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フィオラ6歳 魔法のおさらいの時間です3

「ジャド先生。威力を絞るのは面倒くさいの?」

「攻撃魔法は突発的に反射的に打つことが多く、普段は全力で打つものなので、威力を弱く打つのはあまりやらないので……というのはたぶん建前で」

「あいつは俺の魔法を鍛えることを趣味にしているところがありますので」

「弓矢の使い方を教えてくれた時みたいに?」

「ああ、そうでしたね。その通りです。少し気を抜くと打ってくる癖がいまだに抜けないようでして」

「そのおかげでガルシオ君の守りの盾はかなり強固なものになっていますよね」

「あいつのおかげとは絶対思いたくありません」


そんな会話をしながらリュドが教える様子を眺めていたら、ユルが冷たい飲み物を渡してくれた。

それを飲みながらユルのことを考えてしまう。

魔道具や氷魔法を何度か使っただけで魔力を半分消費してしまうほどの小さな魔力量。確かに生活するのにギリギリな量しかないんだろうなと思えた。

それは何ともならないものなんだろうかと疑問に思い、ユルがその場を離れてからフィオラはジャドに質問した。


「ユルの魔力量はこれ以上増えないの?」

「頑張って増やした方なので、これ以上は難しいでしょうね」

「増やせたの?」

「ええ。出会った2歳の時の魔力量は2でしたので」

「え? 確か生まれた時の魔力量の平均は3よね?」

「そうですね」


ジャドによると、魔力量が少ないと言われている人の多くは、対立する魔法属性二つを生まれながら持っている。

逆にリュドの様に協調関係の魔法属性をもう一つ持っていると引き上げられるのか、3つ以上持っている人は総じて魔力量が大きい。

また、まれに魔法属性が一つだけだが産まれた時の魔力量が0か1しかなく、その後伸ばすのに苦労する人もいる。そういう人の多くは母親の属性と対立する属性を持って生まれてきていた。

ジャドの研究の一つが『生まれる時の魔力量と魔法属性の関係』で、今のところ『妊娠中に母親や外部から魔力を吸収することで“生まれる時の魔力量”が決まるようで、対立関係の魔法属性だと邪魔をしあってなかなか溜まらず、魔力の少ないまま生まれてきてしまうようだ』ということが分かっている。


「だから火と水の属性を持つユルは魔力量が低いのね」

「ええ。しかし彼はまだましです。そういった人達の魔力量はほとんどが良くて5、下手をすると3か4しかない為、生活に必要な魔道具を使う時に苦労する人が多いのです」

「そんなに低いの?」

「ユルは私の実験結果の一つで、伸ばす方法が見つかった貴重な例でもあります」


ジャドは5歳になっても2のままのユルの魔力量を何とか伸ばせないかと考え、まずは得意な水魔法だけを伸ばすように特訓させた。そうするうちに4まで伸びたので「もしかしたら打ち消し合ってしまうかもしれないけど」と火魔法も教えた。

それが功を奏したか、ユルの魔力は10歳には6まで伸びて、最終的には7で落ち着いた。


「そういえばラフィリ先生も闇と光で対立関係の魔法属性もちよね? けど、そんなに低そうに見えなかったんだけど」

「ラフィリ姐さんもまた特殊な例で、魔力量はそれを貯められる器によっても変わるのではと思わせてくださった方なんですよ」


なんかジャド先生の熱量が上がって来たなと思いながら、フィオラはおとなしく話を聞き続けた。

ジャドがユルにやらせた方法を自力でやってのけたのがラフィリだった。最初に第一魔法である闇の力をひたすら伸ばし、のちに光魔法を覚えて伸ばすことをしていたそうだ。

そして現在の魔力量は20で、普通の大人の魔力量の平均は18なので、若干多い程度と判断される。

しかし弟のリュドの魔力量が45ある事から考え合わせると、1/3ちょっとしかないともいえる。


「ユルも同じく一般の人の1/3ちょっとしか魔力量がありません。対立する属性もちが得られる魔力が、本来持てるはずの魔力量の1/3程度だったとしたら、ラフィリ姐さんはリュドと同じかそれ以上の魔力の器を持っている可能性があります。その魔力の器がどこにあって個人差がどれくらいなのかも研究したいと思っているのですが、ちょうどいい研究対象であるリュドが了承してくれなくて困ってまして……」

