フィオラ6歳 そうだ、ハンターになろう3
リュドたちが着任して数日後、領城にやってきたジャドは「おめでとうございます」の言葉と共に、フィオラとフォルトに魔導師ランクDの証明書とバッジを渡していた。
「フィオラ様たちも俺と同じように騙したのか!」とリュドにたいそう怒られていたが、「才能がある子は早く把握しておかないとね~」と、どこ吹く風といった感じだった。
そして一週間たっぷり子供たちの教師と母親の治療観察をしたのちに、「次は9末に参りますね」と宣言して彼は王都に帰って行った。
その頃には領の騎士団でのリュドたちへの基本的な指導や引継ぎも終わり、彼らにも時間の余裕ができるようになった。そこでフィオラとフォルトは騎士たちに武器の使い方を教わることにした。
狩りをしたいと思い始めたからだった。
オヴィディオが「幼い頃からハンターとして森や山に入っていた」と言ったのを聞いてから、自分たちもハンターとして獲物を狩り、それを母親に食べさせたいと思い始めていた。
どんどん食が細くなっているファルレアが心配でしょうがなかったから、自分たちが捕まえてきた『肉』なら食べてくれるのではと。自分たちの畑の野菜も使って、自分たちも手伝って作った料理を提供すれば、食べたいという気持ちが増えてくれるのではと。それにわずかな望みを託したいと思ったのだ。
フィオラがハンターについて知っているのは、ドラコメサ領にはハンターギルドというものがあって、そこでハンター登録をしないと狩りができないという事。
夜明けの一時間前から朝7時まで山や森に入ることを禁じられているのは、その時間はハンティングが行われているから獲物と間違えられるのを防ぐためという事。(草原や湖の様に見晴らしのいい場所は許可されている)
食肉用の魔獣を過剰に狩ることを防ぐためにハンターギルドが獲物の数を前日の夕方に決め、ハンターはそれを守らなければならない事。
それくらいしか知らないけど、これだけ知っていれば何とかなるだろうと思ったフィオラは、その為にもまずは武器の使い方を学ぼうと思ったのだった。
ということで、二人はそれぞれの護衛担当に「初心者ハンター向きの武器を教えて」と尋ねてみた。
するとリュドもガルシオも冒険者の経験がありハンティングもしていたので、それぞれが幼い頃につかっていた武器を教えてくれることになった。
フィオラの護衛のリュドは弓矢を、フォルトの護衛のガルシオはボーラと短剣を使っていたそうだ。
「ボーラ?」
「はい。縄の両側に石を結わえた得物の真ん中をもって振り回して、それを獲物の方に投げて足や翼に絡めて、動きを止める捕獲武器です。その後に短剣でとどめを刺していました」
(あ、前世で読んだ漫画に出てきた武器だ!)
『私』が読んだ漫画では靴を使って即席の武器にしていたはずだ。こちらでは、それのちゃんとしたものを狩猟用に使う人がいたのだなとフィオラは納得した。それに彼らに言わせると武器と魔法の相性もあるそうだ。
魔法属性はフォルトが闇・火・風で、ガルシオが火と風。そしてフィオラが光・水・土、リュドが火・土・水のそれぞれ三属性もち。属性の重なり具合から、それぞれの担当騎士が決められたという話は聞いていた。
「私が得意としていたボーラの場合、飛んでいく軌道を風魔法で安定させることで捕獲率を上げることができます」
「そして私が得意とする弓の場合、土魔法の集約の力を使うことで矢を獲物に当てる確率を上げることができます」
「得意としてるってことは、リュドは今でも弓を使っているの?」
「はい。この背負っている筒に弓と矢が入っています」
リュドが見せてくれた背中には、たすき掛けされた筒が確かにあった。姉弟が不思議そうに見ていたら、筒を下ろして中を見せてくれた。
「二つに分かれた弓は、こうして真ん中で継いだうえにグリップでそこを覆うことで強度を保ちます。これもイグ爺の作品ですよ」
リュドは説明しながら10秒くらいで弓を組み立てて矢をつがえていたのだが、弦が付いたまま二つに折れ曲がっていた弓の木の部分(弓幹)を軽々と継いでいた。もちろん弦に引っ張られて弓幹はかなりたわんでいたのだが、「身体強化の魔法を覚えるとできるようになりますよ」と説明された。それに納得したものの、驚きのあまり姉弟の口が空いてしまったのはしょうがないと言えよう。
そんな便利道具紹介を挟みつつボーラと弓矢の使い方と魔法での補助の仕方を教えてもらった。
ボーラは投げられるようになったら「風魔法で作る道」の上に乗せる感じで軌道を修正することができると言われた。
弓矢はどうしてもたわみながら進んでしまう矢を「土魔法の集約力で作る筒」の中をまっすぐ進むように誘導することで、的の中心に当てやすくすると言われた。
