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フィオラ6歳 おやつ開発と魔素のお話

※なくしたと思っていたノートが出てきて、そこにもう一つ載せなければならない魔法うんちくが書かれていたので、慌てて先に書きました。

ジャドが帰った翌日、フィオラとフォルトは出された課題をこなすために騎士たちと一緒に鍛錬に励んだ。

ジャドの課題には体力増進も含まれており、最初は持久力を鍛えるために訓練場を何周も速足で歩き、その後に攻撃魔法を強化することに専念した。

しかし魔力量が多いと言っても体力は幼い子供のそれの彼らは、攻撃魔法で総魔力量の半分も使うと疲れ切ってしまった。

その結果歩けないほど消耗し、二人はそれぞれの護衛騎士に抱っこされて領城のキッチンへと運ばれていた。


「なんか情けないです。少し頑張ったくらいでこのありさまとは……」

「大丈夫ですよ、フォルト様。体の成長とともに基礎体力も向上しますので」

「お腹すいた……」

「夕餉までまだ時間がありますので、ユルに頼んでおやつを用意してもらいましょう」

「いいの?」

「私も小腹がすきましたから」


それぞれがこそこそと話しながらキッチンに入ると、香ばしい匂いが漂ってきた。


「なんだ? この香りはパイと……香辛料と肉の焼ける匂いか?」

「はっ! ユル、もしかして!」

「フィオラ様もフォルト様も、鍛錬お疲れ様でした。前にフィオラ様が言ってた、ソーセージにパイを巻き付けたものを作ってみたよ」


ジューシーな肉と香辛料の香りのするソーセージに、パリパリふかふかでバターのいい香りのするパイ生地がくるくると巻き付いたソーセージパイ。

フィオラは前世で、休みの日にウインナーに冷凍パイ生地を巻き付けてトースターで焼くことをよくやっていた。

こちらには冷凍パイシートなんてないのでパイ生地から作らなければならないが、水魔法の冷却魔法を使いながら作るとすぐにできると言っていた。

それが今目の前に、一口サイズに切られて皿に盛られ、小腹をくすぐる香りを四方八方に発していた。


「じゃあ、まずは毒味ね。リュド、あーん」


言われるがままにリュドが口を開けると、ユルがひとかけらをそこに放り込んだ。

リュドは何度か咀嚼すると飲み込んで「これはうまいな」と感心した。


「えー! リュド、ずるい!」

「じゃあ、フィオラ様も、あーん」

「あーーーんv」


フィオラの口に放り込まれたかけらはまだぬくもりが残っており、ソーセージは皮はパリッと、肉は程よく弾力があり肉汁がこぼれ、それとパイの味の組み合わせが絶妙ですごくおいしく仕上がっていた。


「美味し~♪」

「じゃあ、フォルト様もあーん」

「え、自分で食べますので、フォークを……」

「こういう時は素直にあーんってしなさい」

「大丈夫、熱くありませんから。はい、あーん」


姉と料理人から畳みかけられたフォルトは、疲れてていたのもあって抵抗する気力がなくなった。


「……あーん」

「はい、どうぞ」


フォルトもゆっくり嚙み砕くとそのおいしさに驚いているのが、無表情なりにバレバレだった。

その様子を見ていたガルシオたちがリュドに「手を洗わせてくれ」と頼み込んでいた。


「ああ、そういえばまだ洗ってなかったな。クリア・ウォーター・ボウル」


リュドが魔法を放つと空中に半球の綺麗な水が浮かび、ガルシオたちがそこに手を突っ込んで洗っていた。

「フィオラ様、フォルト様もどうぞ」と言われて、二人もそこで手を洗った。


「あ、すごく綺麗になった」

「浄化する水を出していますので。これが一番きれいになります」


言いながらリュドも手を洗い終えると、リュドの「解除」の言葉とともに水はきれいに消え去った。


「……水はどこに行ったのかしら?」

「姉さま、出現することに関しては疑問に思わなかったんですか?」

「あ、そういえば」

「すべてが魔素より出でて、魔素に還ると言われておりますよ」


聖竜の鱗片、女神の恩恵、神力とも呼ばれるが、魔道師たちは魔力のもとという意味で『魔素』と呼んでいる。その物質が体の中の『魔素溜り』と呼ばれる器に集まり、それが魔力に転換される。その魔力を消費して人は魔法を放ったり、何かを生み出したり、魔道具を使ったりしているというのが定説だった。