「絶対に嫌だ。それとフィオラ様やフォルト様を研究材料に使うなよ、研究狂いの魔導師様」

「あ、うん。私も断るわ」

「僕も嫌です」


フィオラに加えて、火魔法の指導が終わったリュドとフォルトにまで断られて、だれも理解してくれないと悪魔と呼ばれる魔導師は落ち込んでいた。


「低魔力症の改善に役立つかもしれないのに……」

「自分の体で分からない時点で、魔力の器の場所を知るのは無理だろう」

「そもそも大人は皆、魔力量は器のMAXまで成長しているのですか?」

「……いや、確実ではありませんが一般的には半分くらいで、多い人で8割かと」

「だったら器の容量を調べるよりも、どうしてその差ができるか探ったほうがいいんじゃないか」

「うう、じゃあこれから成長するフォルト様やまだ伸びしろのあるリュドが研究材りょ……」

「断る」

「お断りさせていただきます」


リュドとフォルトからすげなく断られたジャドは、救いを求めるようにフィオラを見たが、


「なんか嫌」


と、ドン引きされただけだった。


まだぶつぶつ言っているジャドを放置して、皆でユルの用意してくれた間食を楽しむことにした。

今日のおやつは最近移住してきたレモン農家の人からもらったレモンを使ったケーキ。

しっとりとしたレモン味のパウンドケーキの上にはちみつを塗り、さらにレモンの果汁を混ぜ込んだグレーズをたっぷり塗ったスイーツ。

紅茶はガルンラトリ王国の南の端の領地アンダルジオから取り寄せたニルギリ(もちろん翻訳済み)。

ケーキのはちみつレモンの風味にしっとりとした食感、それにかかったグレーズがシャリシャリと音を立てて口の中に広がる。レモンがそこかしこに聞いてて甘酸っぱくて疲れを癒してくれるようだ。

そして温かくすっきりとした味わいの紅茶が、口の中の甘みを胃へと流し込んでくれる。

ああ、本当に美味しいわとほっと一息ついたところでフィオラはフォルトに気になったことを聞いてみた。


「どうしてフォルトには魔力の種類が分かるの?」

「色が見えるので」

「見えるの?」

「見えないんですか?」

「感じ取れはするけど……」


それにより姉弟の魔法の認識の仕方が全く違っていたことが初めて分かった。驚く二人に解説してくれたのは、紅茶とケーキの香りにつられて現実世界に戻って来たジャドだった。


「フィオラ様は勘が働き、フォルト様は目が良いということでしょう。リュドも確か色で見えていたよね」

「ああ。理論的に考えるタイプが見えるとか?」

「そうは決まってないけど、確かにその傾向はあるかも。僕も見える方だし」


自分だけタイプが違うのだろうかという不安から、フィオラの眉が少し下がっていた。


「大丈夫ですよ。私の師匠にあたる方がやはり見えはしないけれど感じる方で、師匠と同じくフィオラ様も鍛えれば魔力の種類まで分かるようになると思いますよ」

「ほんと?」

「はい。私は無駄な慰めは言わない方なので」

「無駄なことは言うけどな」

「人間を研究材料にしようとか?」

「……君たちは本当にそっくりですね、リュド、フォルト様」


名を呼ばれた二人は顔を合わせた後、真顔なままそんなことはないと否定したが、そういうところまで二人はそっくりだった。

それを見てフィオラはさすがに笑いをこらえきれず、くすくすと笑ってしまったが、おかげで心は軽くなっていた。

見えないのなら感じればいいと、水や火や風や土を感じられるようになれば魔力の種類もわかるかもと。とりあえず課題を一つ、魔力の種類も感じられるようになろうとフィオラは決意を固めた。

そしてもう一口紅茶を飲んで、さらに疑問が頭に浮かんだ。


「そういえば。リュド、ピュア・ウォーターの魔法を教えてくれる時に『魔力で出す水に含まれる魔素や不純物を手のひらに留める』って言ってたけど、もしかして魔力で出すお水ってあまりおいしくないの?」

「魔力で出す水は不純物が多いのか、魔素が多すぎるからか、美味しくないですよ」

「そうなのね? だから井戸水……あれ? でもキッチンのお水も魔石が付いた蛇口から出てるわよね?」

「あの魔石は『水が出る魔石』ではなく、『水をそのまま転送する魔石』です」


リュドの説明によると、城の水栓についている魔石は城の地下にある井戸に沈められている魔石とつながっており、井戸水が水栓まで飛んでくる仕組みなので美味しい水が出るそうだ。

