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フィオラ6歳 ドラコメサ領へのお引っ越し10

フィオラ達はファルレアの症状が治まったら(いとま)する予定だったが、あの後ファルレアが熱をだし、それが引くのに2日掛かったこともあり、結果的に5日間お世話になってしまった。

3日目に熱が下がり始めたとはいえ母のことが心配だったのでフィオラはそばに居たかったが、せっかくなので遊びに行っておいでと姉弟は外に放り……送り出されて、護衛やリュドたちとバルセロノの街を散策することになった。

その時初めて寒いことに気が付いた。

バルセロノについて初めて降り立った大教会周辺もラフィリの家の敷地も、どちらも魔石を利用して温かい空間が作られていたらしく、敷地から出た時にコートを着ていたにもかかわらず寒くて震えてしまった。


「ここはセヴィロより寒いのね」

「気候的には変わらないはずですが……フィオラ様は繁華街だけ歩いたのでは?」

「うん。あ、観光馬車にも乗ったわ」

「あそこは商業都市ですからね。馬車はもちろん商店が立ち並ぶ大通りにも魔石を使った保温結界魔法が掛けられていますよ」


リュドによると、商業都市の商店街にあたる場所の街灯は発光魔法で夜ひかる魔石と、範囲指定で空気を温める保温結界魔法の魔石が設置されていて、そのおかげで冬の冷たい空気にさらされることなく、のんびり買い物ができるようになっているそうだ。

商店街で商売をする店主たちは商業ギルドにその分多めに場所代を支払わねばならないが、それでもその方が儲かると考えているようだ。


「だったら、温泉街もそうしたほうがいいのかしら?」

「そうですね……過ごしやすい程度にしておいた方がいいかもしれませんね。あまり暖かいと温泉に入る気持ちがなくなる可能性もあるので」


確かにと思いながら、温泉街を再構築するときの参考にしようとフィオラは思った。

二人は地元民の4人にジュースや串焼きを売っている屋台から魔道具屋や文房具などの小物雑貨を扱う店だけでなく、冒険者ギルドや商業ギルドにも案内してもらった。

温泉街の話を雑談の中でしたからか、皆が街をつくるのに役立ちそうな場所に案内してくれた。

買い物をしていると、騎士の隊服に描かれた左向きの聖竜のマークを見て「ドラコメサの子供」と気づいた人たちが、「あの時運ばれたのは母親だったそうだ」という噂をもとに話しかけてきて労りの言葉をかけてくれた。ついでにおまけも。

どうしての問いかけには、「静養のためにドラコメサの領地に帰るところだったのだけど、急だったので……」と言葉を濁して話しておいた。きっと尾びれどころか背びれもつけて、王都まで噂を流してくれるだろうとフィオラは心の中でにんまりした。



色々な意味でホクホクしながら家に帰ると、家の中がバタバタしていた。

すると玄関正面にある部屋からラフィリの声が飛んできた。


「帰ってきたなら手伝いなさい!」


その声を聴いて脊髄反射の様にリュドたち4人は声のした方に駆け出して行った。

まさか母に何かあったのでは?とフィオラ達も行こうとしたが、それは家に残っていた騎士に止められた。


「ファルレア様は大丈夫ですが……その、先生が産気づかれて……」

「えっ!?」


すぐにリュド以外が外に飛び出してきて、お湯の準備やタオルの準備をし始めていた。玄関わきの部屋に入っていくジャドを目で追っていたら、その間にある階段にフォルトより小さな子供たちが肩を寄せ合って座っているのが目に入った。

フィオラはフォルトを連れてそこに行くと声をかけた。


「どうしたの? あなたたちは、だあれ?」

「あたしはグラナ、こっちはグヴェル。貴族のお客様が来てるから下に降りちゃダメって言われてたけど……ママに会いたくて」

「……ラフィリ先生のお子様なのね? 私はフィオラ、こっちは弟のフォルト。よろしくね」


そんな風にあいさつを交わしているときだった。「もう駄目!」「アレク(にい)が産婆さんを呼びに行ってるんだろ! 我慢してくれよ!」「慣れたもんでしょ! 受け止めなさい!」「またか!」という姉弟の言い合う声が苦痛を我慢する悲鳴の間に差し込まれていて、そしてラフィリのくぐもった叫び声の後に、


「ぅああぁん! ああぁん!」


という可愛くも力強い声が部屋の中から聞こえてきた。

逆に玄関からは、


「あああっ!!! また間に合わなかった!」


というラフィリの夫アレクスの絶叫が聞こえてきた。



その後も色々とバタバタだった。

ラフィリに陣痛が来たのが、フィオラ達が返ってくる20分くらい前というスピード出産だった。産婆さんに後処理を任せて、リュドは慣れた手つきで生まれたばかりの赤ん坊の処置をしていた。

子供たちは入口から入らないように指示され、小さな子供を少し大きな子供が抑える形で待っている間に、部屋の中は奇麗に片づけられた。入っておいでとリュドに言われた時には、奇麗なベッドの上に体を横たえたラフィリの腕の中に、生まれたばかりの小さな赤ん坊が抱かれていた。


「あなたたちの妹のリリアよ」


可愛い赤ちゃんを見せてもらっていたらフィオラは母に会いたくなったため、「見せてくださってありがとう、ラフィリ先生」と告げてからフォルトと共に部屋を出て行った。

そして母の病室に行くと産声に反応して目を覚ましていたらしく、それに気づいたジャドとセティオがそばについてくれていた。


「かあさま。可愛い赤ちゃんが生まれたの。それでね、フォルが生まれた時のことを思い出したわ」

「そう?」

「あまりのかわいらしさにほっぺにちゅーしたのよね」

「ええ、そうだったわね」


自分の知らない自分のことを可愛いと言われてむずがゆくなったのか、フォルトは話題を頑張って変えさせた。


「……それよりもリュドがすごかったんです」

「リュド……ドラゴミリの彼が?」

「はい。一人で……えーと、あかちゃんが生まれる手助けをしたんです。その後に、赤ちゃんを洗ってあげたり、拭いてあげたり、すごくテキパキしていました」

「リュドが一人で赤ちゃんを取り上げたの?」


ファルレアが心の底から驚いていると、ジャドとセティオが教えてくれた。


「3度目ですからねえ」

「3度目?」

「ラフィリ先生には私たちと同じで、姉と弟ってお子様がいるの」

「上の女の子の時は雪に閉ざされてしまっていて、産婆さんが来られないどころか夫君のアレクスさんも帰れず、姉に言われるがままあたふたと頑張ったと言っていました」

「それに反省して、二人目を妊娠しているときにリュドは勉強しましてね。そのせいなのか……長男の時は、入学試験の少し前にラフィリ姐さんがリュドを連れて隣村に診察に行った帰りに、馬車の中で産気ついたそうで」

「その場にあるものを使って取り上げて、産後の処理まで完璧にして、急いで帰ってきたのですよ」

「そのせいで荷馬車が血まみれで大騒ぎになりました」

「あらあら……リュドはすごいわね」


リュドの雄姿を聞いて楽しそうに笑う母を、母の笑顔を久々に見られて、フィオラとフォルトはとても幸せな気持ちになったのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。


調子がいい時に書き溜めたストックがこれで切れるのと、夏休みでバタバタしているために、次回の更新は遅れると思われます。

申し訳ありませんが、のんびりお待ちください。


……待ってくださってる方がいると信じて頑張ります(`・ω・´)キリッ


※時系列がおかしな部分があったので修正しました(2025/02/10)

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