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閑話 そうだ、じゃんけんをしよう!

スープストックを弱火で煮込み始めると、料理人二人は朝食の準備があるのでと元居た作業台に戻って行った。

フィオラ達も着替えて朝食の準備をと言われたが、調理場の隅で言い争いが起きているのが気になった。


「コインだと風魔法で何かできるだろう」

「それはこっちの言葉だ。お前らなら水を飛ばして、望む側にコインを向けられるだろう」


なんだろうと思いつつ姉弟でどうしたのか聞いてみれば、鳥の心臓(ハツ)の取り合いだった。

他の部位は上手く分けられたが、ハツに関しては3羽分しかないので、コイントスで誰が貰うか決めようとしていたということだった。

ただ、そのコイントスは不正ができるんじゃないかと前々から問題になっていたらしい。


「だったらじゃんけんで決めればいいのに」


そうフィオラは零したのだが、


「じゃんけん?」

「ってなんですか?」


と、聞き返されてしまった。

(じゃんけんってこの世界になかったっけ!?)とフィオラは内心慌てたが、こういう時の対処方法はしっかり身に着けていたので、落ち着いて返すことができた。


「んー。何かの物語で読んだと思うんだけど、三すくみのハンドサインで勝敗を決める方法なの」

「ハンドサイン?」

「うーんと、何だったかなー……」


そう胡麻化しながらじゃんけんの説明方法を必死に考えた結果がこれだった。


「そうだ! 畑作業で考えようよ」

「畑作業ですか?」

「うん。まず一つはこぶしを握ってー」


グーの形に手を差し出した。


「これが、砂がグーって固まってできた石ってことで、グー」

「グー」


復唱しながらリュドがグーを差し出した。


「で、次がここから人差し指と中指を伸ばして、チョキチョキ切るはさみでチョキ」

「チョキ」


今度はガルシオがチョキを出す。


(えーと紙はまだ高価ではさみで切ることはないから……)

「三つ目が、手を大きく広げてパーっと広がる布でパー」

「パー」


最後はアレクがパーを出した。

そしてそこから二つずつ指をさしながら説明をする。


「はさみは石を切れないからグーの勝ち。でも布は切れるからチョキの勝ち。布は石を包んで運べるからパーの勝ち」

「なるほど、これは確かに大蛇・大蛙・大蛞蝓(なめくじ)と同じ三すくみですね。同じものを出した場合はどうなるのですか?」

「たしか、あいこってことでもう一回出し合うの」

「実際にはどうやるんですか?」


デマロもフォルトも興味津々だった。ならば実践あるのみ。


「じゃあ四人とも何を出すか頭の中で決めて、その後に『じゃん、けん、ぽん』の『ぽん』のタイミングでそれを出すようにしてみて」

「分かりました」

「じゃあ、いくよー! じゃん、けん、ぽん!」


結果はグーが二人にチョキとパーが一人ずつだった。


「この場合はあいこになるから、次は『あいこで、しょ』の『しょ』のタイミングで出してね。てことで、あいこで、しょ!」

「よしっ!」


グーで独り勝ちしたのがリュドだった。そしてもう一度じゃんけんをしたところ、


「ああああああ」

「残念だったなアレク」

「次に獲れた時は、お前に優先的に回すからさ」


と、アレクが負けてハツは他の三人のものになったのだった。

これで一件落着ねと思っていたら、なぜかその場で焼き始めた。

山分けされたパッドに置いたまま、上からリュドが火魔法で出した火で焙っている。

このままだと脂や煙が出るのではと思っていたら、脂はデマロの水魔法で隅に集められ、煙はガルシオが窓の方に飛ばしていた。


「いま焼くの?」

「新鮮な方が美味しいので」

「塩コショウをして炙るだけでいい味になりますしね」

「そうなんだ」


若干引き気味な姉弟が騎士たちと会話を交わしていたら、「エールを汲んできたぞ」とアレクが小ぶりな木のマグカップを4つ持って戻ってきた。


「……エール?」

「え? 朝から飲むのか?」

「この程度、食後の鍛錬で全て流れ出ます」


アレクがさわやかに応えるものだから、二人はそうなんだと頷くしかなかった。

するとそこにストックの様子を見に来たファビアとユルが加わった。


「この人たちのお酒に関する言い分をまともに聞いてはダメですよ」

「ファビア」

「この四人は大酒呑みで、たくさん飲んでも酔わない奴らなんで」

「ユル」


小ぶりと言っても350mlは入るであろうマグでエールを飲みながら、美味しい焼き目のついた内臓を手でつまみながら食べていた。

美味しそうだなと思いつつ、こんな朝からエールかと遠い目をしていたフィオラは思わずこぼしてしまった。


「……ざるね」

「ざる?」


ああ、また無い言葉を使ってしまったわと思いながらも、呆れた目をしながらじゃんけんと同じように冷静に解説した。


「普通は器に入れた分だけ酔うのに、この人たちはざるに入れたみたいに、アルコール分がたまらないから酔わないんでしょ?」

「上手いこと言いますね、ねえさま」

「いい表現ですわ」

「ざる四人組だw」


この言葉もそのうち外に漏れるかもしれないけど、今のうちに流行ってくれた方が学園に通う頃に失敗が少なくなっていいわねと思いながら、フィオラはフォルトと共に部屋に戻って身支度を整える準備にかかったのだった。


フィオラ「ねえ、大蛇は見たことがあるけど、大蛙とか大蛞蝓とかって居るの?」

デマロ「ええ。海沿いの我が領地ではよく出る方の魔獣ですよ」

フィオラ「よく出る……嫌すぎるorz」

デマロ「たまに大蛇が出ると生け捕りにして、大蛙と大蛞蝓がいるところに放り込んで、三すくみでどうにかなるまで放っておくことをするくらいです」

フィオラ「その狩り方も嫌すぎる~。・゜・(ノД`)・゜・」

デマロ「生活の知恵です(いい笑顔)」

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