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●8 果ての山脈にて 5





「爆発はあっちにも聞こえただろうし、見えたはずだ。となれば、あっちの魔族はどう思うだろうね? なにせ、こちら側と違って情報が一切ない。突然の爆発だ。すわ人間からの宣戦布告か? よもや人類が総勢を率いて攻めてくるのではないか? そう思っても不思議ではないと思うのだけれど、どうだろう?」


「いや、どうだろうって言われてもな」


 返答に困る質問に曖昧あいまいに返しつつも、俺は思考を巡らせる。


 確かにエムリスの言うことにも一理ある。


 こっちは権力者のドレイク王が実情を知っているし、国民には嘘とは言えそれらしい情報を与えて沈静化させている。


 が、『果ての山脈』の向こう側はその限りではない。


 もし逆に、魔界側で突然の大爆発が起こったなら、アルファドラグーン王国は今以上の騒ぎになっていたはずだ。


「……念のための調査、および戦力の配置――それぐらいはするんじゃないか? あっちも」


「だろう? 君もそう思うだろう? やっぱり魔族が魔物をわんさか引き連れてやってくると思うだろう? そう、これは危険だ。とても危険だよ。だからボクは責任を持って対処するべきだと思うんだ」


 俺が予測を口にすると、何故かエムリスは弾むような口調で同意を求めてきた。しかも勝手に話を進めて、うんうん、と仰々しく頷く。


「いや待て、なんでお前そんなに嬉しそうなんだ。めちゃくちゃ怪しいぞ」


「何言ってるんだいアルサル、彼らが連れて来る戦力に竜種の貴族アリストクラットクラスか、それ以上の大物がいるかもしれないじゃあないか! 捕まえるか竜玉を剥ぎ取ることができたら、ボクの研究がより一層いっそうはかどるんだよ!」


 ツッコミを入れたら変なスイッチがオンになってしまった。


 再会した当初はグータラしていたこいつが、ここまで元気に喋っていると言うことは〝怠惰〟の因子に打ち勝っているということで、それはそれで喜ばしいことかもしれないが――


「お前……明らかに【そっち】が主目的じゃねぇか。どの口で責任を持つとか言ってんだ。嬉しそうな顔をしやがって」


「おや? これはなことをいうね、アルサル。ボクは別に罪悪感を持っているわけじゃあないんだ、嬉しい時は嬉しそうに振る舞うに決まっているじゃないか。何か問題あるかい?」


 責任は感じているが、罪悪感はない――平然とうそぶくエムリスに、俺はもはや返す言葉を持たなかった。


「しかしまぁ、あっちも大所帯で動くだろうからね。まだ一晩しか経っていないし、しばらくはこのあたりで様子見をしようかと思ってね。別に急ぐ旅じゃないんだろ、アルサル? ここで久しぶりに野営キャンプといこうじゃないか」


 ふふ、とエムリスは懐かしげに笑った。


 ここで久しぶりに野営、という言葉に俺の記憶野が刺激される。


「……そういえば、魔界に乗り込む前にもここいらで野営したっけな」


 敵の本拠地である『魔の領域』――エムリスが言うところの〝龍脈結界〟によってへだたられた土地を前に、当時の俺達四人は『これが最後になるかもしれない』と思いながら野営した。


 なにせ、魔界に入れば何が起こるかわからない。ゆっくり体を休める余裕があるかどうかもわからないし、なんだったら人界に生きて帰ってこれる保証すらない。


 だから四人とも、それぞれ思い思いの夜を過ごした――そんな思い出が、ふと脳裏によみがえってくる。


「そうさ、実際に〝ここ〟だよ。あの時ボク達が野営したのは」


 ちょいちょい、と地面を指差してエムリスが言う。


「え、マジか? ていうかよく場所を覚えていたな、お前」


 だから即座にこんな場所まで転移できたのか、と得心がいく。


 しかし。


「……覚えていない君がおかしいんだよ。本当に……ああ本当にまったく、結局アルサルはアルサルだね。なんてデリカシーのない……」


「? ? ? ?」


 何だかよくわからないが、ものすごい勢いで呆れられてしまった。


 はぁぁぁぁ、とそれはもう深い溜息を吐くエムリスに、まったく心当たりのない俺はどう反応したものかと困る。


「まぁいいさ、ちょっと予想はしていたからね。それより」


 エムリスのほのかに青白く輝く瞳が、改めてガルウィンとイゾリテに向けられる。


「設営でもしながら、改めて君達の話を聞こうじゃないか。さっきは、騎士爵の位階を叩き返した、なんて言葉まで聞こえていたことだし。少し気になっていたんだ」


 くす、と意味ありげに微笑む〝蒼闇の魔道士〟。


「お、そういえば俺もそこは気になってた。ガルウィン、お前、本当に貴族をやめてきたのか?」


「ええ、もちろんです。イゾリテも賛成してくれました」


「当然の結果です」


 ガルウィンが首肯すると、イゾリテも追従した。


 いや、何が『もちろん』で『当然』なのか、さっぱりわからんのだが。


 うん、まぁ、何となく察しはつくが――それだけに、何とも言えない気分になる。


 ともあれ、二人の話を聞いてみないことには始まらない。


「じゃ、とりあえず……テントを張りつつ事情を聞こうか」


 そう言って、俺はストレージの魔術を発動させ、野営に必要な道具を取り出したのだった。







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