●14 東国の興り、成長する英雄、新たな最終兵器 2
危険な場所に連れて行くからには、適当な嘘ではなく、ある程度はちゃんと事情を説明しておきたい。
少なくとも俺は、そういったやり方が『フェア』だと考える。
とはいえ、俺達四人が異世界から召喚された異邦人ということは、やはり教えられない。
世の中には知らない方が幸せなことは、確かに存在するのだ。
八悪の因子についても、基本的には禁忌だ。言ってみれば、本来は倒せない魔王を倒した反則みたいなものだからな。胸を張って言えるような話ではない。
というわけで、俺は別の理由を持ち出すことにした。
俺は宿のラウンジで一服しているガルウィンとイゾリテに近付くと、挨拶もそこそこに切り出した。
「ムスペラルバードに行く。あっちに会っておきたい奴がいてな」
我ながら単刀直入にも程があるな、と思ったが、
「はい、わかりました」
「お供させていただきます」
意外にも、二人はすんなりと了解の意を示した。
「……ん?」
早くも話が終わった感が出たので、思わず首を傾げてしまった。
「どうかされましたか、アルサル様?」
イゾリテが素の調子で聞いてくる。
「いや、どうかも何も……聞かないのか?」
「何をでしょうか?」
「だからな、ほら、ムスペラルバードに行く理由とか……」
「会いたい御方がいらっしゃる、とご自分で仰っていたではありませんか」
「ああ、そうか、そうだったな……って、いや違くないか? その会いたい奴が誰なのか気にならないのか、って話なんだが?」
「気にはなりますが……」
恬淡とした調子で言いながら、イゾリテは目線をガルウィンに向ける。すると、妹の意図を汲んだらしき兄は頷きを一つ。爽やかな笑みを浮かべ、
「〝金剛の闘戦士〟シュラト様に会われるのですよね? 先程の話の流れから察するに。きっとそういうことなのだろうと、自分達は理解しておりますよ」
「…………」
いやいや。話が早いにも程があるだろう。
なんて察しのいい奴らなのだ。それとも、さっきの俺達二人の態度があまりにわかりやす過ぎたのか。
なんにせよ教え子にして眷属である二人の、頭の回転の速さと順応性の高さには感謝しかない。
しかし、だからこそ言うべきことは言っておかねばなるまいて。
「……実を言うとな、今あっちに行くとかなり危険な目に遭う可能性が高い。以前に魔界の入り口まで連れて行っておいて何を今更、とか思うかもしれないが、今回はあの時以上にヤバい事態が想定されるんだ。それでもお前らは――」
「行きますよ、もちろん!」
「右に同じです」
チラ、と含みのある視線を向けた途端、ガルウィンは前のめりに、イゾリテは楚々とした態度で同行を主張した。
「――うん、まぁ、そう言うとは思っていたけどな」
予想通りではあるが、あまりにも想定していたまんま過ぎてちょっと笑えてくる。
「なら、お前達に説明しておかないといけないことがいくつかある。よく聞いてくれ。大事な話だ」
そう告げると、二人は真剣な表情で、重々しく首肯した。
俺はガルウィンとイゾリテに、ムスペラルバード――即ちシュラトのもとへ向かう理由を簡潔に説明した。
俺達の仲間だった〝金剛の闘戦士〟シュラトは、間違っても王宮を強襲して王位を簒奪するような奴ではない。
だから、今回のニュースは何かの間違いだと思う。
あるいは、何か特別な理由ないし事情があるはずだ。
それは魔王を討伐するために得た、強すぎる力が原因かもしれない。強すぎる力は精神を蝕むものだ。シュラトだって心を持った一人の人間。精神を病むことだってあるだろう。
――『八悪』とは実際にそういうものなのだから、これは別段、嘘をついているわけではない――
もしかすると、シュラトは何者かに唆されているのかもしれない。
最悪の場合、悪意ある第三者に操られている可能性だってある。
それらの事態を考慮すると、状況によっては〝金剛の闘戦士〟シュラトと戦うこともあるかもしれない。
こればかりは、非常に危険だ――と言う他ない。他に言い様がない。
あるいは、魔王との戦い以上に危険な状況になるかもしれないのだ。
大げさに聞こえるかもしれないが俺達、四英雄が相争うというのはそういうことなのである。
何よりもまず、そのことを理解して欲しい。
無論、ついてくるというのなら全身全霊をかけて守る。そのつもりだ。しかし、戦場に絶対はない。もしもや、万が一という事態はいくらでもあり得る。
それでも、ついてくる覚悟はあるか?
