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●33 削れていく心根








 さて、何がどう地獄なのかなどは言わずとも知れようものだが。


 とうにお膳立ては整っていたのだ。


 魔王エムリス率いる魔竜王とアルファードの群れに、魔族と魔物の軍隊。


 聖女ニニーヴが使役する名状しがたき合体聖具に、その周囲を飛び回る剣や槍といった形状の白兵武器の群体。


 ニニーヴの結界のおかげで外界には何ら影響は出ていなかったが、それだけに内部は嵐の海よりもなお酷い有様だった。


 まっとうな生き物がほとんどいなかったのが不幸中の幸いだった、と言う他ない。


 結界内に響き渡る阿鼻あび叫喚きょうかんは、主に魔族と魔物のもの。


 まぁ今ここにいる生命体と言えば、俺とエムリス、ニニーヴを除けば魔族と魔物ぐらいなのだから、当然と言えば当然だが。




『 そら そら どうしたんだい? その程度の火力じゃあボクには届かないよ? 興味深い合体機構で図体は大きくなったようだけれど、それは見てくれだけかい? ねぇニニーヴ 』




 フラットな口調のくせに、紡がれる言葉はやたらとリズミカルだ。エムリスの中で〝怠惰〟と〝残虐〟が綱引きでもしているのだろう。


 気が狂ったように、魔竜アルファードの群が魔力を孕んだ疑似竜砲を乱射する。ドス黒く染まった熱閃は大気を灼き焦がし、ニニーヴの合体聖具のあちこちに突き刺さっては弾け飛ぶ。しかし、




『 やっかましいわこのアホンダルァ! ゴチャゴチャいうてる暇があんならもっと火力ひり出せやボケカスオルァ! 全然きいてへんぞゴルァアァアァアァ! 』




 聖女とはとても思えぬ巻き舌のオンパレード。


 知らなかった。ニニーヴが怒鳴ると、あの鈴を転がすような天使の声音が、ここまで濁ってガラガラになってしまうのか。


 全然きいていない、の言葉通り、確かに魔竜のブレスは合体聖具の巨体にほとんど傷をつけられていなかった。中には魔竜王による極太の竜砲も混ざっているのだが、それですらビクともしない。


 合体聖具に充填された聖力が膨大すぎて、魔力による攻撃を完全に中和しきっているのだ。


 完全なる防御――さすが〝白聖の姫巫女〟は伊達じゃないと言ったところか。


 しかし防戦一方では負けはしないだろうが、同時に勝ちもない。


 無論のこと合体宝具のあちこちから突き出た砲口や砲塔、宙を飛び回る羽鳥のごとき白兵武器の群れによって反撃は行われていた。これにより魔竜や上級魔族はともかく、魔物の群はいっそ面白いほど激烈に虐殺されている。


 人類が持つ理力とは違い、聖力は明確に魔力に相反する力だ。火に大量の水をかけると消えるように、あるいは猛烈な火炎によって水が蒸発するように、常に強い方が勝ち、負けた方は消滅する。


 つまり魔物にとって、聖力の籠もった武器はまさに天敵。


 乱舞する白兵聖具が魔物の群を蹂躙していく様は、燎原の火もかくやという勢いだった。


 しかしながら、戦果が出ているのは原則、知性のない魔物のみ。上級魔族や魔竜アルファードは、魔竜王の体内にいるエムリスが垂れ流す濃密な魔力を取り込み、肉体を強化することによってニニーヴ側の猛攻に耐えていた。


 とまぁ、言葉で説明すると以上のようになるわけだが、その実際はというと、


「……うるせぇな、ガチで……」


 俺はげんなりして呟いた。


 両陣営が手加減抜きで殴り合っているのだ。先日アルファドラグーンで観光した『ドラゴンフォールズの滝』の大瀑布よろしく、間断なく爆音がとどろき続けている。音の響きだけで電流を流したかのごとく全身がビリビリと震えるほどだ。ぶっちゃけ、常人ならこれを浴びただけで再起不能になるだろう。


 派手も派手。やはりイゾリテをともなって来なくてよかった、と心の底から思う。いくら眷属化で強化されているとはいえ、こんな場所に来たら高速のローラーで巻き込まれるようにあっさり死んでしまう。


 だが、そんな乱痴気騒ぎもここまでだ。


 全身にグッと力を籠めると、皮膚上に張り巡らされた輝紋に銀色の光が灯り、浮かび上がった。


「――弓を持て、〝リゲル〟。弓弦ゆづるを張れ、〝アルファケンタウリ〟。矢をつがえろ、〝ハダル〟」


 星の権能を呼び起こす。それも三つ同時に。


 別段、一度に扱える星の権能が一つだけだと言った覚えはない。なんなら、その気になれば全ての星の権能を一挙に扱うことだって可能だ。


 もっとも、それほどのエネルギーを何に使うのかが問題になってくるわけだが――


 ともあれ、俺の身に宿った権能が天空より輝光ひかりを呼ぶ。


 我ながらこの無駄な演出は、ある意味で俺の最大の弱点だと言わざるを得ない。なにせ、いかなる時であっても星の権能を召喚するだけで空から光が落ちてくるのだから。


 これでは俺の居場所と、これから強い攻撃を放つことを大声で宣言するようなものではないか。


 おかげで不意打ちや奇襲といった戦法が非常にとりづらい。まぁ、そんな卑怯な真似をする奴なんぞ勇者と呼べるか、といった理由での〝銀穹の勇者〟特有の仕様なのかもしれないが。


 ともあれ俺の内に宿った三つの星の力を収束させると、一具いちぐの弓矢となる。青白い弓幹ゆがらに、黄色の弓弦、そして青白い矢。それぞれの星の輝きを凝縮して形成した弓矢が、俺の手の内へと出現し、当たり前のように構えられた。


 もうこの時点で、エムリスとニニーヴ側には俺の存在が露見しているはずだ。空から三つも流星が降り、一カ所に集まってこれでもかと光を放っているのだから。


 といっても見ての通り、既に戦場の様相がカオスに過ぎるので、目を灼く光景に紛れて気付かない可能性もなくはないが。


 だが今回の場合、俺としては意地でも気付いてもらわなければ困る。


 何故なら俺の目的は、この馬鹿げた戦闘を止めること。当初の目論見から外れまくった現状には何の意味も見いだせない。ましてや八悪の因子を宿す者同士の殺し合いなど、不毛の極みである。どれほど不毛かというと、コンクリートの上に花の種をまく方がまだしもマシなぐらいだ。


