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フィオラ16歳 第一王子にも苦言を呈します2

いったい何がと王太子は目を白黒し、リュドに目で制されていた護衛陣は大きくため息をつき、真意を察したヤクエスは天を仰いでやれやれと呟いた。


「あ、マリエラ……」

「ごきげんよう、アントニオ様。ヴェンキント殿とヤクエス殿も」


マリエラが挨拶をしたのを皮切りに、子女たちは全員挨拶をしあった。

その後王太子の誘いもあり、12人でお茶をすることになった。

幸いここのガゼボは広く、16人までは余裕で座れるテーブルセットが真ん中にあるタイプで、その周りに各々の侍従や護衛が立っても息苦しく感じることは無かった。

それにここには商業都市の街中にあった保温結界魔法装置と同等の物が設置されており、冬といえども適度な温かさを保っていた。

そしてお茶とお菓子の準備が整ったところでフィオラの説教が再び始まった。


「女性の泣き言に惑わされてどういたしますの? 確かにわたくしたちは、ドラコメサ伯爵には伯爵としての体裁を整えるための金額しか渡しておりません。でもそれも領地の利益の中から頑張ってひねり出しておりますわ」


フィオラはわざとそこで一度話を切った。なんと返してくるのだろうかと。

だが弟王子と違って王太子は、何かしらを考えているようで黙ったままだった。


「殿下はご存じなのですよね。ドラコメサの伯爵2代がいかに怠慢で、領地がいかに不利益を被っていたか。一度に納税できるようになったのもここ数年だということも。でもそれを知らぬドラコメサ嬢からは金を送れと会うたびに言われて辟易しておりますの」

「君たち二人の正装を見ていれば文句が出てもおかしくないのでは?」

「あら。わたくしたちは領主として、高位貴族としての面目を保つために相応の正装をまとっているだけですわ。ですわよね、マリエラ」

「ええ。経済を回すのも高位貴族の責務の一つですもの。そうでしょう、アントニオ様」

「確かにそうだ。ならば、」

「だからといって施しをする気にもなれませんの。あの親子には」


王太子の言葉を遮ること自体異例であり不敬な行動だが、さえぎったフィオラの氷のように冷えた視線に怖気づいてそれ以上言葉を紡げなかった。


「殿下はまことしやかに噂されているドラコメサ伯爵と夫人と娘さんの話をご存じではなくて?」

「それは、耳に届いているし、ドラコメサ嬢も匂わせたことは言っていたな」

「あらまあ、匂わせですか……あの噂は本当ですわ。そして現ドラコメサ伯爵夫妻がご成婚された時期を考えれば、わたくしがあの方々に少々とげとげしい態度を取っても致し方ないとご理解いただけると思うのですが」

「それは、そうだな。形式的なこととはいえ配慮に欠けていたな」

「いえ、お気になさらず」


さすがは王太子というか、貴族間のうわさ話や軋轢には詳しいらしい。

だからこそ、王太子としては出来れば譲歩点を見つけてこれ以上煙が立つのを防ぎたかったのだろう。

しかし、伯爵が妻をないがしろにしただけではなく、貴族として本来やってはならないことをしていたとその娘から告げられた以上は、伯爵家の味方をすることはできないとも判断したのだろう。

それを察したフィオラはこれ以上家の話を蒸し返すことは無く、それよりも彼女的に一番の懸念事項であることを王太子に聞いてみることにした。


「それよりも殿下。1年生の間でヴァリエレ公爵令嬢が、どのような噂にさらされているかご存じですか?」

「マグダネラ嬢のというより、ルドヴィコの話かい?」

「はい。マグダネラ嬢に対して、婚約者としての最低限の義務も果たしていないと」

「ああ。妹たちからも聞かされて、母上も注意はされているのだが……」


この国の貴族の子供が果たす義務の一つに、婚約者との会合を週一回、最低でも月に2回は行うことというのがある。

それを怠ると、最悪の場合怠った方の有責で婚約解消となる。

王族の場合、王族としての仕事が忙しいことが多いので、王立高等学園に通ううちは、昼食を週に一度は婚約者ととることになっている。

現在、王族の子供の5人すべてが学園に在籍している関係で、食堂の王族専用の個室以外に5人用の小部屋が一室押さえられている。

とはいうものの、第一王女は北のファイラドア王国の王太子と婚約中であり、第二王女の婚約者・南のアクラクバラ公国の第2王子は来年留学生としてこの国に来るまでは、お相手は国内に居ない。ゆえに小部屋は3人だけが利用している。

月曜日に王太子がマリエラと、金曜日に第三王女がヤクエスと、そして水曜日は第二王子がマグダネラと共に昼食をとることになっている。


「兄と友人の仲が上手く行っていないことにマリエロイセ(第3王女)様も心を痛めておりますが、ルドヴィコ殿下が歩み寄らない以上どうにもならないと」

「ああ、マリエヤンネ(第2王女)も気にかけていて、水曜日は二人もマグダネラ嬢と共に小部屋で昼食を取っているが……」

「第二王子殿下がいかなければ意味がありませんわね」


自分の立場を悪くしない為か、一応婚約者に配慮してか、第二王子はそちらに行く振りをして友人が押さえている部屋で食事をとっているのは、小部屋のある階を利用している者の間では有名になっていた。


