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●17 星を斬り、法則を変え、起死回生を狙う 2







 結論から言おう。


 シュラトは正気に戻っていた。


「すまなかった」


 瓦礫の上にあおだいに転がったシュラトは、俺達の顔を見るなり端的たんてきに言った。


 声のトーンがとても低い。ムスペラルバードでの再会した時の踊るような抑揚よくようはどこへやら。いかにも無骨な戦士な声音だった。


 既に姿形も、筋肉ダルマから普通の成人男性のそれへと変わっている。優男に少し筋肉をつけたような、ちょうどガルウィンにも似た体格である。おそらく、これが本来のシュラトの姿なのだろう。


 未だエムリスの封印シールによって力のほとんどが抑制よくせいされているはずだが、傷が全快している。とても雲よりも高い場所から落ちてきたとは思えない姿だ。


 ちなみに、俺もシュラトも身につけている衣服には各々《おのおの》の〝氣〟が伝播でんぱしており、こちらも肉体と同様いくらでも再生する。自分で言うのもなんだが、不思議かつ、なかなか便利な特性である。


「やあ、シュラト。【久しぶりだね】。元気そうで何よりだ」


 先刻せんこくまで切り札として使用していた大判の本に再び腰掛けて浮いているエムリスは、皮肉たっぷりの挨拶を返した。


「その様子だともう〝色欲〟の影響はない感じかな? アスモデウスの人格は引っ込んだという認識でOK?」


 ややおどけた態度でエムリスが問うと、


「ああ」


 言葉少なにシュラトは肯定した。


 うむ、これぞ俺の知るシュラトだ。基本は無口で、口を開いても必要最低限のことしか言わない。まさに〝金剛の闘戦士〟という名にふさわしい人格である。


「よう、シュラト。これは嫌味いやみだが、こっちを油断させておいて実は……なんてことはないよな?」


 エムリスにならったわけではないが、俺もつい揶揄するような言い方をしてしまう。


 昔の仲間が元に戻ったのは喜ばしいことだが、ここに至るまでの手間が半端なかった。なにせ十年ぶりに〝星剣レイディアント・シルバー〟を抜いたり、エムリスだって禁呪を解放したのだ。


 規模で言えば、魔王との戦いと同レベル。


 つまり世界の行方を左右するような状況だったのだ。


 これまでの苦労を思えば、皮肉や嫌味の一つぐらい言いたくもなる。


「ない」


 やはりシュラトの答えは簡潔だった。真紅の瞳を赤い空に向けたまま、ぽつりと否定する。


 まぁ、当然と言えば当然だ。俺と全力でぶつかり合って、あれだけボコボコにされたのだ。いくら〝色欲〟のアスモデウスが外部世界の悪魔とはいえ、エネルギーの大半を使い果たしたことだろう。主導権が本来の肉体の持ち主であるシュラトに戻ってこなければ、こっちが困る。


「じゃあ、もう一つ確認だ。これまでのアホな行動は全部アスモデウスの仕業しわざで、お前自身の意思はこれっぽっちも関わっていない……ってことでいいんだよな?」


「…………」


 俺の問いに、シュラトは空を見つめたまま無言。


 どうやら返事はイエスではないらしい。


「――お前の意思もあった、ってことか?」


 まさか、と思いつつも問いを重ねる。


 すると、これにもシュラトはしばしの沈黙を返し、やがて――


「……わからない。だが、火のない所に煙は立たない。火元は間違いなくオレだ」


 淡々とした口調で、シュラトは告げた。


 その無感情っぷりは、どこかイゾリテを彷彿させる。


 そういえば、シュラトとイゾリテの二人は少し似ているところがある。俺が幼い頃のイゾリテを気にかけて理術を教えるなどしたのは、そういった理由があったからかもしれない。


「まぁ、確かに。ゼロには何を掛けてもゼロだけれども、少しでもあれば増幅は可能だ。〝色欲〟はシュラトの中にあった些細な欲望を大幅に増加させて、その勢いで肉体を乗っ取ろうとしたんだろうね」