 だからこそ、二人には俺の存在に気付いてもらい、戦いの手を止めてもらわねばならないのだ。


 というか、さっさと正気に戻ってくれ。頼むから。


「――〈アンタレス・ピアサァ〉」


 エムリスとニニーヴ、魔王軍と合体聖具とが激突する戦場のど真ん中へ、撃滅の矢を放つ。


 地上から天空へ。さながら、重力に逆らって大地から宇宙へと飛び出す流星のごとく。


 俺の手から離れた矢は、途端に膨張を始めた。そのまま止まることなく巨大化を続け、際限なく大きくなっていく。細い棒から丸太がごときサイズへ。さらに膨れ上がり、列車を超え、王城を超え、どこまでもどこまでも――


 星の心臓を穿つ矢なのだ。並大抵の大きさで収まらないのは、むしろ当然のことであった。


 斯くして魔道士と聖女の陣営が繰り出す猛攻の真っ只中を、天空に浮かぶさそりの心臓を穿ったとされる伝説の矢が、一切の容赦なくぶち抜いていく。


 刹那、全ての攻撃が星穿の矢に打ち負け、吹き飛んだ。


 矢が通り過ぎていった後に残るのは、ただただ静寂。


 流星が全ての音をさらっていったがごとき静けさ。


 これまで戦場を席巻していた轟音の一切が消えた。


 それがむしろ、どんな大音響よりも雄弁に俺の存在を喧伝する。


 数え切れないほどの注目が、戦場の端――忽然と現れた巨大な矢の発生源へと集まってくるのがわかった。


 無論、魔竜王の体内にいるエムリス、合体聖具の傍にあるだろうニニーヴからの視線も。


 俺は複数の理術を同時に発動させ、肉声、拡声、通信といったありとあらゆるチャンネルを使って語りかけた。


『よう、何やってんだお前ら。馬鹿やってないでとっとと落ち着けよ。というかな、もう俺達もいい大人なんだぜ。そろそろ周囲の迷惑を考えろって話だぞ』


 鷹揚おうようと二人をたしなめる。まぁ、周囲の迷惑ってレベルの状況ではなかったりするわけだが。ニニーヴの結界がなければ、俺の〈アンタレス・ピアサァ〉も含めて人界全体にどえらい被害が広がっていたわけだが。


 だからこそ、互いの猛攻を根こそぎ吹っ飛ばした一撃で二人の目も多少は覚めると思ったのだが――




『 ああ、来たみたいだね、鈍感男のアルサルが 』




『 ほんまや。のうのうとやって来よったわ、思わせぶり男が 』




 氷塊を擦りつけるような声音が、エムリスとニニーヴの双方から発せられた。通信ではなく、変わらず戦場全体に響く拡声で。


『……えっ?』


 な、何だ? 今、明らかに二人の敵意がそれぞれ矛先を変え、俺に一極集中したような気がするのだが。




『 落ち着け、だってさニニーヴ。どうやらボク達は落ち着いていないように見えるらしいよ 』




『 せやねぇ、見ようによっては〝そういう風〟に見えたかもしれへんけど。相も変わらず目が節穴っちゅうか、なんちゅうかね 』




 いやいや。お前ら、ついさっきまでの言動をもう忘れたのか? 思いっきりテンション上げてバカスカ撃ち合ってただろうが。


 というか、何なんだこの空気は。何故かいきなり俺だけが針のむしろに座らされているんだが。


『ま、待て待て。話が見えん。じゃあ何だ、さっきまでのは茶番だったって言うのか? 説明してくれ』


 だとしたら、ド派手に邪魔しに来た俺が馬鹿みたいではないか。道化もいいところである。




『 説明も何も。見ての通り、ボク達は【じゃれ合っていた】だけじゃあないか。君にはどんな風に見えていたんだい、アルサル? 』




『 せやせや。ウチもエムリスはんも楽しく遊んでただけやで? 見てわからんかったん? 』




『…………』


 絶句。二の句が継げぬとはまさにこのことだ。


 だが、黙っていても事態は好転しないどころか、逆に俺の立場が悪くなっていく一方なのもわかっている。


 故に、俺はどうにか抗弁しなければならなかった。


『――というか、だ。お前ら〝暴走〟していたんじゃないのか……? 二人とも明らかに様子がおかしかっただろ』


 何度思い返しても、やはり先程のエムリスとニニーヴの言動は尋常ではなかった。


 今だって単に平静を装っているだけで、八悪の因子の影響で精神が汚染されている可能性は決して否定できないのだ。




『 暴走? このボクが? やれやれ、見くびられたものだね。ボクを誰だと思っているんだい? 』




『 ああ、さっきのウチのことは気にせんといて。久しぶりに顔見知りとうて、ちょいと荒ぶってしもうただけやから。ウチは昔と変わらず、清楚で大人しい女子おなごのままやで? 知ってはるやろ? 』




 どっちだ? 今の二人の反応は、確かに俺の知るものだ。


 二人の言葉を信じるのなら、どちらも〝暴走〟はしていない。しかし――


『……悪いが、信じられないな。エムリス、ニニーヴ、今のお前達は絶対におかしい。断言してやる。お前らは今、因子の影響で馬鹿になってるぞ』


 俺の中の天秤は、明確に傾いた。


 理由は単純。


 現在進行形で、エムリスとニニーヴの二人から、冗談事では済まない規模で敵意が発せられているからだ。


 主に俺に向けて。


 どう好意的に解釈しようとも、広義の意味で『味方』に向けるレベルの感情では絶対にない。


 だからこそ俺は確信する。今の二人は間違いなく八悪の因子が〝暴走〟していると。


 かつてのシュラトがそうだったように。




『 ふーん、へぇ……なるほどね。そうかい、つまり君はボク達のことをまったく信用していないと――つまりはそう言いたいわけだね? いやはや、面白いじゃあないか。普通に腹が立ってきたよ。君みたいな鈍感な男に、自分はいかにも鋭い男だぞ的なことを言われるとね 』




