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フィオラ17歳 楽しい冬休みに特別な剣を作ろう

※誤字報告ありがとうございます。

王立高等学園は前期の試験も終わり、追試期間という名の自習期間に突入した。

成績は相変わらずで、ドラコメサの姉弟とマイセントラの姉弟が1位2位を独占したと学園で注目を集めた。しかし、王族である第二王子、第二第三王女より上の成績を取るなんて不敬なのではという風評も立っていた。

「もうどうでもいいわ」と姉二人はぼやいていたが、弟二人は去年の姉たち同様「王女殿下たちに頑張ってもらわなければ」と零していた。

ただ、当の双子の王女たちは「気にしなくてよろしくてよ」「大事な臣下たちが有能なのは心強くてよ」と、その件を全く気にしていなかったそうだ。次兄とは違って。

ドナコデディオの日は姉弟の友人たちがマイセントラの邸宅に集まり、邸宅の使用人も含めて楽しい時間を過ごすことができた。

プレゼント交換も『金額を決めたギフトを一人が一つ用意して、輪になってぐるぐる回して、止まったところの物を頂く』という前世で定番だった交換会を行ったところ、大いに盛り上がることができた。

何はともあれ、テストも無事に終わって誰も成績を落とさなかったし、ドナコデディオの日も皆で楽しめたし、自習期間には各々専門分野の勉強ができたので、かなり充実したものとなった。


そして冬休み。今年の移動は去年より二日遅れの出立となった。

国に出す書類は自習期間にほぼ作成され、締め日である21日までの分の修正をすればいいだけにしてあった。

22日の午前中にデータを受け取り、午後の早い時間に書類を仕上げ、23日の朝に役所に提出した足で王都を出発した。

そして去年と同じように商都で二泊して楽しく買い物をし、25日の夜に竜都の領城にたどり着くことができた。

翌26日は領城に住んでいないガスパルドたちと各ギルド長へのお土産を配り、ついでに竜都の視察を行った。ハンターギルドではお土産を渡す名目で供儀の代行をしているハンター長をねぎらったが、ドラクへの愚痴を聞くのがメインになった。

その後は温泉宿を含む直営店や姉弟の持つ店に顔を出し、この4ヶ月で新しく出店した店をこっそりのぞきに行き、最後はカフェ・リュドルクで休憩しつつ新作のスフレチーズケーキに舌鼓を打った。

街はきれいに整備されているし、お店や宿もにぎわっているしで、領主姉弟は嬉しいねと微笑みあえた。

27日の朝には仕事納めならぬハンティング納めとして、ハンターの資格を持っている護衛を引き連れて狩りを楽しみ、野牛と大猪を一頭ずつと、軍鶏をはじめとする魔鳥を10羽ほど仕留めることができた。

魔鳥類はさっそく翌日のパーティー用に捌かれ、下処理がされた。

そして翌28日の大晦日は午前中に教会へと今年最後の礼拝に赴き、その後宴会用の飲食物を姉弟も加わって用意し、夕方からは飲んで食べて歌って踊ってという恒例の無礼講宴会が催された。

そして0時の鐘を合図に新年とフィオラの誕生日を祝い、朝まで騒いで過ごしたため、その後警護当番以外は眠りについたため、領城はとても静かになったのだった。



その日の午後過ぎだった。フィオラがキッチンに飲み物を貰いに行くと、そこには料理人たちが夕飯の仕込みをするために働いていた。そしてその脇で、休憩スペースで何やら話し合っているリュドとイグ爺にも遭遇した。

真剣に話し合っている姿に、ユルからホットミルクを受け取ったフィオラは、合流してどうしたのかと問うてみた。

二人の話を簡潔に書くと、長年研究していた魔石を練り込んだ大剣製作がなかなかうまくいかないと。リュドの第一魔法である火属性に特化したクズ魔石を混ぜた武器を作ろうとしていたが、元となる鋼を作る工程で混ぜると魔石が炉の高温に負けて爆ぜるか溶けるかしてしまうらしく、火魔法を帯びるという特性を持たせられなかったということだった。

こちらの世界というか、この国の武器の作り方は高温で溶かした鋼を型に流し込んで成形する『鋳造(ちゅうぞう)』と熱した鋼を叩いて延ばして形を作る『鍛造(たんぞう)』を組み合わせた感じになる。鋳造で基本の形を作り、それを火か土、もしくはその両方の魔力を込めたハンマーでたたいて鋼をさらに強くしながら形を整える方法だ。

元の世界の玉鋼にあたるものを、砂鉄やこちらにしかない特殊な金属――オリハルコンやミスリルにあたるもの――を某アイドルが作った反射炉に似た、さらに高温になる魔鉱炉でドロドロに溶かして作る。

その時に混ぜたら魔石が爆発したらしい。

ならばと、高温になっている玉鋼に魔石を混ぜて型取りして叩いて強度と形を整えたら、爆発はしなかったものの玉鋼が柔らかくなり魔石は一切反応しないという、強度の弱いただの剣しかできなかったそうだ。


