フィオラ6歳 そうだ、温泉を掘ろう!3
一行は領城裏の森の中を進んでいった。
メンバーは、フィオラとフォルト、リュドとガルシオ、エリサとカルスという主従セットに、イグ爺とガスパルド一家にデマロとアレクの騎士がもう二人という総勢12人になっていた。
目的地まで暇だからとイグ爺がガエレに色々話しかけて一家の情報を聞き出していた。
西の山の麓の街は温泉がたくさん湧いていて、温泉街がいくつもあったため、独自に温泉ギルドが立ち上げられており、職人はそこに所属して色々な街に呼ばれて仕事を得るそうだ。
ガスパルドはいわゆる堅物な親方タイプで、客に対しても無口で愛想をふる撒くことがないため、温泉のオーナーから煙たがられることが多かった。
しかし温泉のオーナーには横柄で態度の悪い人間が多く、お世辞の一つも言えない人間は相手にする価値なしと考える人がほとんどだそうで……。
ある時、その中の有力者であり古くからある街の一番大きな温泉宿のオーナーに態度が悪いと毛嫌いされてしまい、仕事があまり回されなくなってしまった。
オーナーとしては一切仕事を回したくなかったようだが、それはできないと温泉ギルドの技術方の援護で今まで何とかなっていた。
その話をエリサが助けた商人も知っていたので、だったら双方にとってwin-winになるとガスパルドたちに移住の話を勧めてくれたということだった。
技術方の援護が入ったということは、腕前はたぶんいいのだろうとフィオラは推測した。エリサが良い人をゲットしてきてくれたと、とても嬉しくなった。
そんな気持ちで話を聞いていたら、目印が視界に入って来た。
「あそこよ。あそこから川の方に向かって暖かい地下水が流れているの」
「暖かいというよりかなり熱そうでしたよ」
「そうなの?」
そんなフィオラとリュドの会話に口を挟んできたのが、無口だと言われているガスバルドだった。
「何故熱いと分かった?」
「地中を火・土・水の鑑定魔法をフルに使って走査してみたら、ここでかなり深い所から上がってきて川の方に進んでいるのが分かっただけです」
「……君は温泉探索官にならないか」
「……は?」
珍しくリュドが礼儀というものを見失っていた。
フィオラ達もいきなり始まったスカウトに何がどうしてと驚いていると、ガエレが慌てて説明してくれた。
「実は温泉探索に必要な魔法の種類が土と水と火になるので、それを併せ持つ人はなかなかいないので……彼は素晴らしい温泉探索官になると思うんですよ!」
説明というか力説だったが、とりあえずそれはあきらめてもらわないと思い、フォルトが端的に断った。
「それは無理だ。彼はドラコミリであり、ここを守る重要な魔導騎士なので諦めてくれ」
「ドラコミリ……そうですか、それでは無理ですね」
「すみません」
ガエレはとても残念そうに諦めの言葉を零し、ガスパルドとガレオもがっかりした顔をしていた。5分でこの一帯をスキャンしたのを目の当たりにしたフィオラは(惜しいって思うわよね)と思ったが黙っていた。
「しかし、この森一帯を調べたんですよね? この広範囲を調べるのは大変だったんじゃないですか?」
「下調べは私ではなくフィオラ様がしてくださいましたので」
「これを使ったの!」
と、フィオラが鼻息も荒く差し出したのは、『ダウジング・ロッド』だった。リュドに「今日も持ってこられたんですね」と半ば呆れられていたが、それを凝視したうえに驚きの反応したのはガスパルドだった。
「それは伝説の探索ロッド……」
「前に読んだ本に書いてあったの」
キエラが新婚旅行に行っている間に図書室で見つけた温泉関連の本の中に、実際にダウンジング・ロッドを使って温泉を探し当てた温泉の祖にあたる人物の伝記『ラヤン・A・ロコモントの温泉探訪記』があった。
しかも本人の直筆と言われる落書きの写しには『岩本明』という漢字が書かれていた。昔にも転生者がいたんだと分かって、フィオラの瞳から一筋涙が零れたものだった。
「確か……何とかロコモントさんの温泉探訪記だったと思うわ。こういうものを持って西の山を歩き回って源泉を見つけたって話だったの。だからそれを真似てみたのよ」
ガス一家は絶句していた。
千年以上前に西の温泉街を作った男が書いたと言われる“お伽話あつかい”をされている本に倣ってこんな少女が源泉を見つけたのかと。
伝承では探索魔術が構築されるまでは使われていたらしいと言われていたが、“既に存在しない家名”の男が魔術も使わずに源泉を探したなんて眉唾だと言われ、真偽のほどは定かではないと言われている道具だったのにと。
その中でフィオラに質問したのは、フィオラをうさん臭く思っていたガレオだった。
「なんでそれを試そうと思ったん……ですか?」
「だって地中を調べる方法を知らなかったら、色々試してみるしかないじゃない?」
こともなげに言い放つフィオラにガレオは驚くとともに感心してしまった。
正直な話ガレオは探索魔法が不得手で、両親が仕事を辞めたらメンテナンスだけで新規発掘は受けられないだろうと思っていた。
出来ないからと他の方法を探るということは一切考えたことが無かった。
「興味があるならあげるわ。私はここを見つけて満足したから」
「ありがとうございます」
ぼそぼそとお礼を言うとガレオはそれを受け取り、使い方を教わり、実際に使って本当に反応するのを確認した。
ガレオがそうしている間に両親は二人で源泉の場所を厳密に把握し、ガスパルドの土魔法による探索でどこをどう掘るのがベストかを探っていた。
ガエレは息子の様子を見て、息子の苦手意識がこれで無くなればいいとぼやいていたが、それを耳にしたフィオラは週末来る予定のジャド先生に相談しようと思った。
ジャド先生なら何とかしてあげられないかな、と。
その結果、彼は悪魔にしっかりみっちり温泉探索魔法を仕込まれ、父親以上に探索魔法が上手くなるのだが、それはもっと先の話。
イグ爺とガスパルド一家が協力して掘削用の工具や装置・配管を作り、まずは城に温泉を引き、それから庶民用の共同浴場と貴族用の温泉施設を作って、避暑地としてだけでなく温泉地としても有名になってからのことになる。
こうしてバニョレスを温泉街にするプランも着実に進んでいき、5年後には初期投資額を回収できるほどの利益を得ることができ、フィオラ達が学園に通うようになるころには領地の資金源の一つとなるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
少し遅れましたが、温泉話の最終話を乗せることができました。
ヴァルフォ=温泉 ロコ=岩 モント=山
※前世の名前を思い出したラヤンが、独り立ちするときにラヤン・アキラ・ロコモントに改名したと思われます。
※ダウジング・ロッドは、この世界では魔力がある人はだれでも使えることになっています。
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引き続き、よろしくお願い致します。