 エムリスの声の温度が益々下がっていく。再会した時点で既に氷点下だったものが、さらに冷たく凍えていく。それに応じて、俺に向けられる重圧プレッシャーもいや増していく一方だ。




『 ボクが思うに――君は一度、痛い目を見るべきだね。うん、そうだ。少しばかり泣くべきだ。だから、ボクが君を懲らしめてあげよう。たっぷりとね 』




 エムリスの放つ敵意が完全にこちらを向いた。先刻までニニーヴに割かれていた分まで、一滴残らず俺に注がれる。


 そら見たことか。言動と雰囲気がさっきニニーヴと撃ち合っていた時と同じに戻っているではないか。抑揚のない口調といい、嗜虐的な物言いといい、完全に〝怠惰〟と〝残虐〟に呑まれてしまっている。




『 ええねぇ、エムリスはん。それについてはウチも同感やわ。なんや、アルサルはんみたいに思わせぶりな態度ばかり取って、実際には何もしてけぇへんような御仁ごじんには、ここいらで一つ……ううん、三つ四つぐらい、お灸を据えてやらなあかん思うんよ。ほんまに 』




 ニニーヴが同調する。


 言葉遣いこそ俺のよく知るニニーヴのものだが、声音に険が籠もりすぎている。まるで苦虫を噛み潰しながら喋っているかのようだ。


 何というか、腹の底で暴れ回る癇癪かんしゃくの虫を、理性で無理矢理押し殺しているかのような――溢れる害意をどうやっても隠しきれない、そんな声に聞こえた。




『 なぁ、アルサルはん 』




 ニニーヴの喉から、はぁ、と熱い吐息の気配。




『 ――いっぺん、死んでみよか? 』




 その一言が火蓋を切った。


 エムリスと同じく、ニニーヴの意識が完全に俺へと向けられた。


 俺を共通の敵と見なした瞬間、どうやら二人の間で言葉もなく同盟が結ばれたらしい。これまでお互いに向けられていた砲口が一斉に旋回。俺を照準する。


『な、ちょっ――!』


 まさかとは思っていたが、マジか。最悪の展開に、しかし俺は反射的に対応する。改めて星の弓矢を引き絞り、再び〈アンタレス・ピアサァ〉を放つ体勢へ。


 無論、相手はエムリスとニニーヴ。甘いわけがない。俺が行動を起こすよりも早く、二人の猛攻が雨あられと降り注いだ。


 魔竜の竜砲ドラゴンブレス、合体聖具の砲撃、他諸々。


 どれもエムリスの魔力、ニニーヴの聖力がふんだんに籠められており、はっきり言えば即死級。シュラトの拳や蹴りと同じく、常人なら百回死んでもおつりの出る破壊力が迫り来る。


 もはや俺は被弾を覚悟して、全身に〝氣〟を充填。銀の輝紋が苛烈に煌めき、目を灼く光を放った。


 炸裂。


『ぐぅっ……!』


 轟音、衝撃。


 そんじょそこらの有象無象の攻撃ではない。かつて共に戦い、魔王を倒した仲間からの攻撃だ。決して滅びることのない肉体とは言え、感覚を失っているわけではない。『果ての山脈』であれば蜂の巣になっていたであろう砲撃の嵐が、容赦なく俺の全身を乱れ打ち、穿うがち、削っていく。


 率直に言って、めちゃくちゃ不快な感覚だった。


『――っだぁぁぁぁオラァッ!』


 というかキレた。普通にむかついたので大人げなくムキになり、全身を巡る〝氣〟だけで全部弾き返してやった。


 そのまま強引に弓を引き絞り、


「〈アンタレス・ピアサァ〉ッ!!」


 矢を放った。


 途端、星の矢から生まれるエネルギーの波濤はとうが、殺到する全ての攻撃を呑み込み消滅させていく。


 先程エムリスもニニーヴも甘くないと言ったが、俺だって甘くはない。そもそも攻勢というのは一撃で終わるものではなく、無数の攻撃を連続で畳み掛けるものだ。


 先程と同じく、膨張しながら地上から宇宙へと飛び上がっていく輝光の矢。それがもはや矢というより、極太の光の塊になった瞬間、盛大に爆発。数え切れない光の粒が星屑のごとく弾け飛ぶ。


 お察しの通り、この光の一粒一粒が次なる攻撃だ。


 目には目を、歯には歯を、弾幕には弾幕を。


 煌めく星屑が、そのまま流星雨と化した。




『 小癪こしゃくだね 』




『 しょーもな 』




 エムリスとニニーヴの辛辣なコメントに、うるせぇ、と返すいとまもなく、俺は次なる手を打つ。


 エムリスが魔竜の群れを操り、ニニーヴが合体聖具と浮遊する白兵武器をもって流星雨の矢に対応する最中、光の弓矢を解除して新たな星の権能を呼び起こす。


「――夢からめろ、〝ベテルギウス〟」


 右手に魔の星を。


「――なみだぬぐえ、〝スピカ〟」


 左手には聖なる星を。


 それぞれ召喚した真逆の星の力を、両手に〝氣〟を収束して形成した二振りの〝銀剣〟へと宿らせる。


 知っての通り、ベテルギウスは魔力を司る星辰せいしん。周囲の魔力を吸収して紅銀の刃を作り出し、力を発揮する。


 スピカはそれと似て非なる星。魔力と正反対の力――即ち聖力を司る星辰だ。ベテルギウスと同じように大気中の聖力をかき集め、蒼銀の刃を生み出す。


 果たして俺の右手には紅銀に輝く光の大剣が。左手にも蒼銀に煌めく巨大な光刃が握られた。


『お前らの力――利用させてもらうぜ!』


 この空間にはエムリスの魔力、ニニーヴの聖力が嫌というほど充満している。どちらも量が豊富な上、質も極上だ。使わない手はない。


 魔力の扱いを得意とする相手に魔力をぶつけても効果的ではないし、聖力もまたしかりだ。故に魔の紅銀剣を向けるべきはニニーヴであり、聖なる蒼銀の切っ先が指し示すはエムリスとなる。