 俺達に八悪の因子を埋め込んだ張本人であるエムリスが、うんうん、と頷きながら分析する。


「そういう事態を考慮して、それぞれの因子から一番遠い奴を選んで宿らせたんじゃなかったのか?」


 俺が糾弾するような言い方をしてしまったからか、エムリスが、むっ、と眉根を寄せた。


「それだけ八悪の因子の影響は強烈だった、ということさ。というかシュラトだからこそ、この程度で済んだとは思わないのかい? もしシュラトじゃなくてアルサルに〝色欲〟が埋め込まれていたら、今頃は世界中の女という女をはらませていたかもしれないよ? 朴念仁のシュラトがハーレムを作りたがったくらいだ。アルサルなら間違いなくそれ以上のことをしでかしていたはずさ」


 プンスカと怒った口調かつ、やたら早口で言われたので、俺は思わず圧力に押され、


「お、おう……」


 と返事してから、とんでもない誹謗中傷を受けたことに気が付いた。


「――っておいコラ、今何つった? 勢いに任せてめちゃくちゃ失礼なこと言わなかったか?」


「いやぁそれにしても驚くべきはシュラトの理性だね! ほとんど〝色欲〟のアスモデウスに乗っ取られながらも、後宮ハレムの女性には一切手を出していなかったと言うのだから、これは本当にすごい話だよ。まぁ二人ほど眷属化していたようだけれど? 逆に言えばその程度しかしていなかったということで、実に素晴らしいことさ。〝色欲〟と〝暴食〟をシュラトに担当してもらって本当によかった。心の底からそう思うよ、ボクは」


 こいつ、適当に煙に巻いて誤魔化すつもりだな。


 しかし、いかにもな口調でシュラトを褒めそやしていたかと思えば、一転して声を低め、


「――そう、だから気にする必要なんてないんだ。今回の件は君のせいじゃあないんだよ、シュラト。君ほどの人格者でも、因子が暴走すればこんな事態を引き起こす……つまりはそれほどのものだったということさ、ボクがこの世界に呼び込んだ八悪の力というものは。だからこそ、あの規格外の魔王を倒すことが叶ったとも言えるのだけれどね」


 それは、正気に戻ったシュラトの『すまなかった』という謝罪に対する返答だったのだろう。


 言外に、全ての責任はボクにこそある、と言っているかのように俺には聞こえた。


「 解除リリース 」


 エムリスが囁くように告げると、シュラトにかかっていた封印がかすみのようにかき消えた。


 精悍な男が上体を起こし、俺達を見る。


 ちょっと前まで自分のことを『オレっち』、俺のことを『アルサル氏』なんておかしな呼び方をしていたシュラトは、もうどこにもいない。


 人が変わったように――いや実際に中身が変わっているのだろうが――物憂げな表情を浮かべたシュラトは、瓦礫の上で立ち上がり、


「いや、因子につけ込まれたのは己の責任だ。信頼されて託されたというのに、期待を裏切ってしまった。本当にすまない」


 改めて、俺とエムリスに頭を下げた。


「……ムスペラルバードの人々にも悪いことをした。戻って謝罪しなければ」


 面を上げたシュラトは、押し殺した声で言う。


 この言葉をもって、俺は心の底から確信した。


 こいつは正真正銘、俺達の仲間のシュラトだ――と。


 無骨ぶこつ無愛想ぶあいそう、だが生真面目きまじめ


 戦闘前の軽佻けいちょう浮薄ふはくな態度とは、まったくの正反対。


 これぞ〝金剛の闘戦士〟シュラトだ。


「特に、レムリアとフェオドーラには悪いことをしてしまった。一般人を己の眷属にしてしまうなど……戻ったらすぐに取り消さなければ」


 挙がった二つの名前は、おそらくは玉座の傍にはべらせていた美姫のものだろう。響きからして、レムリアが赤毛と小麦色の肌のムスペラルバード人。フェオドーラが、銀髪と白皙を持つニルヴァンアイゼン人だと思われる。