「クレメント。1年の間では噂になっているのかな?」

「はい。貴族が表立って口にすることはありませんが、どうも平民を中心に噂が回っているようです」

「2年生はどうだい、マリエラ」

「1年同様学内では平民を中心に、それ以外では貴族派の方々が学外で囁かれているようですわ」

「そうか、分かった。もう一度両陛下に進言するとしよう」

「それでしたら、もう一つ陛下に願い出てほしいことがあるのですが」

「なにかな、フィオラ嬢」

「まだ懸念の段階ではありますが、第二王子は精神的によろしくない影響を受けていると思われます。周りの方々も。ですので、第二王子殿下には聖竜様の鱗を持っていただきたいのですが」

「それに関しては持ち歩いているとは言っているのだが」

「確実に身に付けていなければ意味はありません。ハニートラップを防ぐためにも是非に」

「そうだな。合わせて相談しておくよ」

「よろしくお願いいたします」


これで持ってもらえればいいが、意固地になるかもなあと懸念しつつも、フィオラはできることはやり切ったと思い、ほっとして目の前のお茶とお菓子を頂こうとした。

しかしそれを遮るようにヴェンキントが忌憚のない意見をフォルトにぶつけてきた。


「フォルト君に確認したいんだが、血が繋がっているとどういう問題が起きるのか教えてくれないか」

「ヴェン!」

「ビアには聞くなと言われていたが、気になったことは自分の目と耳で確認しないと気が済まなくてな。申し訳ない」

「いえ、こちらこそ気をもませてしまって申し訳ありません。話すのは構いませんが、申し訳ありませんが我が家の侍女と護衛以外の方は少しお下がりいただけますか?」


その言葉でリュドは察したのだろう、手のひらの上に三角錐の魔道具を置くと護衛仲間たちに黙礼をし、それを受けた護衛達が従者を連れて3歩程下がってくれた。

それを確認したリュドは、魔力を流して装置を起動し範囲を設定したのちに、テーブルの真ん中に設置した。

そして外に声が漏れていないのを確認してからフォルトは話し始めた。

「ディノフロラ嬢が伯爵の実の子供というのは『ありえないこと』となっています」

「なぜ?」

「生まれた時に夫人の前配偶者のマルテノ子爵はお亡くなりになっていましたが、亡くなられたのは妊娠3か月くらいの時です。にもかかわらず、伯爵が父親というのは……」


これは男とか女とか関係なく、爵位を継ぐ者かその配偶者かで決まってくる話だった。

爵位を継ぐ者が配偶者以外と子供を作ることは問題がないとされている。もちろん推奨はされていないので、日陰の身とするのが普通だが、正規の後継者に何かあった場合のスペアとして歓迎されることも少なからずある。

しかしその配偶者となれば別だ。

男性ならば何の保証もできない完全な日陰の子供として自力で養うしかなくなるだけの話だが、子供を宿す女性の場合「家の乗っ取り」と判断され、処罰の対象となってしまうのだ。

夫人の場合フロラが産まれる前に子爵が死去したのと、すぐに婚姻関係の解消の手続きをしたおかげで処罰は免れていた。

その手続きをしないと伯爵と共に住めないからという理由だったが、功を奏したようだ。

そしてのちに追及されないためにも、子供にもその事実は隠しておくのが一般的なはずなのだが。


「親子そろってそれがどういうことか分からないようで、伯爵自ら大切な我が子と断言し、そのように扱っているという話です」

「確かに。それはあり得ないことにしないとだめだな。嫌なことを言わせてすまなかった」

「お気になさらずに。ここのメンバーにはいつかは話した方がいい事だったので。丁度良かったです」

「……ありがとう、フォルト君」


話がひと段落付き、魔道具も停止され、フィオラはようやく提供された小さく切られたスポンジにバタークリームとイチゴの載ったプチケーキとバラの香りのする紅茶を楽しめたのだった。

それから30分ほど談笑したのちに突発的なお茶会はお開きとなった。


「では最後にもう一言だけ、不敬になるのを承知で殿下に進言させていただきますわ」

「何かな、フィオラ嬢」

「アントニオ殿下は女性の涙に強くおなり下さい。けっしてハニートラップなどに引っ掛からないようにしてくださいませね」

「了承した。心配かけてすまないね」

「ふふ、国の為もありますが、わたくしの大事な友人の為にも気を引き締めてくださいませ」


フィオラは笑顔を王太子とマリエラに向けながら、しっかりくぎを刺したのだった。

そんなこんなで「王太子にハニトラを警戒して貰おう作戦」は成功を収めたのだった。


そして翌朝、タウンハウスに派遣している侍従が伯爵からの手紙を携えてきたのだった。

なんて迅速な手紙と呆れ半分感心半分だったが、内容は読まなくても分かると思ったので、放課後に読むことにしてそのまま放置した。

姉弟が示し合わせて登校していると、フロラが駆け寄ってきて挨拶もそこそこに「どう? お父様からの手紙を貰って」と質問してきた。

聞かれたものの姉弟そろって「読んでない」と答えたものだから、朝っぱらからフロラの「酷いわ!」という絶叫を聞く羽目に陥ったのだった。



PS.

フィ「手紙を読んだけど予想通りの文句しか書かれていなかったんだけど……」

フォ「その文句で僕たちが傷ついたと思いたかったのでは?」

フィ「えー……」

フォ「一々面倒くさいですね」

フィ「ホントだわorz」

お読みいただきありがとうございます。

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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。



思いのほか難産でしたorz

半分以上書き直したくらいに難産でした。・゜・(ノД`)・゜・。


そしてミポリンショックで書き忘れていましたが、1で生垣のこちら側には、

・マリエラに護衛が2人

・フィオラとフォルトに一人ずつ

・侍従はこの3人に一人ずつ

付いているので、護衛が4人と従者が3人で計7人いました。

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