「当然です!」
「愚問です」
即答だった。
間髪入れずの明答だった。
むしろイゾリテに至っては、少なからず機嫌を損なっているようで、何とも刺々しいオーラが華奢な体から放たれていた。
「大事なことなのでもう一度言いますが、それは愚問というものです。アルサル様」
念入りに繰り返したイゾリテは、聞くまでもないことを聞くな、言うまでもないことを言わせるな――とでも言いたげな顔をしていた。
その隣でガルウィンが、然り然り、と何度も首を振る。
「……悪かった。余計な確認だったかもしれないな。だが、これだって大事なことだ。俺ももう一度聞くが……本当にいいんだな?」
命に関わることだ。なぁなぁで済ませるわけにはいかない。
俺は改めて、ガルウィンとイゾリテの兄妹に覚悟を問う。
しかし。
「どこまでもアルサル様について参ります!」
「この命が尽きる、その時まで」
わかってはいたが、やはり即答だった。即断即決と言うより、最初から答えが決まっていたかのように。
俺とて予想していなかったわけでもないが、こうして実際にノータイムで答えられると、おいおい本気かよ、と思わないでもない。
だが、これ以上の問答は無意味だろう。
俺は頷きを一つ。
「――お前達の覚悟は受け取った。いいだろう、ついてこい」
二対の緑の瞳が、真剣な眼差しを俺に向けたまま頷く。
「ただし、しつこいようだが本気で気をつけろよ。特に俺かエムリス、あるいは両方がシュラトと正面切って戦うことになったら、周囲にどれだけの被害が出るか――正直まったく予想がつかない。冗談抜きで国が一つ更地になる可能性だってある。一応そのへんについては対策を考えてはいるが……最悪、本気でどうしようもない時は逃げろ。もしくは、エムリスの魔術で強制的に逃がす。その時は文句を言うなよ。少なくとも俺は絶対に耳を貸さないからな」
これ以上はないってほどに念を入れて釘を刺すと、流石にガルウィンもイゾリテも少々顔色を変えた。
俺がここまで言うのは非常に珍しいからだろう。
だが、仕方ないのだ。
あの〝金剛の闘戦士〟が敵に回ることを考えると、どれだけ予防線を張っても足りる気がしない。
まぁ、真っ正面から激突するというのは、本当に最悪のパターンではあるのだが。
そうなる前に解決できるのが一番で、目指すべきは当然そちらのルートだ。
「――ところでアルサル様、話は変わるのですが。いえ、ある意味では変わらないのですが、よろしいでしょうか?」
「ん? なんだ、ガルウィン。言ってみろ」
相変わらず引き締まった肉体の持ち主が控えめに手を挙げるので、俺は先を促した。
「念のために確認したいのですが……ムスペラルバードの王となられたシュラト様に会いに行き、場合によっては戦闘になるということは――つまり、アルサル様が『世界の王』となる第一歩と考えてよろしいのでしょうか!?」
「……は?」
最初はおずおずと、しかし徐々に加速して最後には前のめりになったガルウィンに、俺は洒落抜きで唖然とする。
「いや……なんで、そうなる?」
本気で意味がわからず、ややぎこちない口調で聞き返してしまった。
すると隣のイゾリテまでもが、
「シュラト様からさらに王位を簒奪し、ムスペラルバードを世界征服の起点とするのでは?」
などと実にとんでもないことを言い出した。
「いやなんでそうなる!?」
ここにエムリスはいないが、代わりにイゾリテが遮音の魔術を発動させている。なので俺は遠慮なく、先程と同じ言葉を大声で繰り返した。
ガルウィンとイゾリテは互いに顔を見合わせて、
「なんでと言われましても……全世界に対して宣戦布告を行い、世界征服に乗り出した〝金剛の闘戦士〟シュラト様に会いに行くのですから……」
「しかも、アルサル様は戦闘になる可能性を示唆されました。シュラト様と覇権を争う――そう私達が思うのも無理はないと思うのですが、いかがでしょうか?」
いや、なんでアイコンタクトだけでそこまでわかりあえるの君達?