机に着けた簡易水栓の場合、魔石の力で水を出しているのでそれほどの総量は出ない。と言っても大きな樽に2杯分は出る。ただし美味しくない。しかし、人が魔法で出した水よりはましなうえに使用魔力量も少なくて済む。

ドラゴメサ領の様に水が豊富な地域は転送魔石を使い、水が少ない地域は水の魔石を頻繁に購入するし、なにより旅する時には有効に使えるので水の魔石は重宝されるらしい。


「じゃあ、魔石がたくさんいるんじゃないの?」

「世の中には使えなくなった魔石を整え、さらに魔力を封じ込めることができる人がいます。それを職業にしている人は結構いるので大丈夫ですよ」

「そうなのね。それって私にもできるかしら?」

「私はできますが……ジャド、どう思う?」

「フィオラ様がいまよりも繊細な魔力操作ができるようになれば可能だと思いますよ」

「今のままじゃダメ?」

「今のままだと魔石を砕くだけだと思いますよ」


それはだめねと呟いて、とりあえず今はあきらめることにした。

リュドができるということだから、いつか教えてもらうこともできるだろうし。

とにかく一つ一つ、まずは魔力の種類を感じられるようになることから頑張ろうとフィオラは誓いを立てた。


こんな感じで授業は行われ、座学と実践の両方をこなしながらフィオラとフォルトは鍛えられていき、学園に入るころにはリュドと同じく魔導師ランクが“うっかり”Bに上がってしまうのだった。



PS.

「……聖竜様に収める魔石は、いざとなったらその生活用の魔石をかき集めて捧げちゃだめなの? 聖竜様なら上書きできるわよね?」

「聖竜様に収める魔石は、まだ一度も人間が魔力を込めていない『処女石』でなければならないと言われています。しかも生活魔法で使うレベルではない、巨大魔石と言われるものをと」

「そうなのね」

「はい、なので小さな子供の拳大以上の魔石が取れると、冒険者ギルドからドラゴンが訪れる4国に優先的に送られているはずです。その連絡はドラゴメサにも入っているのでは?」

「あとで家令に確認してみるわ」

※常識小ネタ。


魔法を全力で打つと言っても魔力量の1割だけが使用されます。

普通に使う程度だとその1/3と言われています。

生活魔法というか、生活に必要な魔石を使うのに必要な魔力が0.1~0.6と言われています。(光の魔石の起動に0.1、水道や水転移で0.2、火の魔石で0.6。だから魔力量が6ないと全力でもコンロの魔石を起動させられない)

光や水の魔石は注いだ魔力によって光度や水量が変わるが、火の魔石は起動に力がいる分、後の火力調節は設置されてる魔道具のつまみで調節できるし、スイッチを切るか魔石内の魔力が切れるまでは使い続けられる。


一般的には全力の魔法を10回使うと魔力が空になります。

魔力量が30を超えると徐々に割合が減り、全力の魔法は一般的には魔力量3の威力で頭打ちになります。

(単純計算で、リュドは一度に全力の攻撃魔法を15回打てることになります)

魔導師のAランクともなるとこのあたりも自由にコントロールできるようになります。(6を超える魔力を使うと大魔法、10を超えると極大魔法と呼ばれます)

一日(24時間)経つか5時間寝ると全快するので、理論的に2.4時間たてば1割の魔法がまた使えるようになります。



==========


いつもお読みいただきありがとうございます。


今回は年を越すかと思いましたが、奇跡的に古いPCの状態がまあまあに戻ったので、年内に魔法うんちくの話を終わらせることができました。


そして今回、レモンケーキを載せるにあたってベーキングパウダーを使っていないレシピを探し出して作ってみました♪

(この世界のこの時代にはまだベーキングパウダーはないということで)

シンプルな材料を丁寧に♪ウィークエンドシトロン♪ by しゃなママ

https://oceans-nadia.com/user/22585/recipe/130662 (Nadiaレシピ)

美味しく出来あがりましたvvv


今年一年お付き合いありがとうございました。

来年も頑張ってポチポチあげていきますので、よろしくお願いいたします。

皆様、良いお年を~^^

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