フィオラ17歳 学内の森での実習も大変でした2
今日は天気が良く、森の中は散策日和だった。
4時限目は15時から16時と陽が傾きかけているものの、斜めに当たる日差しが程よく森の中を照らしていた。
フィオラも時折森の中を『守りの盾』の訓練をしながら散歩をしているが、こうしてパーティーを組んで歩くというのは初めてで、とても新鮮な気分だった。
経路の1/3くらいのところに最初の木札があり、そこには『ここから護衛対象はおしゃべりをしながら歩くこと』という課題が書かれていた。
教師がついて来ていない以上確認されることはないが、それでも警護役の訓練になるのならとフィオラは周りに話しかけることにした。
「ふふ、マリエラ様は本日もドレスなのですね。でも外出用にしても裾が普段よりも短めなのですね」
「ええ。これは昔ピクニック用に作らせたものでしたの。けれど最近は少し裾の長さが合わなくなって素足が見えそうかしらと心配になりましたの。ですから、装飾を減らして実習用に変更させましたわ」
「確かにショートブーツではあられもないお姿になりそうですわね」
「そういうフィオ様も珍しく体操着でのご参加ですのね」
「ええ。わたくし一応後衛役でもありますけど、高位貴族の当主がそれではよろしくないと護衛から指摘されまして。何事もなければ護衛対象でいるようにと、いつものハンター服はダメだと言われてしまいましたの」
王立高等学園の必須科目に体育はないものの、魔法学の実技や学校外での実習の時は学校指定の運動着と呼ばれるものを身に着けることになっている。
しかし専門科目の騎士コースや魔道士コース、武術実習などの授業の際は、各々が一番動きやすいと思う服を使用していい事になっている。
ビアやクラジャは普段冒険者として行動するときの服装で、胸から肩、前腕、脛といった部分を薄くて丈夫なアーマーで覆っていた。
その下は普段フィオラがハンター着と言っているのと同じ、シャツにベスト、ズボンにロングブーツという格好だった。
それに対して運動着は茶色の革製ベストに男性はブーツカットのスラックスに女性はフレアスカートのようなシルエットのガウチョパンツで、どちらもベスト同様茶色をしている。
そしてベストには制服同様押し模様で小さな蔦とバラが描かれ、同じものがズボンとガウチョパンツの裾にライン模様として刺繍され、胸には学園のマークの焼き印が押されていた。
中に着るシャツは白から生成りで形は自由と言われているので、フィオラは生成りで丸襟の、袖がふんわりとしたタイプのブラウスを着ていた。
袖口を締める部分の布を長くとってあるので、手元がすっきりして野外活動に向いているとして好んで使っている。
そしてマリエラが裾の長さの話をしていたが、この国では女性が素足を見せるのは宜しくないと言われており、体操着やピクニック用のドレスはショートブーツで素肌が出ない長さ、だいたい足首位までの長さとされている。
外出用ガーデンパーティー用でくるぶしの長さ、室内パーティー用の場合は靴が見えるのもよろしくないとして、引きずるくらいの長さのものになる。
ただし長距離移動用としては、悪路で外に出なければならない場合も考えて、脛の中間くらいの長さでロングブーツをはくことが前提になる。
マリエラのドレスは背が伸びたことでピクニック用と長距離移動用の中間の長さになってしまっていたのと、すでに流行遅れになっていたので、実習用のドレスに改造されたようだった。
他の護衛対象役の者もやはり長距離移動用の格好か体操着を着用しているし、治癒師のグネスは準シスターの活動着で裾の短めのものを着ていた。
そんな話を平民文官の男性に振り、働くようになったらそういう部分もしっかりと見て、相手がどういう人物かを、TPOを守れる人間かどうか見る判断材料にするといいという話で盛り上がっていた。
そうこうしているうちにルートの半分を過ぎ、もう少し進めば2枚目の木札があるはずだと先導役のビアとクラジャが地図を見ながら確認を取っている時だった。
「! フィオ、守りの盾!」
突然森の奥からあり得ないほどのプレッシャーを感じたビアが命じ、フィオラがそれに応じるように『光の守りの盾』を展開すると、盾が火炎を跳ね返していた。
