出せなかったそうです」

「!」

「ジャドとセティオが側にいて心が安定してようやく泣けるようになって、声も出せるようになったと言っていました」


そうだったのと言いながらフィオラがユルを見ると、優しくフォルトを揺らしながらぼそぼそと何か語り掛けていた。


「ユル自身が追い詰められた経験があるからか、心を閉ざした子の相手は、その心を動かすのは上手いのですよ……ほら」


フォルトがユルにギュッと抱き着いて、肩を震わせ始めたのが二人の目に入った。


「さあ、今度はフィオラ様の番ですよ。辛い時は辛いと、悲しい時は悲しいと、声に出して言うのが一番です。……そうですね。いまファルレア様のことを考えたら、何を思い出しますか?」


かあさまの事はいつでも色々思い出せる。でも今一番思い出せるものはとフィオラは口を開き始めた。


「あのホットミルクを始めて飲んだ時、かあさまは倒れてたけど、それでもあのころはまだ元気だったの」

「そうですか」

「でも、リュドたちが来た頃にはもう自力で歩けなくなってたの」

「……そうでしたね」

「ジャド先生もサンデス先生も来て下さったのにどうにもならなくて……私も何かしたかった、できれば光魔法でかあさまを癒したかったの。でもジャド先生は絶対に光魔法や闇魔法は教えてくれなかったの」


フィオラの光魔法はもちろん、フォルトに闇魔法の素質がある事はジャドの授業を受けるうちに明らかになっていた。


「子供が母を助けようとして暴走するのはよくある事なので、教えられないとジャドは言っていました」

「そうなのね……でもね、私もフォルトも何かしたかったの」


母を助けたくて、無駄だと分かっていても何かしたくて、気持ちが空回りしていたころを思い出したフィオラの瞳から、涙が零れ始めた。


「かあさまを助けたかったの、かあさまとずっと一緒に居たかったの……かあさまとフォルトと一緒にもっとたくさん、色んな事をしたかったの……余命宣告をされた時から覚悟はしてたの……でもね、やっぱり寂しいし悲しいし苦しい……」


母親とは違う硬くて逞しいけど、母親と同じように暖かくて優しい胸に抱きこまれて、フィオラはもう鳴き声を我慢することができなかった。


「かあさま、かあさまあああああ!!!」


リュドの胸元でフィオラは泣いて泣いて、涙が枯れ果てるまで泣いて、そのまま気絶するように眠りに落ちてしまった。



フィオラが目を覚ますと、そこは自室のベッドの上だった。もそもそと体を起こすと隣にフォルトがいるのに気が付いた。フォルトもフィオラの気配に気が付いたのか、目を覚ますとおはようと口をパクパクさせていた。

フィオラも挨拶を返そうとして声が出ないことに気が付いた。

二人そろって目が真っ赤で、目の下も荒れてしまっている。

でも寝落ちする前よりは、心が軽くなっていた。


「おはようございます、フィオラ様、フォルト様」


エリサがそう声をかけながらカーテンを開けると、そこから明るく強い、初夏の朝日が差し込んできた。


(えっ!? 朝!!??)


目を丸くして驚く姉弟にかまわずエリサたちがてきぱきと朝の支度をしてくれて、朝食のために食卓に着いた頃には、目の下の赤味も引いて、声も出るようになっていた。

祖父は母の部屋で朝食を摂るとのことでこの場にはいなかったが、お客様の受け入れのために従僕やメイド達が忙しいとのことで、二人の食事の提供もユルがしてくれて、後ろには護衛にリュドとガルシオが控えていた。


「気が付いたら朝で驚いたわ」

「僕もです」

「ああ、まあ、そうだよね」


と答えるユルの言葉は、このメンバーだと気さくなものになっていた。


「リュド特製のホットミルク。あれは寝つきをよくする薬草が入ってるからね」

「え?」

「睡眠薬入りって事ですか?」

「人聞きの悪い……あれには香りを抑えたカモミールとラベンダーが入っているだけですよ」


カモミールとラベンダーは前世でも聞いたことがあり、どちらも心を落ち着かせる事の出来るハーブティーとして有名だったはずとフィオラは思い出していた。


「疲れているときは寝るのが一番ですので。よく眠られたようで何よりです」


そう言い切るリュドに少し呆れたけど、でもそれは確かだと二人は納得したので文句は言わなかった。


「そうね、今日から色々忙しくなるものね。昼過ぎには最初のお客様が到着される予定なのよね」

「愚かな父親は来ないでしょうから、私たちが頑張るしかありませんしね」


フィオラとフォルトは伯爵家の子供としてしっかりせねばと、前を向き始めた。


「でも朝食が済んだら昼まではかあさまの側にいませんか?」

「そうね、そうするわ。でもその前に……」


フィオラは壁際にいるリュドを振り返るとニッコリ笑った。


「おじいさまにもホットミルクを届けてもらえる?」

「承知いたしました」


同じくいい笑顔で答えたリュドは警護をガルシオに一任すると、足早にキッチンに移動した。

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


ハーブに関してはこちらのものと似て非なるものになります。

魔力を込めるとポーションになるものなど、かなり強い効能を発揮します。

カモミールとラベンダーと言っていますが、香りや成分が似ているだけでリラックス効果が強くて、疲れている人は寝てしまう効果のあるハーブだと思ってください。

(ええ、リュドは誤魔化していますが、寝かせるためのホットミルクですw)


ではでは、引き続きよろしくお願い致します。

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