「さっきの水も、水という物質ではなく、魔素から作られた水のような何かということ?」

「魔素が水を構成したというのが正解です。けれど何か歪みが生じるのか、基本的に不純物の多い美味しくない水になるようです。この辺りもジャドが研究中ですね」

「……最初から美味しい水が作れた人がいたからですか?」

「たぶんそうだと」


その言葉に一同の視線はお茶と他のおやつの準備をしているユルに集まった。

すると突然、リュドが全く別の質問を口にした。


「そういえば、お二人は魔力切れについて学ばれましたか?」


二人がそろって首を振ることで否定の意を表すと、リュドは何故か遠い目をして、ため息を一つついた。

「ジャドが昔していた研究なんですけどね」と前置きをし、懐かしむというよりは辟易した表情で話してくれた。


攻撃魔法を使うときに体力もかなり消費するので、幼いうちは魔力が尽きるまで魔法を放つより先に体力が尽きて倒れてしまう。しかし体が育ち体力がつくと、今度は魔力が尽きるまで攻撃魔法を放ててしまい、結果『魔力酔い』を起こして倒れると言われていた。

ジャドは『なぜ魔力が切れるのに、魔力に酔ったような状態になって倒れるのか?』が気になっていた。

そして魔力が目で見えるようになったころに、目の前で先輩冒険者が魔力切れを起こした瞬間、彼の体が魔素に包まれたのを見てとても驚いた。

そこで『魔力が切れたことではなく、まとわりつく魔素に酔っているのでは』と仮説を立てた。

自分が魔力切れを起こすまで魔法を放ってみたが、酔って倒れてしまうので何が起きているか把握できない。

外から観察するにはどうすればと考え、健康で丈夫な二人の弟分、リュドとセティオで実験することを思いついた。

2日連続で魔力切れを起こすと死にかけて2日は寝込むと言われていたので、1日目はリュドで、2日目はセティオで実験し、念のためもう一日間をあける為に研究をまとめるか稼ぎに行くというルーティンを作り、ジャドはそれを2か月ほど続けた。


「あの時ばかりは体力も魔力も低いユルがうらやましくなりました」


その結果、魔素に酔う理由が判明した。しかも2パターン。


1:器の容量が総魔力量を上回る場合は、使いきれなかった魔素の制御が上手くいかなくなり、体から魔素が放出される。その状態に酔う。

2:器の容量と総魔力量が等しい場合は、魔素溜りという器が空っぽになることで体が一気にそれを埋めようと、魔素を急激に吸収する。その状態に酔う。


ジャドは、その独自の研究結果を王宮魔道師団に送り付け、研究専門の魔道師になりたいと要請したのだった。


「その所為なんでしょうね。王立高等学園に入学し、魔法学の教師である魔道師団の方に初めてお会いした時に、名前と出身地を私とセティオが告げた瞬間『実験動物その1とその2だ』と小さく漏らしておられました」


どうでもいいことだが、その1がリュドで、その2がセティオだと、研究論文にしっかり明記されていたそうだ。


「「……リュド、本当にお疲れ様」」


ばっちりそろった姉弟の慰めに、リュドはふっと笑みをこぼした。


「ありがとうございます。フィオラ様もフォルト様も、今はまだ体力の方が先に尽きるので魔素酔いになることはないでしょうが、もう少し体力がついた頃には気を付けてください。ご自身の魔力量と魔素だまりの残量を把握できるようになってくださいね。コツは教えますので」

「そんなに大変?」

「器と魔力量の差が大きいと酔いもひどくなりますので。まあ、何十回か経験すると慣れるのか、漏れ出そうな魔素をとどめたり、急激に入ってきた魔素を利用してもう一回魔法を放てるようにはなりますが……」

