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フィオラ6歳 ドラコメサ領へのお引っ越し12

城壁内の道を進むと、やはりコの字のへこんだ部分に正面玄関があるようで、その場所は王都の屋敷と同じく中央に噴水が据え置かれたロータリーになっていた。

屋敷と違うのは、正面玄関の前には屋根が設けられており、その上はバルコニーになっているのか手すりが取り付けられていた。

そして馬車が城の正面玄関につくと、階段を5段ほど上がった扉の前に佇んでいた初老の男性がフィオラ達を出迎えてくれた。


「お久しぶりね、ヨゼフ」

「お久しぶりでございます、奥様」

「こちらがフィオラとフォルトよ」

「お初にお目にかかります、フィオラ様、フォルト様。私は領城の家令を務めておりますヨゼフ・ドラメスブロと申します」

「ドラメスブロということは、あなたは子爵家の出なのか?」


フィオラは何の事だろうと思ったが黙って聞いていた。

後にフォルトから聞いたところによると、ドラメスブロとはドラコメサの遠縁にあたり、ドラコメサに仕える子爵・男爵のトップに立つ子爵家だけが名乗れる苗字ということだった。

ドラコメサの領地街の整備を任されているのがドラメスブロ家で、それ以外に港町を管理する家と農家・酪農家をそれぞれ統べる家の4子爵家が配下にいるということだった。


「はい。私の父が2代前のドラメスブロ子爵で、子爵家は姉が先代伯爵の弟君を婿に取る形で継ぎました。私は領城の家令のお役目を先々代様から頂いております」

「そうなんだ。よろしくヨゼフ」

「よろしくね、ヨゼフ」

「よろしくお願いいたします」


開かれた扉から中に入ると20人くらいの使用人たちが出迎えてくれていた。

そこは広い横長な玄関ホールで、しかも吹き抜けになっていた。正面には奥の部屋に入るための両開きの大きな扉が二つあり、その両脇には緩いカーブを描いた階段が上の通路に続いていた。

通路はよく見れば吹き抜けを囲むようにぐるりと一周しており、これで玄関先のバルコニーに出られるようだ。

そして左の扉から『西翼』と呼ばれる建物の突き出た部分の西側エリアに案内された。こちら側がファミリーエリアで、南端にはガラスで作られた温室も併設されており、天候が悪くても家族でのんびり過ごせるようになっていると説明された。

その手前にはごく親しい友人と過ごすためのサロンと呼ばれる部屋があり、当分は使われないとのことでファルレアの部屋として整えられていた。

部屋にはベッドだけでなく応接セットも置かれているので、そこでヨゼフから色々と説明を受けることになった。


「私の部屋はここなのね。この子達の部屋は?」

「はい、二階に用意しております。本来なら最上階をお使いいただくのですが、ファルレア様のお体を(おもんばか)りまして……」

「それだけではないわよね」

「……はい。正直な所、家の中を整える使用人は先ほどの20名しかおりません。ゆえに掃除も整備も行き届かず、現状使えるのは二階までとなっております」


この規模の城を維持するには最低でも今の三倍は使用人が必要なはずだ。だから外の蔦も、中の上階が使えないこともしょうがなく、城全体が煤けて見える原因ともなっているのだろう。


「何故こんなことに?」


ファルレアのその問いにヨゼフはどうこたえるべきか悩んでしまったのか、なかなか答えが返ってこなかった。しかし、


「僕は次代のドラコメサとしていろいろ学ばなければならないと思っている。そのためにもこうなった原因を知っておきたい」


と、問いかけるフォルトの言葉に、ヨゼフはようやく重い口を開いたのだった。


「先代伯爵は領地に一切関心が無く、我々だけでは手が出せない部分もあり、様々な場所が荒れてしまいました。そのせいで領地収入も減り、領城どころか街道や村の整備もままならなくなってきております」

「村の整備……それには魔獣対策も含まれているのか?」

「その所為でエウスカの村は消えてなくなったの?」


子供二人の問いにヨゼフの顔から一気に血の気が引いていった。それが答えなのだろう。

ドラコメサの領地の現状とは正反対に、整えられ貴族として普通に過ごしていた王都の屋敷と生活がフィオラの頭に浮かんできた。


「普通に衣装がそろえられてて、食事の量も多いし夕飯なんて馬鹿みたいに毎日フルコースが用意されてたわ。そんな生活の中に居たら領地経営だって順調だって思うのが普通じゃない。なのに避暑地が寂れてるっておかしいって思ったら、全部王都での贅沢な生活のせいだったっていうの? 何よ、それ! くそ親父の父親もクソジジイだったんじゃない! 葬儀の時に温情なんてかけずにもっと文句を言ってやればよかった!!」

「ねえさま」

「え?」

「全部口から出ています」

「!!」


フィオラは心の中で遠慮なく悪態をついているつもりだったが、全て言葉となって口から駄々洩れていた。ああと小さく悲鳴を漏らしながらゆっくりと母親の方を見ると、ファルレアはとてもいい笑顔を浮かべて愛娘を眺めていた。


「フィオラ」

「……はい」

「もう一度淑女の言葉使いとマナーのおさらいをしましょうね」

「……はい、お母様」


ファルレアの優しく愛情に満ちた口調を、これほど怖いと感じたことはなかったフィオラだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。


漸くここでお引越しの章を終えることができました。

これを期にもうちょっとオープンにするというか、皆様におねだりをしようと思います。

もしも少しでも面白いと思っていただけたのなら、ぜひブックマークと下の星での評価をお願いいたします。

作者の励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


次回は閑話の予定です。バルセロノで出会った4人の話になります。

今後もよろしくお願いいたします。


※矛盾が生じたのでヨゼフの設定を変更しました。

 「兄が先代のドラメスブロ子爵」→「父が2代前のドラメスブロ子爵、先代子爵家は姉の夫で先代伯爵の弟」(2023.09.04)

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