●6 指先一つで山を穿つ 1
「魔力とは〝魔の力〟、即ち世界の理に反する力。そして、理力とは文字通り〝理の力〟、即ち世界を構成する原理に沿った力だ。だがここに、第三の力として『聖力』というものがある」
不毛の荒野に、エムリスの声が朗々と響き渡る。
「アルサルも知っての通り、かつてのボク達の仲間であるニニーヴが使っていた力だね。その名の通り、聖神を由来とする〝聖なる力〟だ。ま、聖なるって何だろうね? って話になると〝魔に抗する力〟と言う他ない。魔力が〝理に反する力〟なら聖力は〝理に従わせる力〟だ。これらは相反していて、知っての通り原初の時から反発し合っている」
風が吹く。うららかな午後とは思えぬ、冷たく乾いた風だ。濃厚な魔力による〝汚染〟は大気すら退廃させる。
「これが故、ニニーヴは〝白聖の姫巫女〟として魔王討伐のメンバーに選ばれたわけだね。彼女の力は魔を中和する。つまり魔族や魔物、ひいては魔王そのものを弱体化させることが出来るのだからね。実に得がたい才能だった。ボクは彼女と共に旅が出来たことを今でも誇りに思っているよ」
「なぁ、エムリス」
「なんだいアルサル? まだボクの講義は続いているのだけど」
辛抱しきれず声をかけてしまった俺に、間髪入れずエムリスが言い返す。まるでバリアでも張るかのように。
「いやはや、そう考えるとこの場にニニーヴがいなかったのが本当に悔やまれるね。彼女の聖力があればこんな結果にはならなかったかもしれない。竜玉が超過稼働して砕けることもなかっただろう。せっかくアルサルが持ってきてくれたお土産だったのだけどね。いや本当に残念だよ。これは心からそう思っているよ。嘘じゃない」
ペラペラペラペラと調子よく喋り続けてきたエムリスが、ここでようやく一拍以上の間を置いた。
ここが好機と見た俺は、はぁぁぁ、とこれみよがしに深い溜息を吐いてみせる。
「――――」
またぞろ何か喋って誤魔化そうとしていたエムリスが、石像になったかのごとく静止した。
俺は極力感情を交えず、淡々と、必要なことだけを言った。
「……何か言うべきことが、あるよな?」
かつては緑輝く平原だった、今は草一本生えない不毛の大地。
その上にプカプカと浮いている魔道士は、
「……………………ごめんなさい……」
蚊の鳴くような小さな声で謝罪したのだった。
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