「――ぉぉおおおおおおおおおおおおッッ!!」


 良くも悪くも相手は知己であり、手加減の必要など一切ない。俺は遠慮なくそこそこ本気で紅と蒼の双刃を振るい、斬撃波を放った。


 を描いた斬閃は大気を切り裂き、超高速で飛翔する。


 エムリスが搭乗する魔竜王へと飛んだ三日月形の斬撃波は、その途上にいた魔竜アルファードの十数体を容赦なくぶった切った。どいつもこいつも先んじて放った〈アンタレス・ピアサァ〉の拡散矢の対応にかかりきりだった為、蒼銀の閃刃にはまったく気付かなかったらしい。


 しかし。




『 〈雷霆一閃ジャッジメント・ケラウノス〉 』




 無詠唱で放たれる、しかし絶大な破壊力を誇る大魔術。


 天空から光の速さで落ちる霹靂へきれきが俺の斬撃波と激突し、相殺し合って消滅した。


 一方、ニニーヴめがけて飛来した紅銀の斬閃はというと、合体聖具の胴体と思しき部位――一番太く、無骨で装甲が厚く見える――に炸裂する。が、流石は防御力に定評のあるニニーヴの手による代物だ。チェーンソーよろしく削り取るようにして装甲を切断し、聖具内部へと食い込んでいった斬撃波は、しかし中途でエネルギーの全てを使い切って消失した。せっかく直撃したというのに、完全に切断するまでは足りなかったのだ。


 しかも。




『 無駄やで、アルサルはん。知ってはるやろ? 』




 装甲に刻まれた深い傷が、見る見るうちに塞がっていく。無機物の金属で出来ているはずの聖具が。まるで生き物のように、人間で言えば内臓に達するほどの重傷を、時間の流れを逆さにしたかのごとく回復させていく。


 これがニニーヴの怖いところだ。どんな攻撃を仕掛けようとも大概は防がれてしまうし、その鉄壁の防御をすり抜けて直撃を与えたところで、よほどの致命傷でもなければ一瞬で完治されてしまう。


 いわば一種の無敵状態だ。


 本気になったシュラトと同種の厄介さを、ニニーヴもまた有しているのである。




『 というか、ウチの居場所わかっとるん? 見当違いやで 』




 挑発か、なけなしの慈悲か。ニニーヴが痛いところを突いてきた。


『チッ――』


 俺も思わず舌打ちを返す。


 まったくもってその通りだ。俺は未だにニニーヴの正確な位置を把握できていない。


 エムリスはわかりやすい。魔竜と化したアルファードの内、一際大きい――だから魔竜王と名付けたわけだが――やつに搭乗しているのは間違いない。


 だが、ニニーヴは先程から声は聞こえども姿は見えず、気配も徹底的に隠蔽いんぺいされている。


 わかりやすい対比だが〝蒼闇の魔道士〟であるエムリスは攻撃に特化し、〝白聖の姫巫女〟であるニニーヴは防御に秀でている。その上で結界やら転移といった術はアプローチの系統こそ違えど両者それなりに使えるから、これまた厄介だったりするのだが。


 ともあれ『身を守る』ことに関してなら、ニニーヴは俺達四人の中でも随一だ。本気で行方をくらませられたら、誰がどう探そうと絶対に見つかりっこないと断言できる。


 故に俺は先程『おそらくこのあたりにいるだろう』と当たりをつけて合体聖具の胴体部を攻撃したわけだが――ニニーヴは見当違いだと告げた。しかし、


『――そいつが嘘か本当かもわかんねぇんだけど、な……!』


 半分ぐらいヤケになって、左腕の蒼銀の刃から連続で斬撃波を放つ。照準は適当だ。ニニーヴの居場所がわからずともかず打ちゃ当たるの精神だ。


 シュラトの時もそうだったが、もし本気でニニーヴに勝とうと思うなら、有効な戦術は速攻しかない。再生の隙を与えず、持てる最大火力で防御をぶち抜き、一気に決着をつける――それしか勝利への道筋はないのだ。


 が、そんなことはニニーヴとて百も承知に決まっているし、なによりそこまでの勝利を俺は望んでいない。


 だから手加減なしでもニニーヴが大きく傷つくことがないのは、むしろ安心なのだが――


 俺の放った斬閃が合体聖具のあちこちに着弾し、またしても深い傷跡を刻み、そして当たり前のように消えて行く。


 そんな中、くすり、とニニーヴがほくそ笑む気配。




『 ほな、そろそろええ頃合いや。おいでやす、【聖霊ミドガルズオルム】 』




「――は?」


 ニニーヴの口から嫌な名前が飛び出した。


 聖霊ミドガルズオルム? いや馬鹿な。あれは俺がぶっ壊したはずだ。ついさっき残骸だって見た。ズタズタになって、完膚かんぷなきまでに全壊していた。


 はずだ。




『 おや? なんだ、そんな隠し球を持っていたのかい、ニニーヴ。道理でさっきまで妙に大人しいと思ったよ、はははは 』




 背筋を駆け抜ける嫌な予感を補強するように、エムリスがまるで他人事のようにせせら笑った。といっても、〝怠惰〟の影響でほとんど棒読み状態だったが。


 いや、だが、しかし――確かに。


 よく考えれば、あのニニーヴがエムリスと【互角のせめぎ合いをしている】という時点でおかしかったのだ。


 防御や支援、回復を主にしておきながら、実はニニーヴはさほど気が長いタイプではなかったりする。


 一見して真逆とも思えるエムリスと、しかしそこだけは意外と似ていて、やけにせっかちな面があるのだ。


 もちろん、八悪の因子の〝憤怒〟と〝嫉妬〟を担当するだけあって、ニニーヴは苛立ちや怒りといった激情とはほとんど無縁だった。


 こう語るといかにも矛盾しているように聞こえるかもしれないが、要はエムリスもニニーヴも『己の感情を意識的に無視することが出来る』タイプであり、物事に対して理詰めで【最短距離】を選ぶところがあるのだ。


 つまり、耐久戦が得意なくせして速攻が有効な場面では躊躇ちゅうちょなく前へ出て攻勢に移る――そんなところがニニーヴにはあった。


 不意に、俺の遙か後方――セントミリドガル王国の方角から、巨大な気配が立ちのぼった。大気が、大地が、それぞれ震動して大質量の【何か】がうごめき始めたことを知らせる。


