フィオラ6歳 そうだ、ハンターになろう1
1月に引っ越してからフィオラとフォルトは領地に関する様々なこと、書類の読み書き、農地経営・整地に関するノウハウ等々を祖父の代から代理をしている家令から教えを受けた。領地の範囲や地理、産業についてはフォルトが学習済みだったので、復習がてらそれをフィオラに教えていた。
馬車で道すがら見たやばい現状と、それに加えて書類等から読み取れる問題点を書き出したところ、改善しなければならないことが山積みで二人……いや家令も加わった三人そろって頭を抱えてしまった。
そんな中、いち早く浮上したフィオラがいいことを思いついたという顔で二人に提案した。
「とりあえず、どうすればいいのか、お父様の知恵を借りましょう」
「伯爵にですか? ですが……」
「役に立ちそうにありませんよね?」
家令が言いづらそうに濁した言葉を、フォルトが率直に言うものだから、家令は大きなため息をついてしまった。
「だからいいんじゃない」
にやりと笑うその笑顔は、幼いながらに悪役令嬢そのものであった。
まずは父親に書状を送った。領地の現状、バニョレスの様子、書類から得られるデータを添えたうえで「どうすればいいか大至急教えて欲しい」旨を書いた手紙を、召使に運ばせて確実に手渡してもらった。
しかし、当たり前というのか、2週間たっても父からの返事はなかった。
それではと、母の友人であり『貴族院の幹部で在らせられる、王弟殿下でもある公爵』に嫁がれた公爵夫人に、データ以外を手紙に書き記した上で問題解決の糸口は何かないかと尋ねたのだった。
するとそれから一週間もしないうちに夫人からいくつかの手立てを書いた書状が届き、その翌日に父親からの「なんてことをしてくれたんだ」の文句の手紙が舞い込んだのだった。
本当にいいタイミングとほくそ笑みながら、フィオラとフォルトは二人で文面を考えフォルトが丁寧な字で書いた手紙を父親に送り返した。
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お父上様へ。
聖竜様の息づかいも白く染まりそうな候、いかがお過ごしでしょうか。
私達、あなたの娘と息子は、領地をよりよくするにはどうすればいいかに幼い知恵を振り絞りながら、元気に頑張っております。
ところで『なぜ公爵夫人に相談したのか』のお答えですが、以前の書状に対するお父上からのご返答がないということは、お父上にはお分かりにならなかったと判断致しましたので、わかるであろうお方に相談させて頂いただけでございます。
それがたまたま母のご友人である公爵夫人だったというだけです。
そして相談の結果「支出を絞るのが一番良い」との話になりましたので、王都屋敷に一定金額を送る方法は中止させていただきます。
前にお送りした手紙で現状はご理解頂けるはずですので、収支見直しの為もあり、人件費を含めた王都屋敷の経費についても、こちらで一括管理させて頂きます。
また、領城の人員が不足しておりますので、王都屋敷の方は屋敷の維持とお父上様のお世話に必要な人数だけを残し、領城に異動してもらうことに致します。
また、お父上の服飾や交際に関する費用についてもお小遣いという名目でお渡しいたしますので、それでやりくりしてください。
それとも領城で領地の経営・発展に勤しんで頂けますでしょうか?
それが不可能で、かつ、お金がもっとご入用でしたら、自力で働いてお稼ぎくださいませ。
王都でのご健勝の程をお祈り申し上げております。
あなたが長子フィオラ・カリエラ&長男フォルト・オルトロスより。
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手紙を今度は家令に託し、ついでに王都屋敷の人員整理も行ってもらうようにした。
なんせ領城に来る意思があるかどうか、来ても来なくても給料が下がるがいいかどうかの確認をしなければならないから、ただの召使に託すことはできなかった。
(もしもやめるのであれば紹介状も用意しなければならないし)
屋敷には家令の息子が執事として働いているので、家令と共に早々に手配を済ませるのは分かっていた。そんな家令が戻ってくるのを待っている間、できるだけ母と過ごす時間を増やして、三人一緒に温室でのんびり過ごすようにしていた。
10日後、疲れているようだが表情は晴れ晴れとした家令が領城に帰ってきた。
屋敷にいた召使を10人ほど引き連れてくることができたので、これでまたいろいろ領城の整備に手が付けられるだろう。
15人ほど辞めたので、その分の人件費も浮くしと家令は少しほっとしていた。
「旦那様には『こんな雀の涙のお小遣いで妻や娘を養えと言うのか』と文句を言われましたが、『こちらといたしましては、何の連絡もなくあずかり知らぬ存在の方の費用は捻出できません。それは前回のご報告を見ていただければ明白かと』とお断り申し上げてておきました」
