フィオラ17歳 初等科最後の学期が始まります
フィオラの誕生日が1月1日で、フォルトの誕生日が1月6日と1月の最初ということもあり、また1月16日の教会の供儀に合わせてバニョレスでの1月14日土曜の礼拝は大司教が行うために、この時期に多くの貴族が竜都を訪れる。
それに合わせて土曜日の夕方にフィオラとフォルトの合同の誕生日会と称したパーティーを行うのが6年前からの定番になっていた。
小さなころは子供がメインのパーティーだったが、フィオラが学校に行き始める前年からは大人がメインのものに切り替えていた。
最初の年は少しくらい失敗をしたところで目こぼしをしてくれるというか、それすら尊いと拝みそうな教会派と、そこまでこだわらない中立派と呼ばれる人を招待した。
2年目は色々と学ばせてもらうという態度で接しても許されるし、実際にいろいろ学ばせてもらえた国王派の人を招待した。
そして3年目の今年。失敗も許されなければ何かあれば突っ込みを入れてくるであろう貴族派の人を招待した。
貴族派はあわよくば国王から実権を奪い貴族議会で政治を動かそうと目論んでいる集団で、それほど数は多くないものの高位貴族から下位貴族までまんべんなく所属し、何なら聖竜様への対応すら貴族の代表がすべきだと思っている過激派さえもいる。
子供のうちにそんな人たちに会うと何をどう言われて、どう言葉尻を取られるかわからないと警戒し、子供メインのパーティーの時は一切呼ばなかった。
そして思った通り、嫌味やさりげなく国王派を貶めようとする発言で姉弟を罠にはめるか貴族派に引きずり込もうとする人がほとんどだった。
「いい勉強になりました」
と、フォルトにとっては有益なパーティーだったようだが、
「二度と貴族派だけのパーティーはしたくないいいいい!」
と、フィオラにとってはストレスしか溜まらないものだった為、翌日曜日は若干荒れていた。
その勢いのまま16日の教会の供儀にフィオラ達も同行し、久々のBBQ宴会を楽しみながらもフィオラの愚痴を聞く場となったのだった。
フォルトも公的に成人とみなされ、酒が飲める歳になった為に樽のエールが2樽空いたせいもあったのかもしれない。
「嬢ちゃん、そんな愚痴をここで垂れ流していいのかよ」
「いいの。ここで言ったことは秘匿されるって自信も信頼もあるから」
「そんな信頼いらんのう」
「ったくだ」
「お貴族様のストレスを知るといいわ」
そんな八つ当たりも遠慮なく放たれたが、焼き立ての肉も外で飲むエールも美味しく、それなりに楽しい宴会だった。
翌々日の朝、姉弟は領城と竜都の人たちに別れを告げ、その日は教都に一泊しつつ聖ドラゴン教の聖職者たちとの会合を済ませた。昼過ぎにグネス達と合流して次の商都に向かいやはり一泊し、翌朝金曜日にフィディを拾って王都に帰り着いた。
姉弟は王都についた日は屋敷に泊り、翌土日は寮で新学期の準備に精を出した。
そして1月23日の月曜日。フィオラ達の初等科最後の学期が始まった。
初等科2年のA組には平民の文官と騎士がそれぞれ一人ずつ最下位に滑り込んでおり、二人にはスポンサーがついているので上の専科に上がることが決まっていた。
ちなみに騎士のスポンサーはリュドで、冒険者として知り合い交流を深める中で彼が王宮騎士団に入りたいと望んでいるのを知り、授業料を無利子・出世払いで返すことを条件に後見人となったそうだ。
前世の奨学金みたいなことを個人でやることもあるんだなあとフィオラは感心した。
その話を昼食後のデザートタイムに友人たちに振ったことがあるのだが。
「……ということなんだけど、ちょっと疑問に思ったのよね。社会の制度や業種として、そういうものがあってもよさそうなのに聞いたことがないなあって」
「その昔はあったそうですわ」
「そうなの?」
「けれど金利を高く設定する団体が増えたとか、踏み倒して国外に出る人も出てしまって、結局貴族が就職契約を結ぶタイプの支援だけが残ったと言われておりますの。あとはリュド殿のように信頼した者に無利子で貸す感じですわね」
「ふーん、そっかー」
前世でも奨学金って大変そうだったから、利子のつかないものが残ったって感じなのねとフィオラは納得して終わった。
後期は前期と違いテストが二回ある。ただ、次の中間試験と言われるテストは専門科目だけが行われる。
中間テストは筆記が4月16・17の二日間。それにプラスして2年次は4月3日に学内の森でパーティーを組む実習が、専科では4月2~3日の二日間で各コースの実習試験が行われる。
卒業することが決まっている初等科の2年の平民と4年次と呼ばれる専科2年の生徒は、これらで進路が決まることになる。