「ま、やっちまったもんは仕方ないだろ。素直に謝って、王位を返上して、後は賠償金やら何やら払えば許してくれるさ、多分。幸いなことに誰も死んでねぇし、何も壊れてない……あ、いや、宮殿のど真ん中がぶっ飛んじまってたな、そういえば」


 シュラトを慰めようとして、俺は戦闘開始直後のことを思い出した。


 よりにもよって玉座のある謁見の間が粉微塵になってしまっていた。俺とシュラトが激突した衝撃によって。


 くすっ、とエムリスが笑う気配。


「なら、賠償金の半分はアルサルが支払わなければいけないんじゃあないのかな?」


「ぐっ……」


 嫌なことを言いやがる。


 確かに一理ある。


 一理あるが、しかし――


「――待て、それを言うならお前にも責任があるんじゃないのか? シュラトの暴走は八悪の因子を移植した自分の責任だとか何とか、言っていただろうが」


 俺が言い返すと、ふふん、とエムリスは余裕の態度で肩をすくめて見せた。


「そうだね、その通りだ。そして、ボクたち三人はかつて一緒に戦った――そう、死線を共にした仲間だ。だからここは仲良く、責任を三等分しようじゃないか。ああ、美しい友情とはまさにこのことだね! てへぺろ」


 いけしゃあしゃあと抜かしやがる。ムスペラルバードにつ前は、あんなにも殊勝な態度を取っていたくせに。何だ、てへぺろって。


 はぁ、と軽く溜息を吐く。


「仕方ねぇな……ま、切っても切れない俺達の仲だ。これからも長い付き合いになるだろうからな、こんな時ぐらいは支え合うか」


 セントミリドガルの戦技指南役を辞める際、退職金やら財宝やらをガッポリいただいておいて本当によかった。金はあればあるほどいい。使い所がすぐに思いつかなくとも、意外なところで役に立ったりするものなのだ。