兄妹ってすごいな。俺も前の世界で生きていた時にはいたのだろうか、兄妹とか。もう思い出せないので、考えても詮無いことなのだが。
「そうだね、そこはボクも気になるところだ」
横合いから声。誰何するまでもなく、エムリスだとわかる。遮音と併せて認識阻害の魔術まで発動させている俺達に話しかけられる者など、そうはいない。
「アルサル、君は前に言っていたじゃないか。自分はもう表舞台に立つつもりはない、って。一体どういう風の吹き回しなんだい?」
いつものように大判の本に腰掛けて、ふよふよと浮遊してきたエムリスは、先程の会話などなかったかのように質問してくる。
まぁ、さっきの話はガルウィンとイゾリテには内緒のものだったのだから、なかったものとして振る舞うのは別に構わない。
が――
「……何でお前までそんなことを気にするんだよ」
変な茶々を入れられるのは普通に困る。俺は眉をひそめて軽くエムリスを睨めつけた。
俺の隣まで浮遊してきたエムリスは飄々(ひょうひょう)とした――さっきの亜空間テントでの態度が幻だったかのような――態度で、
「いや、特に意味はないよ? 単に気になっただけさ。それに君、基本的には〝それが人の営みの一環であるのなら好きにさせよ〟ってのが信条だったろう? 昔から。今回の件も、国家だの王位だのと壮大なゴタゴタではあるけれど、人の営みであることには変わりないじゃあないか。どうして手出しする気になったんだい?」
「…………」
妙にいやらしい質問である。というか、どうせ何らかの方法で俺達の話を聞いていたのだろう。魔術で聞き耳を立てるなどして。
それでこんな嫌がらせを思いついたと言うなら、大した根性をしていやがる。
「人の営みに介入するってことは、それはガルウィン君やイゾリテ君が思っているように、世界を動かすってことに他ならないんじゃあないかな? なら、二人が望むように『世界の王』になるって道も、ありと言えばありなんじゃあないかい?」
こいつ、ニヤニヤしやがって。なんだなんだ、さっきの意趣返しか? そんなことをしてもお前が噛みまくってキョドリまくった事実は消えないんだぞ、まったく。
「――いいや、違うね。俺は少しも信条を曲げていないぞ」
腕を組み、真っ向から否定する。そっちがそのつもりなら、俺だって遠慮なしだ。まったくこいつは。
「おや? そうなのかい? どういうことか説明してもらえるかな?」
変わらず楽しげな笑みを浮かべたまま、小首を傾げるエムリス。テーブルを挟んだ向こう側では、ガルウィンとイゾリテが揃って興味深そうな視線を俺達に向けてくる。まるで見世物小屋にでもいるような気分だ。
「確かに国家だの王位だのは人間の営みの範疇だ。そのあたりがどうなろうと俺はどうでもいい。基本、手出しするつもりはない。ま、こっちに火の粉が飛んできたら話は別だけどな。逆に言えば、俺のあずかり知らぬところで勝手にやっている内は、何がどうなると全然構わない。現在進行形でそう思っている」
「なら、どうしてムスペラルバードに行くんだい?」
重ねられるエムリスの問いを、はっ、と俺は鼻で笑った。
「決まってるだろ。今回の件に限っては、間違っても『人の営み』だとは言えないからだ。だから確認しに行くし、場合によっちゃ力尽くで止める」
自信満々に言い放ったのだが、エムリスだけでなくガルウィンやイゾリテまでもが軽く首を捻った。
「あの、アルサル様……? 何故、今回の件は『人の営み』と言えないので……?」
おずおずと言った様子でガルウィンが問う。さらにイゾリテが、