それ以外の生徒に関しては次年度の専門コースのレベル分けに使われる。時には違うコースを進むように説得される材料になるそうだ。
4月は人事査定される時期であり、学園の卒業生でまだ就職先が決まっていない人が就職活動をする時期でもある。5月の最初の週が人事異動の時期になるため、そこまでに就職先を決めるのが一般的だ。
卒業生は中間テスト終了後から春休みとなるため、そこまでに進路が決まっていればのんびりできるので、帰省するものが多い。そして5月からは職場での研修が始まる。ただしドラコメサのように王都から遠い地域に就職する者たちは学園内で研修が行われる。
それが6月の第2週まで行われ、卒業式までの残り2週間が就職移動準備期間となり、ここでも帰省する人もいる。引っ越し準備と共に寮の荷物を実家に運ぶという名目で。
ちなみに在校生はこの時期に期末テストを受けることになる。
また5月1日の日曜日は新緑祝いと称した新しい門出を祝う祭りが行われる。異動・転職する人や就職する人に応援メッセージを書いたカードや小さなプレゼントを贈る習慣があり、歓送迎会を行う職場もある。
こんな感じで後期の4月以降はバタバタと忙しくなる。
その所為か、2月14日のバレンタインに当たるアモデヴィラの日、3月1日のアーモンドの花をでながら春の訪れを祝うミグダロ祭り、3月14日のホワイトデーに当たるアモデヴィロの日と続くこの期間は世間がとても華やかになる。
アモデヴィラの日は女性から男性に、アモデヴィロの日は男性から女性に、贈り物と告白をする日であり、渡した食べ物を一緒に食べるのは婚約者や配偶者とだけと暗黙の了解がある。
その間にあるミグダロ祭りは女性も男性も生花の飾り物を身に着けて、屋外でのお茶会や日本の花見のようにピクニックを、花を見ながら楽しむのが風習だ。
今年はドラコメサの屋敷の池のほとりの東屋で、池を挟んだ向かいに並ぶミグダロの花を見ながらお茶会をしようとマリエラを除いた4人と約束を取り付け、それとマリエラが行く王家のピクニックの話を聞くのがとても楽しみだと友人と歓談しながらも、フィオラは若干の不安を感じでいた。
第二王子とフロラの接触がゲームよりも半年ほど早くなっている上に、現在仲も良くなっている気がすると。
そして「アモデヴィラの日とアモデヴィロの日に渡した食べ物を、一緒に食べるのは婚約者や配偶者とだけ」というお約束がフラグになっているのではないかと、気になってしょうがなかった。
そしてお約束はフラグの方のお約束が発動し、2月14日の竜教の礼拝の後に、とあるカフェで第二王子たちとフロラが会い、皆でクッキーを食べながら楽しそうに話していたという噂が、学園内でじわじわと広がっていた。
「下賤な噂に振り回されるのはどうかと思うんだけど」
「残念ですが、噂ではありませんわ、フィオ様」
「え……フィディ、それってどういうこと?」
「私も見たからです」
「何を!!??」
フィディはその日、母親と共に他の商会長の奥様や娘たちと一緒に、有名なレストランで遅い昼食をとることになっていた。
個室のある2階に案内されて廊下を歩いていると、奥から二つ目の部屋は扉が開いた状態で護衛と侍従たちが立ち並んでいた。
中はしっかり覗けないように入口付近に小ぶりのパーティションが置かれていたが、だれがいて何をしているかをうかがい知ることはできた。
「それはもう楽しそうに笑いながらドラコメサ嬢を含めた5人で“いかにも手作りです”といった感じのクッキーを食べている様子を、開けてあった扉から」
「あああぁぁぁ」
「ちゃんと扉を開けておくだけ紳士淑女の礼儀は守っているようだが」
「アモデヴィラのお約束はお守りになられなかったようですね」
「そんな中途半端な礼儀いらない……」
満開のミグダロの花を眺めながら嘆くフィオラは友人たちに愚痴を聞いてもらうとともに慰められていた。
ありがとうと感謝の意を述べた後はせっかくの宴会なのだからと楽しい話に興じることにした。
問題は一切解決していないものの、友人たちとの楽しい時間と平和な風景に、フィオラの心は少しだけ軽くなったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
新学期が始まったことと、フロラが予定よりも早く行動していることと、なにより今後のスケジュールを知らせる回となりました。
一応プロットを作ってはあるのですが、それでもいろいろ前後したり、省いたり入れ込んだりと考えているとなかなか筆が進まず、かなり時間が空いてしまいました。
寒いのもありますがorz
書きながら仕上げていくというのは大変だなと、しみじみしながら頑張っております。
皆様の評価や、最近増えていたリアクションに力を貰っております!
今後もよろしくお願いいたします♪