 まさか――なんて思考は無駄だ。ここはニニーヴが嘘をついても意味などない場面だ。ああ言ったからには【動くのだ】、俺が殲滅したはずの聖霊ミドガルズオルムが。


『――ってことは、さっきの接戦は時間稼ぎってことかよ……! ああくっそ、相も変わらずそういうところだけはしっかりしてるよなぁ!』


 悪態もつきたくなる。我ながら十年のブランクで、すっかり頭が日和ひよっていたらしい。思えば、魔王討伐の際に【笑顔で魔物や魔族を屠っていた】ニニーヴが戦局を膠着こうちゃくさせるなど、そんな穏当な戦術を用いるはずがなかったのだ。


 ドデカイ一発を狙っているが故の、消極的行動。そう、嵐の前の静けさだったのだ。


『吼えろ、〝シリウス〟』


 転瞬、俺は決断した。というか、覚悟を決めた。ニニーヴの敵意が〝本物〟であると判断し、我知らず心にかけていたブレーキとリミッターを解除したのだ。


 ここからはガチの本気で行く。


 それほど、ニニーヴが聖霊ミドガルズオルムを再起動させたという事実は――【重い】。


 星の権能を呼び起こし、両手に握った紅銀と蒼銀の大剣が収斂し、通常サイズのかたなへと変じる。ベテルギウス、スピカの権能にシリウスのそれを相乗させた『銀刀ぎんとう』だ。


 振り返れば、鬱蒼うっそうと茂る『ビューボイジャーの森』の遙か上空に、無数に連なった列車がごとき長大な影が浮かんでいる。


 言わずもがな、俺がこれでもかと破壊したミドガルズオルムの残骸。


 ニニーヴの呼びかけに応えたのだろう。おそらくセントミリドガル全土を包囲していた全ての残骸が宙に浮き、空を渡って移動してきているのだ。


 ここから先は、過去の経験から大体想像がつく。


 高速で飛来したミドガルズオルムの残骸は、既にここにある合体聖具とさらなる合一を果たすだろう。その巨大さは、もはや想像の埒外。なにせ大国一つを取り囲んでいた怪物がミドガルズオルムなのだ。その巨躯を一カ所に集めたら、一体どうなってしまうかなど考えたくもない。


 ただ少なくともこの戦場――即ちセントミリドガルとヴァナルライガーの国境線付近は確実に崩壊する。というか、下手しなくてもミドガルズオルムの溢れる膨大な質量は北南にも波及し、ニルヴァンアイゼンとムスペラルバードにまで被害が及ぶだろう。


 だから、その前に斬るしかない。


 殺せないことは百も承知で、ニニーヴの回復再生が間に合わないほどめちゃくちゃに切り刻んで、聖具に流れ込んでいる聖力の源を断つしか止める方法はないのだ。


 ――できるか……? 星剣せいけんも抜かずに……!?


 俺の切り札、レイディアント・シルバーを人界で振るうわけにはいかない。冗談抜きで余波だけで世界が滅ぶ。


 ニニーヴの抵抗はもちろんのこと、エムリスの横槍まで入れば、さらにひどい結果になるのは想像に難くない。


 だから、どうにかやってやるしかないのだ。


『――共にあって並び立て、〝ディオスクロイ〟』


 俺の有する星の権能の中でも、ひどく特殊なものを呼び起こす。


 ディオスクロイは別称であって正式な星の名ではない。本来の星の名は『カストル』と『ポルックス』。夜空に輝く星座の一つ、双子座の中核をなす双星だ。


 遙か空の彼方で結ばれる双子の絆は、何があろうと決してほころびることはない――そんな特性を持つ双子星の権能を、魔星ベテルギウスが宿る紅銀の、聖星スピカが宿る蒼銀の、そして天狼星シリウスによって収斂された『銀刀』へと合一させる。


 果たしてしょうじる現象とは――二振りの銀刀の一体化。


 聖と魔の力持つ二刀が、一つに。


 即ち――聖魔せいま相克そうこく剣〝バルムンク〟。


 聖剣にして魔剣。


 魔剣にして聖剣。


 相反する二つの属性を内包し、混合しながらも反発し、せめぎ合うエネルギーを内に秘めた、奇跡の豪剣である。


 言ってしまえば剣の内部で魔力と聖力の対消滅がひっきりなしに起こっており、それにより魔力でも聖力でもない、そして理力でもない『新たな力』が発生しているのだ。


 手前味噌になってしまうが、こいつはかなり強力な武装である。


 俺の最大の奥の手である星剣レイディアント・シルバーには流石に劣るが、それでも次点をやりたいぐらいには馬鹿げた威力を発揮してくれる。と言っても、星剣に次ぐ武器なら他にいくつもあるのだが。


 ともあれ、エムリスとニニーヴ、それぞれ魔と聖の最高峰を相手取るなら、こいつほどうってつけの剣はない。


 聖魔相克の名に恥じず、どちらの力であろうと関係なく、盛大にぶった斬ってやることが出来るのだから。


 俺は空の彼方から次々に近づいてくるミドガルズオルムの残骸を視野に入れつつ、やけくそ気味に呟いた。


『ったく、いい加減に目ぇ覚ませよな、極道ごくどう聖女さんよ……!』


 バルムンクまで持ち出しておきながら何だが、しかし正直に言えば戦いたくなどないのが本音だ。お互いに八悪の因子を有しているおかげで死ぬことがないのはわかっちゃいるが、仲の良かった相手、しかも女ともなれば、どうしたって躊躇ちゅうちょを禁じ得ない。




『 ニニーヴばかりに気を取られていて大丈夫かな? ボクのことを忘れてやしないかい、アルサル 』




 馬鹿げた勢いで膨れ上がる魔力の気配。


 忘れてるわけねぇだろ、と言い返す間もなく、




『 〈天照顕現オオヒルヒメノムチ〉 』




 エムリスの奴が、出し抜けに大魔術を発動させやがった。


 直後、カッ、と大空が真っ白に染まるほど眩しく輝く。


 その瞬間から、地上へと降り注ぐ致死ちしの熱光線。


 俺の足元の大地が一瞬にして赤熱したかと思えば、どろり、と輪郭を失う。


 術名からして嫌な予感がしていたのだが、エムリスの奴、予告抜きでとんでもない魔術を使いやがった。


 戦場のすぐ上空に、【小型の太陽】を召喚したのだ。


 エムリスが発動させた〈天照顕現オオヒルヒメノムチ〉は、名称からして太陽神アマテラスの別名であり、そこから熱に関する魔術であることがわかる。


 そう、十年ぶりに再会してからこっち、これまであいつが見せてきた〈雷霆一閃ジャッジメント・ケラウノス〉や〈裂空破断ティフォン・インディグネイション〉、〈氷結地獄アブソリュート・ゼロ〉などと並ぶ、炎熱系の大魔術だ。