「すばらしいわ。ありがとう」
「あの人は、僕たちに結婚報告をしていないことを忘れているのでしょうか?」
「私たちのことなんてどうでもいいって思ってるんでしょうね」
「まあ、その方が気が楽ですね」
「とりあえず、正式な連絡が来るまでは知らないことにしておけばいいわ」
「そうですね」
そんな言葉を交わしながらサクサクと書類をさばいていく二人に、家令は複雑な感情を抱いたようだった。こんな幼い子供が苦労をしなくてもいいはずなのにと、嬉々として領地経営に打ちこむ二人が痛々しくもあると。けれどその感情を表に出すのは家令としては慎むべきだと判断したヨゼフは「お茶をご用意いたしましょう」とにっこり笑っていったん書斎から退出した。
その後父親から色々な文句の手紙が送られてきたものの「無い袖は振れない」「貴族院の指導に従っただけ」「相談は公爵夫妻へ」だけで押し通していたら数か月たって諦めたのか、手紙も送られなくなり、事業を新しく始めたという話が伝わってきた。
その合間にフィオラとフォルトは領城内の一角に畑を作り、自分たちだけで作れる野菜やハーブを育て始めた。
冬でも育つものを作り母にそれを見せたら「貴族のやる事ではない」というお小言と、「とても美味しそう」の称賛の両方を頂くことができた。
そうこうしているうちに5カ月が過ぎ、書類も姉弟で作成して父にサインをもらうだけの体制が整った7月初頭、学園を卒業したリュドとユルが同級生を数人引き連れてドラコメサ領に移住してきた。
驚いたことに、移住者の中には”ユルのなじみの鍛冶屋のオヤジ“も含まれていた。
彼、イグナシオ・ガエロはドワーフの様に背が低く体格のいい男で、まだ年齢も40歳と若かった。しかし、今のうちならまだ冒険ができると言って強引に息子にバルセロノの店を譲ったそうだ。
ユルに付き合ってドラコメサの地でのんびりと色々な新しいものを作り出したいからと、彼らの移住に合わせて一緒にここに来たそうだ。
最初は「ギルド街にそのうち店を構えるので、ご挨拶だけ」と言っていたのだが、フィオラとユルに丸め込まれて城の一角に工房を作り、そこで生活してもらうことになった。
「これで色々商品開発がしやすくなったわ」
「これで街まで行かなくても、いつでもいろんな道具を作ってもらえる」
と、フィオラとユルはほくほくしていた。
ついでにリュドも「俺の剣や防具も作ってもらえるか?」と聞いていた。
フォルトだけは(彼はのんびりできるのだろうか?)との疑念を頭に浮かべていた。
フィオラはさっそく「車いす」のアイディアをイグ爺に提案した。
(イグナシオさんとフィオラに呼ばれた彼が照れて「イグ爺でいい」と言ったから、呼び名はこれになった)
フィオラにはいまだにこの世界にある物ない物のバランスがよく分からない。しかし基本的に病人もけが人も治癒魔法や回復薬で治せてしまうから、ファルレアの様に長く病に苦しむ人向けの便利用品が一切ないことは分かった。
床に就くのは死ぬ直前くらいなので、寝付く時期と動ける時期を行ったり来たりする人は本当にまれだと、以前サンデス先生が教えてくれた。
しかも手足を失ったとしても神殿にいる高位治癒師に頼めば、日数はかかるものの生え変わってしまうために松葉杖さえないようだった。
ましてや、車いすなんてものはほとんど需要が無いからか、存在していないと言われたのだった。
(もちろん治療費はかなりかかるが、お金の足りない人や無い人は神殿の奉仕活動に参加することによって「健康になった体で返す」ことになっているようだ)
母の様に治癒魔法のきかない人は、死にゆく人たちと同じように体が弱ったが最後、ずっとベッドの上だけで過ごすことになるのが『常識』とまで言われてしまった。
けれどフィオラもフォルトも母と庭園を散歩したかったし、何より自分たちが作っている畑も見てもらいたかった。
だから座ったままで移動できる車いすがどうしても欲しいと、それを作れるのなら作ってほしいとイグ爺にお願いしたのだった。
もともと『私』の祖父が車いすを使っていたのを思い出し、構造も結構細かく思い出せたので、イグ爺も「これなら簡単に作れる」とひと月もかからず試作品を作り上げてくれた。
それを何度か改良したものが8月末までに出来上がるので、暑さが緩んだ頃にファルレアと共に城壁内をのんびり散歩することができるようになるのだった。
そして、もちろんこれのギルドへの提出書類を書いたのはリュドだったが、
「フィオラ様がこれからも色々発明されるおつもりなら、書き方を覚えたほうがよろしいです。ああ、イグ爺には期待しないように」
と告げて、フィオラにいわゆる『特許出願書類』の書き方を覚えてもらうのだった。
この7月の邂逅をきっかけに、様々な事柄が同時に、坂道を転がるように進んでいくのだった。
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