「「が?」」

「ぶっ倒れて短くて丸2日、最悪一週間ほど眠り続けますので、ご注意を」

「……わかったわ」

「重々気を付けます」


そんなことにならないようにしっかり己を知ろうと、姉弟は心に誓ったのだった。

そんな少しどんよりとした空気になってきた時に、準備を終えたユルがカップに入れたお茶と、おやつが盛られた皿を運んできた。


「魔法談議が終わったんなら、今度はレシピ開発ね。ソーセージパイの感想を聞かせてよ」

「ああ、酒の肴にするなら、もうちょっと胡椒を利かせた方がいいと思うが、おやつとしてなら程よいんじゃないか。トマトソース(ケチャップ)もあってるし」

「すごく美味しかったわ! これを屋台で販売したら売れると思うの」

「これはウインナーだけですか?」

「他にもいろいろ考えてるよ。ミニハンバーグとか固めに作ったグラタンとかも合いそうだなって」

「甘いものは作らないのですか?」

「甘いものはこっち。はい、あーん」


いい笑顔とともにユルが皿に乗っていた小さくて丸いパイを差し出してきた。

フォルトは手はきちんと洗ったのにと思いながらも、ユルに反抗しても無駄だなと諦め、おとなしく口を開けた。放り込まれたのは甘酸っぱい味のパイだった。


「?? これはレモンジャムですか?」

「レモンジャムより酸味の強いレモンソースを使ってるよ。それと、フィオラ様考案の卵のクリーム(カスタードクリーム)。合うでしょ?」

「はい、美味しいです」


本当に美味しかったというか好みの味だったのだろう。フォルトはさらに手を伸ばすと、もう一つ丸いパイを取って食べていた。


「それとフィオラ様リクエストのカスタードクリームも使ったアップルパイ」

「シナモンは?」


ユルが差し出してくれたお皿には、リンゴの香りもする三角と四角の一口サイズのパイが乗せられていた。


「三角がシナモンなし。四角がシナモン入り。さあ、召し上がれ♪」

「ふふ、両方頂くわ」

「皆も食べてきちんと感想を言ってよね。街が復興してちゃんと温泉街になったら、屋台で出すんだから」


ふと屋台にこだわっていることに気になったのだろう。色々食べ比べていたリュドが疑問を唱えた。


「なぜ屋台なんだ?」

「え?」

「ユルが資金とレシピを出して、カフェかレストランにすればいいんじゃないか?」

「えー? だって大変そう(めんどくさい)じゃん。それにお店が埋まるほど客さん来るかな?」

「面倒くさいって思うな」

「心読まないでよ」

「温泉街として流行り始めれば大丈夫だろう」


そこに姉弟も参加しだした。


「良いですね。店ではホールパイを切り分けて出すのもありだと思います」

「一口サイズや肉系のパイは、冒険者や街の人が気軽に買えそうだから、それは屋台でいいと思うわ」

「とりあえず資金はこちらで出す手もありますし、まずは屋台で一口パイを売ってみて、どの味が売れるかリサーチしてみるのもいいともいますよ」

会計方(リナルド)に相談しましょ」


さらにガルシオ・アレク・デマロも口を出してきた。


「このカスタードには甘酸っぱいフルーツも合うみたいだから、ベリー系も試さないか?」

「労働者向けにもっと肉々しい、ステーキパイとかもよさそうだよな」

「うちの地方には魚のパイがあるので、材料やレシピを取り寄せてみるよ」

「さすが港町。うちの村の定番はかぼちゃのパイだったな」

「ブルーチーズと蜂蜜って案外合うから、それもパイにしてみたらどうだ?」

「それと貴族向けにチョコレートを使った、すこし高級なパイを出すのもいいかもね」

「皆、もう一度行ってくれ。メモにまとめる」


いつの間にかリュドは事務机にある紙とインクとペンを作業台に持ってきていた。


「ユルにさせなくていいのか?」

「もう聞いてないだろう」


この頃からフィオラの料理番と言われるようになったユルは、飽きたのか面倒くさくなったのか、フィオラや侍女たちに食べてもらった分の感想は聞いているけど、男たちの勝手な意見は一切聞いていないようだった。

PS.

「被検体になるのが嫌なら、断るか逃げるかすればよかったんじゃないの?」

「……しなかったと思われますか?」

「……無駄だったんですね」

「はい」


ーーーーーーーーーー

いつもお読みいただきありがとうござます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


前書きにも書きましたが……魔法うんちくに関してノートに殴り書きしておいたものを見ながら打ち直していたのですが、一度途中でそのノートの一部を紛失してしまいました。

が、なぜか出てきました……ストックボックスの中からorz

荷物をしまっているときに間違えてそこに入れてしまっていたようです。

その中に思い出せなかった魔素についての話があったので、慌ててそれを差し込みました。

本当にこれで魔法の基本のうんちくは終わったはずですorz


これからもまた出てくるかもしれませんが、引き続きよろしくお願い致します。


※読み直したら誤字がひどかったので数か所直しましたorz

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