「すまない。恩に着る」


 再び頭を下げるシュラト。


 俺は笑って片手を振った。


「いいって。その代わり、もし俺が同じような状態になったときは、お前が俺を止めてくれよな。よろしく頼むぜ?」


 半ばは冗談のつもりで言ったのだが、シュラトは真剣な表情のまま、


「わかった。任せてくれ。その時は何があろうと、俺が必ずアルサルを止めてみせる」


 拳をグッと握り締めて、シュラトは誓いの言葉を口にする。


 真紅の瞳には決意の輝き。混じり気の無い強い意思が、そこには籠められている。


 もし本当に俺が〝傲慢〟か〝強欲〟に呑まれたら、今度はこちらがシュラトの剛拳でボコボコにされるのか――と具体的な想像が出来てしまった。


 なるべく八悪の因子に呑まれるような事態にはならないようつとめよう――そう内心で硬く決意する俺なのだった。


「さて、そろそろ戻ろうか、アルサル、シュラト。きっとイゾリテ君もガルウィン君も首を長くして待っているよ」


「ああ、そうだな」


 転移魔術の気配を見せるエムリスに、俺は頷きを返した。


 しかし。


「待ってくれ、アルサル、エムリス。ここは……このままでいいのか?」


 シュラトが待ったをかけ、ぐるりと周囲の光景を見渡した。


 かつては――というか、つい先刻まで栄華を誇っていたであろう魔界の『央都』は、完全に廃墟はいきょと化していた。


 壊滅した都市の中央で唯一、天に向かってそそり立つ魔王城だけが、今なお健在だ。


 流石の強固さである。


 さもありなん。あの城は〝魔王の生まれる場所〟。


 いずれ新たな魔界の覇者が誕生する、特別な空間なのだ。


 ある意味、魔王という存在の【本体】と言っても過言ではない。


 もしあれを壊そうと思うのなら、この世界そのものを破壊するつもりでやらなければ、まず無理だろう。


 魔王と言う存在は、それほどまでに世界の根幹こんかんへと根付いているのだ。


 そう、俺達が魔王を殺したと言っても、存在そのものまで消えたわけではない。


 魔王もまた、俺達とは違った意味で不滅の存在なのだ。


 故に――


「別に気にする必要ないだろ。魔族なら、この央都以外にもたくさんいるはずだからな。十年前にも似たような状態になったんだ。どうせまた十年ぐらいかけて元に戻すだろ」


 俺はにべもなく切り捨てた。


 魔王と魔族はある意味で一心同体の存在である。


 魔王が不滅の存在である限り、魔族もまた絶滅などしない。


 逆に言えば、魔王を本当の意味で殺そうと思えば、魔族を一人残らず根絶やしにする必要が――


「相変わらず冷たいねぇ、アルサルは。自分の役割以外には冷淡れいたんが過ぎて、頭の感情をつかさどる部分が壊れているんじゃないかって思う時があるよ、ボクは」


 俺の思考を遮断するようにエムリスが言うので、


「お、奇遇だな。俺もお前によくそういうこと思う時があるぞ」


 すかさず嫌味で返しておく。すると、


「そうなのかい? ボク達、気が合うねぇ」


 ニタァ、といかにもな作り笑いをしてきやがった


「そうだなぁ、嬉しいなぁ」


 俺も口角を吊り上げて同意してやる。もちろん目は笑ってないし、口にしている言葉はまるごと嘘だ。


「……魔族は」


 俺とエムリスが不毛な寸劇を演じていると、ぽつり、とシュラトが呟いた。


 魔界の風に黄金の髪をなびかせ、静謐な真紅の瞳で廃墟の街を見つめる男は、


「魔族とは、一体何なのだろうな。オレ達に言えた義理ではないだろうが、魔王が存命の時には自由意思を奪われ、魔王がいなくなった後にもこのような目に合う。ずっとこのまま、魔界に封じ込められたまま、魔族という存在は……」


 やたらと悲しげな口調で語り、語尾を浮かしたまま唇を閉じた。


 シュラトの言わんとするところは、俺にも何となくだがわかる。


 だがそれを言うなら、人界に生きる人間とて似たようなものだ。


 だれかれもが、この狭い世界の中に閉じ込められているのだから。


 あまつさえ、現在の人間と言ったら、もはや救いようもない状態だ。


 せっかく俺達が魔王を倒して世界が平和になったというのに、十年も経てば当時のことなど忘れて、今では五大国が先頭を切って戦争せんそうを始めたのである。


 まさに、喉元過ぎれば何とやらだ。


 なんと愚かしい。


 魔族や魔物に命をおびやかされない世界が来たと思えば、今度は人間同士で殺し合いだ。


 流石の俺でも少しばかり、虚無感を覚えざるを得ない。


 こんな世界の為に、俺達四人は命を懸けて――いや、【死を捨ててまで】頑張ったわけじゃないんだけどな。


 はぁ、と思わず大きな溜息が出てしまった。


「――ま、絶滅させないだけ慈悲じひがある方だと思うぞ、俺らも。いや、いっそ根絶やしにしてやった方がむしろ慈悲深いのか……?」


哲学てつがくてきだねぇ。どうせい、どちらが平穏で幸せなのか……その答えがわかれば神様にだって一歩近づける問いだと思うよ、それは」


 妙なことを考えてしまった俺に、エムリスが混ぜっ返すような、それでいて皮肉を利かせたような言葉を突きつけた。


 ――神様?


