でも、わたくしは…歪んでいるのかもしれませんね。
「ミルフィーナ・ロンデール公爵令嬢が死んだ?」
翌日の午後の事だった。
王宮へ出かけていた父のコレンティア公爵が戻って来て、レディアーヌに報告したのだ。
ミルフィーナはこの間王宮で話した時にはとても元気そうだったが、ミルフィーナが死んだと。
「何でお亡くなりになったのですか?」
「病だそうだ。心臓の…。まだ若いのに気の毒だな。
そう言えば、夜会へ行く予定だった令嬢達が、揃って、事故にあっただの、急病になっただの…20名もだぞ??我が公爵家が何かやったのではないかと、国王陛下から呼び出しがあったのだ。だが、覚えがない。レディアーヌ。お前とて覚えはないだろう?」
「いくらなんでも、20名を足止め出来る程の力が…ああっ…もしかして…」
レディアーヌは、両親に断って、レイノルド・ライアル公爵家へ馬車で向かった。
まさか…レイノルドが??
レイノルドの両親は領地にいるらしく、レイノルドが出迎えてくれて。
公爵家の部屋に通された。
そして、レイノルドはうっとりとした表情で。
「苦労したんですよ。20名も足止めするのは…ある者は食事に軽い毒を混ぜて腹を壊してもらって、ある者の乗る馬車に細工をし馬車を故障させて、ある者はドレスを駄目にするように細工をして…色々と。褒めてくれませんか?」
ああ…この人は…とても怖い人…わたくしは…
「貴方のやった事は間違っておりますわ。それじゃ…ミルフィーナを殺したのも…」
「ええ。私です。彼女は一番、王太子殿下の婚約者に近い位置にいましたから。
知っていました?王太子殿下…彼女と仲が良かったんですよ。」
「え?」
「だって…王太子殿下は貴方とは今まで話した事も無かったから、それに比べて彼女は王太子殿下の近くにいましたからね…。ああ、おめでとうございます。王太子殿下に婚約者になって下さいって申し込まれたのでしょう。」
そう言うとレイノルドはレディアーヌのドレスの裾に跪いて口づけを落とす。
「貴方の幸せは私の幸せ…だから、どうか…これからも私の事を使って下さい。
愛しのレディアーヌ。」
「貴方はそれでいいの?」
「貴方さえ幸せならば、私は構わない。それが私の愛し方なのですから…
勿論…本当は私が貴方を幸せにしたかったのですがね…」
ああ…わたくしは思いましたの。
もし、このままカレンティーノ王太子殿下と結ばれたとしても、
心に闇を抱えたまま、一生、罪の意識を抱えて、苦しんだまま生きなくてはならない。
王妃として君臨しながら、いつか罪の意識でわたくしは…死を選ぶかもしれない。
それに、この男は一生付きまとうだろう。
この恐ろしい男を騎士団に突き出す?
いえ…証拠を残すような仕事をする男には思えない。
もし、裏切ったらその時は自分が殺されるだろう。
レイノルドはレディーヌの心を見透かすように、
「私を騎士団へ突き出しますか?貴方に破滅させられるのなら、それはそれで…
大丈夫。愛しい貴方だけは殺せませんよ。
私の望みは貴方の幸せです。貴方が愛しい方と一緒に暮らせて幸せならばそれで。
ああ、愛しています…愛しのレディアーヌ。我が女神。」
「私の幸せを望む???でしたら何で??何でミルフィーナを殺したの?
わたくしは一生、心に罪の意識を抱えていかなければならない。
こんな気持ちで王太子殿下と幸せになれると思っているの?
レイノルド。許せないわ。」
レイノルドが叫ぶ。
「ミルフィーナを殺したのは私だ。だから罪の意識を感じる必要は何一つない。それに、ミルフィーナをあのままにしておけと?王太子殿下と結婚出来なかった貴方の心は一生、王太子殿下を想うまま、悔いを残す。それならば、邪魔者を殺すしかないでしょう。
貴方には想いを遂げて貰いたかった。私は貴方の事を愛しているから。」
わたくしのせいで、ミルフィーナは死んだ。
でも…この人は…こんなにも深くわたくしの事を愛してくれている…
レディアーヌの幸せの為に…思いを遂げさせる為にミルフィーナを殺したのだ。
この男はこれからも、レディアーヌの為なら何でもやるだろう。
だったら…
「王太子殿下と婚約をしませんわ。わたくし。」
「レディアーヌ?」
「どうか、レイノルド様。貴方と婚約を。わたくしをライアル公爵家で娶って下さらない?」
「いいのですか?私で…貴方が愛しているのは王太子殿下でしょう?」
「わたくしは…貴方がわたくしの為にこれ以上、罪を犯すのは耐えられないのです。
それに…そこまで愛して下さるなんて、なんてわたくしは幸せなのでしょう。娶って下さるわね?レイノルド。」
「ああ…勿論です。愛しのレディアーヌ。」
ああ…なんて歪んでいるのでしょう…。
その歪みがわたくしへの愛…そんなレイノルドの事が愛しくて…
わたくしも歪んでいるのかもしれませんね…
あの後、わたくしはレイノルドと結婚しましたわ。
この人の手は血で濡れているけれども…
その手を握り締めて、わたくしは今…とても幸せです。