 普通の魔術師なら長い長い詠唱の果てにやっと発動できるこの大魔術を、無詠唱ノーアクションで即座に放つことができるのだから、まったく規格外が過ぎて心の底から呆れてしまう。


 言うなれば撃鉄も起こさず、トリガーも引かずに弾丸を発射できる拳銃みたいなものだ。


 いや、破壊の規模を考えれば原子爆弾と言っても過言ではない。


 つくづく洒落にならない奴である。


『邪魔すんなよ、根暗魔道士……!』


 発動して数秒で、早くもこの場は焦熱地獄だった。ニニーヴの結界内でなければ世界中に被害が出ていたに違いない。しみじみ、イゾリテをこの場に連れてこなくてよかったと思う。


 俺は両手で形成した聖魔克服剣バルムンクを下段に構えた。


 紅銀と蒼銀の光が複雑に絡まり、螺旋を描き、常に流動しているように見える刀身。その性能上、こういった見た目になるのは仕方ないと言えば仕方ないのだが――これ、俺が元いた世界の感覚では『ゲーミングなんちゃら』というのではなかろうか。


 などと頭の隅で考えつつ、俺はバルムンクを大上段へ振り上げた。


 風切り音すら立たない鋭い一閃。


 前にも言ったが、俺の作り出す剣は『絶対切断の概念』そのもの。たとえ糸のような細い刃であろうと、物理的に断てぬものなど存在しない。


 それをさらにシリウスの権能で強化した上、ベテルギウスとスピカの権能まで上乗せしている。


 いまや物理だけでなく、概念的にも斬れないものなどほとんどない。


 故に、この場に満ちた魔力だろうと真っ二つだ。


 手応えあり。


 物理的にはただ虚空を斬っただけのバルムンクは、しかし確実に【世界の裏側にある】エムリスの魔術の核を、紙のように裂いた。


 頭上に顕現し、数千度から数万度の熱を放射していた小型太陽が嘘のように消失する。




『 ……不愉快だね 』




 たった一言だったが、〝怠惰〟の影響下にあってなお強い憎悪の感情が滲み出ていたので、自分の魔術を無効化キャンセルされるというのはエムリスにとって相当な屈辱だったらしい。


『だったら今すぐにでも大人しくしろよ……つっても聞かねぇんだろうなぁ……』


 俺としては、これだけ好き勝手しておきながら魔術の一つや二つ斬られた程度で文句を言うなよ、と言いたいところだが、どうせ聞く耳持たないのはわかりきっている。


『つーかお前、俺のこと舐めてないか? お前が無詠唱で発動できる魔術ぐらい、こっちだって一太刀でぶった切れるんだよ。その程度の攻撃でどうこうできると思ってる方がおかしいだろ』


 魔術や魔力においてはエムリスに、聖力や聖術ではニニーヴに、ついでに至近距離での格闘戦ならシュラトに、それぞれ劣る俺ではあるが――前にも言ったように、総合的な実力では決して負けていない自信がある。


 特に剣ともなれば、『絶対切断の概念』も相まって最強を自負してもいいとすら思う。


 だから、例えばエムリスが『果ての山脈』を吹っ飛ばした『BANG☆』はもちろんのこと、詠唱なしで発動できる程度のものなら、それが例え大魔術であろうと一閃で断ち切れるのだ。魔術によって引き起こされた現象だけでなく、その核となる『魔術という概念』そのものを。


 つまり、俺だってその気になれば『果ての山脈』を盛大にぶった切ってやることぐらい朝飯前なのだ。何ならナイフ一本で。いや、指先一つで。


 ただ、世間体とか体面とか常識とか、そういったものを考慮してやらないだけで。というかもういい大人だから、そんなこと馬鹿げた真似はやりたくてもやれないだけで。


 エムリスがせせら笑む気配。




『 はははは、言われてみれば確かに。そういえばアルサル、君は〝勇者〟だったね。すっかり失念していたよ。失敬、失敬 』




『……エムリス、お前……』


 いつもの挑発的なエムリスの台詞に、しかし俺は強く言い返すことが出来なかった。


 何故なら、その口調があまりにも恬淡としていたから。


 またしても〝怠惰〟の影響が強まってきている。それでいて流暢に喋っているのは〝残虐〟の因子も同様なせいか。




『 ほなエムリスはん、アルサルはんもこう言うてることやし。そろそろ本気でいこか。……なぁ、アルサルはん。本気でやって、ええんやろ? 』




 こっちはこっちで、ドスの利いたニニーヴの声。


 結局の所、八悪の因子というのは人の持つ負の感情と強い関係がある。その中でも〝憤怒〟と〝嫉妬〟は、変な言い方だが【燃えやすいもの】の一番と二番だろう。


 どこに居るのかはまったく見当もつかないのに、敵意だけは肌に突き刺さるほど充満しているのを感じる。


 はぁ、とニニーヴの悩ましげな吐息。




『 ええなぁ、ほんま。心の底から羨ましいわぁ。人の気も知らんと、自分の都合のええ時にばっかりやってきて……好き勝手に言いたい放題。なんでウチとエムリスはんが【こうなってるのか】、ほんまにわかっとらんのやろうねぇ…… 』




 いつものニニーヴなら『はんなり』と紡ぎ、柔らかい皮肉として聞けていたであろう言葉。だが今のニニーヴは、内心の煮え滾る激情を隠すことなく喉を震わせている。それはさながら、大地震の前兆のようにも聞こえた。