どうしたものかと首をひねっている二人の横でフィオラは(そういえば日本刀は鍛造だけで作っていたなあと)思いだしていた。その瞬間、フィオラは未だたまにある記憶由来の頭痛に襲われた。

四角い鋼を打ち延ばしては折り、打ち延ばしては折を15回繰り返していくうちにあの形に整えるってすごい技だなと、テレビで特集していた映像を思い出していた。

低温で熱した玉鋼を軽く叩いて、少しずつ高温で加熱して、厚さ5㎜まで叩いて伸ばしたら水につける。それを砕いて断面がきれいな玉鋼とそうじゃないものを分け、それぞれを積んで熱して叩いてを繰り返して、固い方を外側に柔らかい方を内側に包んで熱して叩いて、形を整えたのちに最後の焼き入れと水入れを行っていたはずだ。

そこまで思い出して頭痛がやんだのでほっとして頭を上げると、ちょうどユルがデザートの下ごしらえをしている所だった。


「ねえ、イグ爺。だったらあれを真似したら混ざらない?」

「あれ?」

「ん、なに?」


注目されて驚いたユルの手の中には、作っている途中のパイ生地があった。


「小麦粉を練った生地にバターを挟んでたたむと生地とバターの層に別れて、その結果パイ生地は層を保ったまま膨らむのよね?」

「そうだよ」

「それと同じように鋼と鋼の間に振りかけて、折りたたんでから剣の形にしたら何とかならないかな? 粒状のものだから15回も折り畳めばまんべんなく混ざるだろうし、加熱は溶ける直前でやめればいいと思うんだけど、どう?」

「うーむ、しかしなあ、強度が変わらない可能性があるでなあ」

「だったら、魔石を混ぜた鋼と混ぜてない鋼を用意して、サンドイッチみたいに固い鋼で柔らかい鋼を挟んで、さらに叩いて形を整えたら何とかならないかなあ?」

「そりゃあいいかもな」


熱いうちに水に入れて強度を増す方法は、確かここの武器づくりではすでに使われている手法なので、イグ爺なら思いつけるだろうと信じてそこまでは言わなかった。

そうでなくとも藁で包んだり土に入れたりしていたけど、それがどうしてかは思い出せないのでフィオラは口に出すのをやめておいた。

その後リュドとイグ爺が話を煮詰めだし、フィオラがホットミルクを飲み終わるころには終了し、二人はそのままキッチンから出ていった。


(……まさかこれから試す気?)


そう小首をかしげていると、夕食後にユルから「リュドは明日明後日と休みを頂きます」という伝言という名の報告が入った。戻ってこない二人に夕飯の配達をしたら頼まれたということだ。

どうやらあれからフィオラの言った方法で魔剣製作を始めたということだった。


「だったら休暇じゃなくていいわ。2日間リュドは護衛任務以外につくってことで、騎士団の方に連絡を入れてもらっていいかなあ」

「了解♪ 護衛できない件はもう報告済みだから、休みにしなくていい事を伝えてくるね」

「お使いを頼んでごめんね」

「どういたしまして。フィオラ様も早く寝ないとだめだよ。寝不足はお肌の天敵なんだから」

「ふふ、分かったわ。ありがとう、ユル」


フィオラは魔剣が上手くできるといいなと思いながら、楽しい気分で夢の中に落ちていった。

そして翌々日の夕方、魔剣の試作品ができたとリュドとイグ爺がとてもいい笑顔で姉弟に剣の威力を見せてくれた。

リュドの火の魔力を剣に流し込むと高温の炎をまとい、そのまま切りかかると斬撃と炎撃の両方を与えられるとイグ爺が教えてくれた。

今はまだ2撃位しか使えないけど、これからもっと研究してせめて10回ぐらいは持つ強度を出して見せるとイグ爺は息巻いていた。

一年後には納得のいく魔剣ファイアーソードが出来上がり、ついでに光属性を持つ魔石を練り込んだ特殊な矢尻がフィオラに贈られたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


帰省って疲れがたまるというか、何と言いますか……閑話を一つ、3日に自動でアップできるようにしておいて本当によかったなと思うくらい、何もする気が起きませんでした。

ここ一週間でようやく気力が復活しましたorz

来週からは頑張ります( -‘д-´)←宴会が一件入るので若干不安ですがw


うう、誤字も直さないとなと思いつつ、元のデータの方を直す作業が面倒くさくて進んでいませんが、そちらのやる気が出たときに一気に行えると思います。

その時まで、どうか誤字報告の方、よろしくお願いいたします!


※日本刀の作り方はここを参考にして書いています。

名古屋刀剣ワールド/名古屋刀剣博物館:刀剣の豆知識「刀剣ができるまで

https://www.meihaku.jp/sword-basic/touken-making/

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