再会
僕が二度目に彼女に会ったのは、
消え入りそうな寒さを湛えた夜だった。
僕はその時、とてもお腹が空いていて、
店に着いた時はとても寒くて、カレーライスを頼んで、黙々と食べていたから、
彼女の存在に気づかなかったんだ。
いつも卵サンドって訳にはいかない。
そんな夜だってあるよ。
彼女は友だちを連れて、奥の席に向かい合わせに座って話していた。
ひとりの時とは比べものにならない程、饒舌にお喋りしてたから、最初は彼女だと分からなかったんだと思う。
ひとりで喋ってる人なんて、可笑しな話だからね。
人にはひとりの時の顔と人前の顔と、使いわける事が必要だ。
彼女が髪を触れば、友だちも髪を触る。
女のひとは、共感の生き物だと言うけど、それは太古の昔に、木ノ実などを収穫するのに必要なスキルだと、テレビのクイズ番組で見たことがある。そんな頃から、コミニュティがあって、人付き合いがあるんだな。
僕だって、友だちとこの店に来たことがあるよ。そんなに孤独を愛している訳じゃない。ひとりが好きなだけで、人と居るのが嫌いな訳じゃない。
ただ、気を使ったり、使わせるのが苦手なだけだ。
彼女は薄い桃色のセーターと、裾が広がっていて、グラデーションがかかったスカートを履いている。
季節とファッションは似ている。
すぐに過ぎてしまう。
巡り巡ってくるのも同じだ。
それが恋だとしたら、そうはいかないのかも知れない。
彼女達は、音楽の話をしているのかと思ったら、ベットの話をしていた。クイーンサイズだって事みたいだ。さっきまで、音楽の話をしていたんだけど。
話がころころ変わり、表情がまるで日めくりカレンダーがスカートになって、風に吹かれている様だ。
ずっと見ていたいけどね、僕は小説を読む合間に、煙草を吸い、見ない振りをして話しを聴いてはまた煙草を吸った。
彼女のプライベートの話は、これ以上聴いてはいけない。一緒に話している訳じゃ無いけど、気を使う。小説の内容が頭に入ってこないな。
映画を観た帰りに、吸血給仕と話しをしようと思って店に寄ったんだけど、彼は居なかった。彼は会いたい時にはいつも居ないんだよな。
たまにひとりで映画を観る。
休みの前の日。
彼が、この店でかかっていた曲で、好きだと言っていたQUEENの映画。
土曜日の夕方、多くの人で賑わっていて、隣の席には人がいて、息づかいや咳払い、鼻をすする音が一緒だ。
僕が小さな頃、映画館は特別な場所で、父親が仕事帰り、待ち合わせをして、都内まで家族みんなでオシャレをして出かけた。
自由席で座れずに、立ち見で見た。
初めての映画館は、オトナの香りがした。字幕を追うのも必死だった。
内容はよく覚えていないけど、こないだ調べたら、B級映画みたいだ。
映画の後は、みんなで洋食屋さんに行って、僕はいつもハンバーグステーキを頼んだ。いつも一緒なの?と母親から笑われ、同じものを頼むのはその頃から変わらないみたいだ。そういえば、この店の雰囲気にあの店は似ているかもしれない。
古いものが好きなのは、
そこにある歴史に、自分の思い出を重ねているんだろう。
実はこの店も、都市開発で無くなってしまうんだ。二度目にこの店を訪れた時に、吸血給仕から聞いていた。
だからって僕の新しい思い出が消えてしまう訳じゃ無い。思い出せるから、思い出なんだろう。
彼女達の話は、僕がそんな事を考えている間に一周した様で、また音楽の話をしていた。
季節がめぐり、もう一度あの頃に戻りたいとは思わないけどね。
いい思い出があるのは僕を強くさせ、色んな方向に向かわせてくれるんだろう。
風の音を聴いて、歩いて帰ろう。
春はもう、すぐそこまで来ている。