『…………』


 もはや何も言うまい。俺は対話という選択肢を放棄した。どうせ何を言っても無駄なのだ。


 どうもエムリスもニニーヴも俺に対して『含むところ』があるようだが――まったく心当たりがない。訳がわからない。


 きっと八悪の因子の影響でおかしくなっているのだ。


 シュラトだってそうだったではないか。


 元の人格が消失したかのごとく豹変していた。


 それと同じ現象が、きっと二人にも起こっているのだ。


 東の空から迫るミドガルズオルムの残骸群の影が濃くなり、その数が増えてきた頃。


 チッ、と舌打ちの気配が。




『 せいぜいおきばりやす 』




 東の空に浮かぶ巨大な黒影――まるで漆黒の積乱雲がごとき――から、幾十本もの熱閃が放たれた。




『 〈ホーリー・レイ・ランペイジ〉 』




 遅れてニニーヴが聖術の名を読み上げる。


 その時には既に、ミドガルズオルムの残骸の作る雲群から発射された熱閃――〈ホーリー・レイ〉が、ついさっきまで俺のいた地点に集中して突き刺さっていた。


 舌打ちを聞いた瞬間に回避行動を取っていたため、大事には至らなかったが――つか【ランペイジ】ってお前。およそ『ホーリー』って語句と並び立つはずのない単語だぞ、それ。


 しかしながら狂乱ランペイジの名に恥じることなく、空飛ぶ世界蛇の残骸から発射された熱閃は間断なく降り注ぐ。


 空を裂き、大気を焦がし、地を焼く熱光閃。それが無数の剣閃となって幾度となく俺めがけて叩き付けられる。


 当然、俺は最初の回避行動から足を止めることなく走り続けており、追い縋る熱閃の雨をことごとく躱していった。


『――っぜぇな……っ!』


 前にも言ったが、超弩級の聖具であるミドガルズオルムから発射される熱閃はただの熱閃ではない。聖なる力が込められた、紛れもない『聖なる光』だ。しかも今回のはニニーヴの聖力が上乗せされているため、その破壊力もひとしお。


 しかし――だからこそ、相反する魔の力で断つことだってできる。


「〈氷刃ひょうじん絶覇ぜっぱ〉」


 発動するは剣理術。その名の通り氷雪系の力を用いる攻撃理術の一種。


 聖魔相克剣の刀身から膨大な冷気が溢れ出る。周囲の大気を凍てつかせる、真っ白な煙を吐き出した。


 空飛ぶミドガルズオルムの残骸から発射される熱閃は、徐々にその数と密度を増やしつつある。見えている数と熱閃の数が合わないように思えるのは、攻撃してきているのがニニーヴの結界内に入ったものだけだからだろう。流石に結界の外から熱閃だけを素通りさせるような器用な真似は出来ないらしい。


『――いいからそのまま壊れてろよな』


 高速で疾駆していたところ、地面に片足を突き刺すようにして制動。土煙を巻き上げ、イーザローン平野に長い傷を刻みながら急ブレーキをかけつつ、背後を振り返る。


 襲いかかってきているのは、先日破壊したはずの機械兵器。おそらく今以上に切り刻んだところで、大して意味はない。ニニーヴの力ですぐに回復されるだろうし、そもそも壊れた物が未だに動いている時点でおかしいのだ。半端な破壊ではまず止まるまい。


 なら、【封じる】だけだ。


 魔界でエムリスが、シュラトを〈氷結地獄アブソリュート・ゼロ〉で閉じ込めたように。


 アンデッドのように動くミドガルズオルムの残骸を、氷漬けにして停止させてやればいい。


「――〈烈風波斬〉っ!」


 振り向きざま〈氷刃絶覇〉の冷気を纏わせた斬撃波を放つ。〈烈風波斬〉の風が凍気を巻き込み、ゴバァ! と純白の煙を吐く波濤となって飛翔した。


 よりわかりやすく言うならば、【空に向かって噴き上がる大雪崩】が俺の斬閃から生まれたのだ。


 そこへ、




『 〈天星乱舞セレスティアル・スター〉 』




 エムリスからの横槍。


 と言ってもミドガルズオルムへの攻撃を妨害するものではなく、あくまで隙を見せた俺を叩くための魔術行使だ。


 剣を振り抜いた体勢の俺に、忽然と現れた無数の青白い光球が殺到する。


 流石はエムリス、と言っておこう。普通に最悪のタイミングだ。意地の悪さはピカイチだな、と。


 だからと言って、


「〈旋風せんぷう雷崩らいほうざん〉」


 黙ってやられてやる義理もない。


 疾風と迅雷をはらむ剣理術を発動。間欠泉のごとく冷気を吐いていたバルムンクの刀身から、さらに烈風が吹きすさび、雷電らいでんほとばしる。


 今更振り抜いた剣を引き戻す暇はない。だから俺は地を蹴って勢いを殺さぬまま、否、むしろ勢いに乗って回転した。縦軸たてじく横回転――即ち竜巻のように身を回し、両手に握ったバルムンクを振り回す。


 その速度こそ、まさに疾風迅雷。


 知っての通り俺は並の人間ではなく、この一挙手一投足には相当な破壊力が付きまとう。故にその気になって身を回転させれば、それだけで竜巻が発生するのだ。


 豪風が凝縮し、収束し、稲妻を弾けさせながら一瞬で天へと伸び上がる。


 そこへエムリスの〈天星乱舞セレスティアル・スター〉の集中砲火が直撃した。


 爆音が連続して轟く。


 一つ一つが『果ての山脈』を消滅させてなお余りある破壊力を持つ光爆。それが幾十、幾百と炸裂した。


 即席で生み出した雷を孕む竜巻が一瞬にして噛み千切られた。


 が、俺は無傷。


 連鎖爆裂した〈天星乱舞セレスティアル・スター〉の威力を完全に相殺してのけたのだ。


 これもバルムンクが秘めた聖なる力の賜物である。


『ったく、バンバン魔術を使いやがって……つーか、わかってんのか?』


旋風せんぷう雷崩らいほうざん〉で作った竜巻が光爆に食い散らかされて霧散した直後、しかし俺の姿は地上にはない。


 自ら巻き起こした旋風に乗るようにして、高く高く跳躍していた。


 そう。既にこの身ははるか高空にあり、ニニーヴの合体聖具はもちろんのこと、宙を飛んでいるエムリスの魔竜王とその配下ですら、眼下に見下ろしている。


 また少し離れた座標には、先程の〈氷刃ひょうじん絶覇ぜっぱ〉と〈烈風波斬〉の合わせ技によって凍り付いたミドガルズオルムの残骸が、重力に引かれて落下していく光景が見えた。