「シュラト様は世界を救った英雄の一人ではありますが、れっきとした人間なのでは? もちろん、アルサル様やエムリス様のように『人間離れ』したお力をお持ちだとは思いますが、広義の意味では、それでも人間と見てよろしいかと。今回の王位簒奪も充分に『人の営み』だと、私は愚考いたしますが」
うん、よく喋る。
ガルウィンは普通は戸惑っているようだが、イゾリテは俺を『世界の王』の道へと邁進させる絶好の機会だと思っているのかもしれない。
どうやら言葉が足りなかったらしい、と悟った俺は、
「シュラトは人間じゃない。もちろん、俺もエムリスもな」
はっきりと言い切った。
「「――!?」」
声もなく兄妹二人の顔が驚愕に染まる。
これはもちろん俺達がこの世界の住人ではなく、異世界から来た者だという意味もあるが――
「より正確に言えば、【もう人間じゃない】。魔王を倒す直前までは人間だったかもしれないが、そこからはずっと非人間だ。詳しい説明は省くが、色々あって俺達四人は【そういう存在】になったんだ。だから断言する。シュラトは人間じゃない。そして、人間じゃない奴のやったことは『人の営み』の範疇には入らない」
真剣な眼差しで、イゾリテ、ガルウィン、エムリスの順に視線を送る。
「よって、今回ばかりは好きにさせるつもりはない。とにもかくにも直接確認しに行って、事と次第によっちゃあ実力行使だ。以上、何か文句あるか?」
ふんっ、と胸を反らして居直ると、クスッ、とエムリスが笑った。
「なるほど、そういうことならボクから言うことはもう何もないよ。君の中で理屈が通っているというなら、好きにするといい」
などと偉そうなことまで宣う始末。
よくもまぁ、ここまで上手に仮面を被って演技ができるものだ。さっきは自分の責任だの何だのと言っていじけていたくせに――と、そういった思いを込めた視線を向ける。すると、それを察したかのようにエムリスはさっと顔を逸らし、ガルウィン達に水を向けた。
「というわけらしい。残念ながらアルサルは自分の中で理論武装しているようだから、君達の希望には沿えないそうだよ。また次の機会を心待ちにしようか」
わざとらしく肩をすくめて、仕方ないなぁ、とでも言いたげに苦笑する。
いや理論武装ってお前な。それじゃ俺が屁理屈をこねているみたいだろうが。随分な言い方をしてくれるじゃないか。
「ではもし、シュラト様を実力行使で止めたとしても……」
「そのままムスペラルバードの王位は手にされない、と」
もったいない、みたいな顔を向けてくるガルウィンとイゾリテ。
俺は当然のこと、
「いらん。王位なんてものは枷にしかならないだろ。金なら退職金がたんまりあるんだ。実際、ここまでずっと宿に泊まるときは最上級の部屋だったろうが。あれ一応俺が出してるんだからな。昨晩もこの温泉宿でいい部屋に泊まっただろ? 王様になったらこんな旅も自由に出来なくなるんだぞ。冗談じゃねぇって話だ」
頑として譲らない。
一国の王ですら俺から見れば窮屈に見えるのだ。世界規模の王なんぞになったら、どれだけ自由を制限されるかわかったものではない。
たくさんの金と自由気ままな立場――今ほど幸せな境遇もそうはあるまいて。
俺は今の自分の立場がどれほど恵まれたものであるかを、これ以上ないほど理解しているのである。
「ちなみに、肝心のシュラトが【偽物】だったらどうするんだい、アルサル?」
「偽物?」
エムリスの思わぬ角度からの突っ込みに、俺は虚を衝かれた。
「そう、勝手に〝金剛の闘戦士〟シュラトの名を名乗っている不届き者だったら? その場合は君の理屈で言うと『人間』ってことになるけれど」