それがすでにできている二人はものすごく簡単そうに述べるものの、初心者には得物を使うことがまず大変だった。
ボーラは広がって飛んでくれないし、弓はなかなか引けないし、引けたところで矢が飛んでくれなかったりした。
一週間もすれば何とか使えるようになってきたが、今度はそれに補助魔法を加えようとして上手くいかなかったり、魔法に集中し過ぎて得物を放てなかったりと、二つのことを同時に行う難しさに四苦八苦していた。
その上、魔力量が高いフィオラとフォルトにはもう一つ気を付けなければならないことがあった。
「お二方の魔力量は今の私の3/4くらいあるとジャドが言っていました。ということは、すでに大人の平均魔力量を突破しているし、成長したら私より魔力量が多くなる可能性があります。魔力量が低すぎるのも問題ですが、魔力量が多すぎるのも問題がありまして」
そう説明しながら、リュドは的の後ろに土魔法で厚さ1mくらいの土の壁を作っていた。ガルシオはそれを見て、何も言わずに壁の後ろの後方に移動した。
「これから3回試射しますが、最初は土魔法を使わずに放ちます。次は筒を極限まで細く、小さな力で作った蜘蛛の糸のように細いガイドラインの上に乗せて射ます。ラストは一般の人に勧める“矢がぎりぎり入る太さの筒をイメージしたガイドライン”を使います」
「それは使う魔力量がどんどん大きくなるって事?」
「その通りです。では矢の動きも見ながら、的に当たるまでしっかり見ていてください」
フィオラとフォルトは頷くと、リュドの斜め後ろからしっかりと観察することにした。
矢のつがえ方、構え方、放ち方。そして放たれた後の矢の動きを4つの瞳でしっかり追った。
最初の一本は小さく振動しながら若干弧を書くように進み、的の中央から少しずれたところに突き刺さった。
次の一本は最初とは違い、一切ぶれることなく吸い込まれるように的の中心を打ち抜いた。
そしてラストの矢をつがえた時、土壁の向こうでガルシオが魔法を発動しているのを感じ取った。フィオラはなぜと一瞬疑問に思ったが、それはリュドが筒のガイドラインを構築した瞬間に吹き飛んだ。
誰からも感じたことのないほどのプレッシャーを、魔力の圧を感じ取った姉弟は、思わず身を寄せ合い互いの手を握り合った。
そして矢は放たれ的に当たった瞬間、後ろの土壁ごと的が一気に砕け散った。
「うおっ! リュド! お前、魔力全開にしたな!」
そんな非難の叫びが、土煙の向こう側で守りの盾を展開していたガルシオから上がった。しかし、それに応えるリュドの言葉はどこまでも涼しげであり楽しげだった。
「魔力の使い過ぎの例を示したかったし、何よりお前の訓練にもなるからな」
「先に言えよ!」
「言ったら訓練にならないだろ?」
いい笑顔で答えるリュドに、修練場にいた全員がドン引きしていた。
もちろんフィオラとフォルトも引いていたのだが、気が付けば二人の横にはデマロとアレクがしゃがんでおり、飛んできた細かい破片を防いでくれていた。
「お二方、よく覚えておいてください」
「リュドはああいう奴なんです」
ああ、私の護衛騎士はドSな性格をしているのねと、フィオラは意識を遠くに飛ばしそうになったが、ガルシオと共にこちらに戻ってきたリュドに気を引き締めた。
その顔は最初の厳しくも優しげな教師といった雰囲気に戻っていた。
「フィオラ様もフォルト様も、すでにジャドから魔力量を調節して使う訓練も受けていると思いますが、とっさに使おうとしてうかつに魔力を全開にしないように、頭に刻んでおいてください」
「……分かったわ」
「……心得ました」
「よろしいです。ではそれぞれ魔力で武器を扱う訓練に入りましょう」
こんな風にバタバタしながらも朝夕の合間の時間を使って武器の練習を続けた二人は、二ヶ月もすれ三重丸の的の二つ目の丸の中にほぼ100%当てられるようになった。
「うん、これだけできれば大丈夫よね」
「大丈夫って何がですか?」
「ハンターになりに行くわ!」
「……」
姉を一人で行かせるのは危険だと判断したフォルトは、翌日のリュドの休日を狙ってハンターギルドに出かけるという姉についていくことを即決した。
お読みいただきありがとうございます。
ボーラはMASTERキートンで主人公が即席で作っていた武器です。
なんとなく覚えていたので今回使ってみましたが、正式名称を探すのが案外大変でした。(日本だと分銅を鎖でつないだ分銅鎖があるのは知ってたんですが……)
Wikipedia先生ありがとうってなりました。
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引き続き、よろしくお願い致します。