 はっ、冗談じゃない。


 そいつは俺達の運命を決めたクソ野郎じゃないか。


 お近づきになんてなりたくないね。絶対に。


「……アルサル、エムリス」


 やがて、囁くような小さな声でシュラトが俺達の名を呼び、こんな問いを放った。


「……己達はこれから先、あと何回、世界を救えばいいのだろうか?」


 その難解にも程がある問いに、俺もエムリスも返す言葉を持たなかった。


 これから先のことなど、あまり考えたくはない。


 特に俺達のような『終着点を失った者』にとっては、ある意味で地獄に落ちる以上の苦行なのだ。


 目先のことはともかく、遠い未来については心底、途方とほうれてしまう。


 シュラトの問いは、きっと俺もエムリスも、心のどこかで抱き続けているものだった。


 だからこそ、答えはない。あれから十年経ったというのに、いまだ『これだ』といえる答えを得ていないのだ。


「――何回でも救えばいいのさ。そのためにボク達は【こうなった】……そうだろう? ねぇ、アルサル」


 どこか自分に言い聞かせるような口調で、エムリスが呟いた。


 そういえば、そうだった――と気付かされ、俺は小さく頷く。


「……そうだな。その通りだ。回数とか理由とか、そんなもんはもうどうでもいい。【俺達は世界を救う】。【救い続ける】。ただそれだけだ」


 心を固め、強く断言する。


 思えば、幼い少年だった頃にも似たような覚悟を決めたはずだった。


 なのに、いつの間にか心が緩み、その信念を見失っていた気がする。


 人類を守る、人界を護る――そんな形骸けいがいだけを残して。


 いくら肉体が永遠になろうとも、精神はそうもいかない。


 そんな当たり前のことを、改めて痛感させられた。


 またも溜息を吐きそうになって、すんでの所で止める。


「――小難しいことを考えるのはやめようぜ。それよりも目先めさきのことだ。こんな魔力だらけの場所からはさっさとおさらばして、やるべきことをやりに行こう。そっちのが優先だろ?」


「……ああ、そうだったな」


 薄く微笑を浮かべて言うと、シュラトはやはり気難しい顔で、しかし首肯した。


「じゃ、転移するよ。まぁボクは〝怠惰〟だから、この後のことは君達二人に全部お任せするのだけどね?」


 さらりと聞き捨てならない台詞を吐きながら、エムリスが指を鳴らした。


 おいちょっと待てこの野郎――と文句をつけるいとまもなく。


 いつものように目の前が暗転した。




 くして、俺達は再び魔界を後にした。


 すぐにまた、この央都へ戻ってくることになろうとはつゆにも思わず。




 ■




 破壊の限りを尽くした〝勇者〟、〝魔道士〟、〝闘戦士〟が立ち去った魔国『エイドヴェルサル』の央都『エイターン』――


 中心部にそそり立つ魔王城だけを残し、廃墟の街と化したそこは、しばし静寂に支配されていた。


 赤い空のもと、ただ冷たい風だけが吹き流れていく。


 しかし、やがて――


 複数の場所で、ほぼ同時に爆発が起こった。


 瓦礫の群れが噴き上がり、雨粒のごとく宙を舞う。


 次いで、天を衝くほどにのぼるのは、極太にして濃厚な魔光のはしら


 赤、白、黄――とそれぞれ色の違う魔光まこうちゅうの数は、六。


 いまや七剣大公から【六】剣大公へと数を減じてしまった、魔界の実質的支配者の放つ輝きであった。


 先刻の〝勇者〟と〝闘戦士〟、および〝魔道士〟の激突によって生じた強大に過ぎる衝撃波は、地上にあったみやこを例外なく押し潰し、【ぺしゃんこ】にした。


 これにより央都に在住していた魔族、上級魔族のほとんどが死滅した。


 しかし、大公の地位にある彼らは死をまぬがれていた。


 今の今まで、〝勇者〟達の気配が消えるまで、息を殺して瓦礫の下に潜伏していたのだ。


 彼ら六名の魔界大公は、見る影もなく荒廃し果てた都市の光景に何を思うのか。


 濃厚な赤の広がる空の下、いくつもの慟哭どうこくが重なり響いた。


 怒りと悲しみ。


 そして、憎しみの叫び。


 連なる切なき哀哭あいこくを、高くそびえ立つ魔王城だけが聞いていた。








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