なるほど、その発想はなかった。
が、確かに可能性はある。
もちろん、ただの人間に五大国の一つであるムスペラルバードを四半日で制圧し、王位を簒奪するなどという真似が出来てたまるものか――とは思うが。
それでもむしろ、俺達の知るシュラトの性格から考えれば、そっちの方がまだ可能性が高いまであるのだ。
しかし。
「――仲間の名前を勝手に騙って舐めたことやってる奴を放置できるわけねーだろ。その場合も容赦なくとっちめてやる。むしろ余計にぶっ飛ばすぞ。二度とそんな馬鹿なことをしようだなんて思わないぐらい、徹底的にな」
仮定の話ではあるが、言っている内に段々と腹が立ってきた。
どこの馬鹿かは知らないが、そんなふざけた野郎がいたら絶対にただでは置かない。
迷惑千万極まりないとは、まさにこのことだ。
「そうか。いや、うん、そうだね。こちらから言っておいて何だけど、それにはボクも同意するよ。もしそんな不届き者がいたら、以降も同じようなことを考えるお馬鹿さんが出ないよう、入念に磨り潰して見せしめにしようじゃあないか。首はどこに飾ったら効果的かな?」
「……俺が言うのも何だが、加減はしろよ? 一応、殺すのはなしだからな……?」
同感の意を表したエムリスが、どこか楽しげに物騒過ぎることを言い出したので、思わず甘引きした俺はぬるいことを言ってしまう。
いや首をどこかに飾る時点で色々とオーバーキルだからな。マジで。
「そういうわけだ。期待に沿えなくて悪いが、俺は『世界の王』なんて目指さないからな。というかだな……いい加減諦めろよ、お前らも……」
ガルウィンとイゾリテに向かって俺は断固として主張したが、その直後には気が抜けたような溜息を禁じ得なかった。
まったくもって二人の往生際の悪さがすごい。何度も断っているというのに、俺を王にして仕えるという希望をまったく捨てないのだ。
ここまで来るといっそゾンビのようで、少々恐ろしくなってくる。
「いいえ! 諦めるなんてとんでもありません!」
「この世界を最も正しい方角へと導くのは、アルサル様を置いて他に存在しません。世界平和のため、ひいては私達兄妹のためにも、念願が叶うまで諦めることは絶対にありません」
ガルウィンは大声でハッキリと。イゾリテは淡々と、しかし熱心に。
前のめりに不退転の決意を語る。
いや、まぁ、意志が強いのはいいことだ。夢を諦めないってのもいいことだ。こういう二人だからこそ俺もエムリスも眷属にしたのだし、成長が早いのも頷ける話ではある。
が、それとこれとは話が別だ。というか、別にさせてくれ。
「愛されているねぇ、アルサル」
「愛って何だよ、愛って……」
揶揄するようにクツクツと笑うエムリスに、俺は哲学的な問いを返すしかない。
「ところで話はガラリと変わるけれど。他のニュースには目を通したかい、アルサル?」
「他のニュース?」
そういえば、一面の見出しがあまりに鮮烈すぎて、そこで新聞を読む手が止まっていた。
が、特段のことがないのにエムリスがこんな質問をしてくることはあるまい。
「……何かあったのか?」
少々嫌な予感を覚えつつ、俺は声を低めて聞き返す。
「ああ、そう身構えなくても大丈夫さ。どちらかというと、君にとっては胸のすくお知らせなんじゃないかな?」
そう言って、エムリスが宙に指を滑らせる。何かと思いきや、魔力でテーブルの上に置いてあった新聞を動かしたようだ。手も触れていないのに、新聞紙が浮かび上がってページをめくり、俺の眼前へとやってくる。
そこには、
「――セントミリドガル王国、敗色濃厚?」
との報が記載されていたのであった。