それを見た瞬間、マリエラとフィディは信号弾を放ち、ビアは前方へと飛び出していった。
「魔道士は後方と左右の警戒を、護衛対象は学んだ通りの陣形で固まっていてくれ」
リーダーのクラジャはそう命じてからビアを追って行った。
火炎が一度途絶え、その先に居るモノをようやく確認できた。
そこにいたのはAクラスの蛇型魔獣火の蛇だった。
鎌首を上げた火の蛇の顔は5m以上の高さにあり、太さは直径1mを超えるのではという巨体で、全長は軽く15mを超えるだろうと推測できた。つやつやとした鱗は黒檀のように黒く、瞳は高温の炎のように青白く、口の中は鮮血のように赤く、同じ色をした二股に分かれた舌がチロチロと覗いていた。
高温の炎の威力はすごく、守りの盾を展開したフィオラの魔力はそれだけで1/4も削られていた。
このままではシャレにならないと思ったフィオラは、脳内の魔獣学の教科書をめくり、炎を一度吐くと次に吐くまでに3分以上は間が空くというのをなんとか思い出した。
「フィオ! 3分後にまた盾を展開しろ!」
それをビアも分かっているのだろう。だとしたら。考えたうえでフィオラは最後尾にいる魔道士二人に声をかけた。
「どっちか氷魔法を使えたよね!?」
「俺だ」
「じゃあ前半分は私が守るし、後ろ半分はもう一人で守ればいいから、あなたは氷の大きな塊を、火を噴くために大きく開けた口にぶち込んで!」
「わかった!」
前で闘っている二人も今の声は聞こえたはずだと判断し、フィオラは3分後、再び火の蛇が火を吐くために口を開けようとした時に指示を出した。
「今よ!」
その声を合図に攻撃手二人は木の上に避難し、魔道士が『アイス・ブロック・バレット』で火の蛇の口を見事にふさぎ、フィオラは念のため光の盾を展開して物理攻撃に備えた。
苦しむ蛇は尻尾を振り回し、土塊をパーティーの方に飛ばしてきたが、それは守りの盾に防がれ、こちらに注意が向いて首を伸ばした瞬間に上から二人が降ってきた。
『斬撃!』
『加重!』
「くっ、固い……」
「怯むな『加重!』」
ビアがクラジャの剣にも加重魔法をかけ、二人で首を落としにかかるも、半分も入らないし、暴れる巨体を抑え込むのに精いっぱいだった。
その時だ。
「そのまま耐えろ!『加重!!』」
という声と共に降ってきたのはリュドだった。
リュドは二人の剣を足で踏むと再び『加重!』と重ね掛け、手のひらでも強く剣を押した。
その波状攻撃にさすがの鱗も耐えられなかったのか、暴れる体のドシンバタンという抵抗の音は、バキバキと鱗が割れていく音が終わる頃に静まった。
「フィオラ様、ご無事ですか?」
「魔力をごっそり持っていかれたけどまだ平気。皆は大丈夫?」
「大丈夫そうですわ。転んでくじいた方もグネスが治していましたし」
「それでは移動しましょう。ルートをそのまま進んだ方が……」
戻るより近いとリュドが進言しようとした時だった。
ここから少し離れたところで信号弾が発射された音が聞こえた。
「あちらの方が大変そうですね。ビア嬢、クラジャ、行けるか?」
「行ける」
「行けるが、だれか蛇を運んでくれないか」
「私がまとめて、軽減魔法……使える方がおられますので、運んでいただきますわ」
「リュド、私も行くから運んで!」
「わかりました。あとの護衛と誘導は任せた!」
「任された! 行け、リュド!」
残していくメンバーをマリエラの護衛のリアムに任せると、フィオラを左腕に担いだリュドと、身軽なビアとクラジャは、信号弾を放ったであろうBグループのもとへと急いだのだった。
お読みいただきありがとうございます。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
やはり変に追い込むと書けないようで……書く気力がわくまではマイペースで頑張ろうと思います。
あまり思いたくはありませんが、コロナの後遺症だったら嫌だなあってなっていますorz
コロナに掛かってから書く気力がわきにくくなっている気がするので……皆様、予防を怠らないようにしましょう。
って私も気を付けます><