『お前らが力を使うたびに、この空間には魔力と聖力が満ち溢れるんだぜ?』


 馬鹿め、と言う他ない。本来のあいつらならすぐに気付いただろうに。聖魔相克剣バルムンクを抜いた俺の前で、魔力と聖力を使えばどうなるかなんて。


 ただでさえ大量のリソースを吸収していたバルムンクが、新たに大気に放出された魔力と聖力を吸収し、更なるエネルギーを蓄えていく。


 もちろんエムリスの魔術を斬れば聖力が、逆にニニーヴの攻撃を相殺すれば魔力が消費され、刀身にこもった力は減衰していく。


 だが、それ以上に二人の攻撃によって新たな力が補給されるため、今この場におけるバルムンクのエネルギー残量は、ほぼ無限と言っても過言ではなかった。


 つまり、エムリスとニニーヴがどんな攻撃を繰り出して来ようが、バンバン斬り放題ということ。


 それどころか。


『――てなわけで今度はこっちの番だぜ』


 足裏に理力を集中させ、不可視の足場に立つ。空中にありながら膝を曲げ、両手で握ったバルムンクを後ろへ引き、大斬撃を放つ構えを取った。


 知っての通り、俺の〝氣〟を収束して形成する〝銀剣〟はいくらでも刀身を伸ばすことができる。これが故、主武装が剣という近接武器でありながら、俺はリーチに関係なく巨大な魔物や魔族とも互角以上に渡り合うことが可能となるのだ。


 だが通常、聖魔相克剣バルムンクのような剣に関しては刀身を伸ばせば伸ばすほど、その内なるエネルギーは密度が低くなってしまうものなのだが――そう、先述の通り、その心配は無用。


 よって俺は、聖と魔が常に相食あいはむバルムンクの刀身を遠慮なく伸長させた。


 視界に映る全てを、一刀のもと切り捨てるつもりで。


 狙うはエムリスの魔竜王とニニーヴの合体聖具。どちらもデカすぎる的だ。外す道理がない。


『〈しん牙裂斬がれつざん〉』


 理力で時空を捻じ曲げ、同時に十二の斬閃を叩き込む剣理術を発動。


 直後、ニニーヴの結界内を十二の弧線が縦横無尽に走った。


 イーザローン平野の全域を、その刃圏にとらえる刃渡りとなった聖魔相克剣バルムンク。既にいくつもの星の権能と術式を重ね掛けしているその刃は、それこそ魔王エイザソース並みの怪物でもなければ、わずかな抵抗すら許さない。


 切断。


 ただひたすらに、絶対切断。


 魔竜王の装甲――否、硬質的でありながら柔らかさをも併せ持つ強い皮膚も、そこに張り巡らされた概念防御も。


 合体して巨大化した超弩級の聖具の塊、その聖神特製の堅固な装甲と、守護神の加護も。


 ついでに、まだ残っていた魔竜アルファードの群れも。


 なべて斬り捨てた。


 斬られたことに気付かないほど鋭利に。


 何なら時空間じくうかんごと。


 一瞬の静寂。


 世界から全ての音が消え失せたかのような刹那。


 俺は振り抜いた剣を引きながら、片手の指を、パチン、と鳴らした。


 それが合図。


 静まり返った結界内の戦場に、軽い音がしかし透き通って響き渡る。


 直後、俺の剣に断たれたことごとくが、【斬られたことに気付いた】。




『『 ――!? 』』




 驚愕の気配はエムリスとニニーヴの両名から、ほぼ同時に。


 魔竜王と配下の魔竜の群れは、悲鳴を上げる暇もなく。


 巨大な合体聖具は、金属と金属が擦れ合う軋みを上げ。


 盛大にバラバラになった。


 半生物化していた魔竜王と魔竜らは、切断面から大量の青黒い血液を迸らせた。さながら水風船が弾けるかのごとく。ぶつ切りになった巨躯が命を失い、肉塊と化して地上へと落下していく。


 大要塞と化していた合体聖具は、その大きさ故に一番多く斬撃を受けていた。超弩級の巨体に十二の線が走り、そこを境として切断された各パーツがズレていく。切断面が鋭利すぎて【滑る】のだ。最初はゆっくりと、しかし重力の影響を受けて徐々に加速し、金属が擦れ合って悲鳴のような音響を奏でながら。


 やがて十三分割された金属塊が地上へ落ち、さらなる重低音を轟かせた。


 不意に、ドクン、ドクン、と俺の中の〝傲慢〟と〝強欲〟が強く脈打つ。


『――出てこいよ、エムリス、ニニーヴ。どうせ大したダメージは受けてねぇんだろ? 時間だって無限にあるわけじゃねぇんだ。遠くからチマチマやってないで、言いたいことがあるなら直接ぶつけに来いよ』


 俺は二人に聞こえるよう肉声と通信の両方で、挑発的に煽った。


 先刻の〈真・牙裂斬〉にしかし、大きな手応えはなかった。一応、エムリスの魔竜王は核と思しき箇所を。ニニーヴの合体聖具は大体のアタリをつけたところを斬ったはずなのだが。


 どうも二人とも、俺の見当外れの場所に潜んでいるらしい。


 だが、何にせよ二人が隠れていそうなデカブツは始末した。こうなったら〝魔道士〟も〝姫巫女〟も姿を現さないわけにはいかないはずだ。


 ドクン、ドクン、と先程よりも強く〝傲慢〟と〝強欲〟がうごめく。


 まずいな、ちょっと力を使いすぎてるか? このまま調子に乗っていたら、俺も八悪の因子に呑まれて〝暴走〟してしまう可能性がある。


 どうにか因子の活性化を抑えつつ、この馬鹿げた戦いを終わらせたいところだが――


『……なるほど。ボクとニニーヴが揃って君と敵対すると、その武器はここまで強烈なシナジーを発揮するんだね。まるでこの状況を以前から想定していたような、実に【おあつらえ向き】の剣じゃあないか。もしかしなくとも、昔からボク達を敵に回す日が来るかもしれないとか考えていたのかい、アルサル? まぁ、だとしても君らしいと言う他ないけれど』


 さっきまでの拡声術式ではなく、通信魔術によって届くエムリスの声。


 なんとも皮肉気な語調だ。だが、さもありなん。先程から解説している通り、俺の聖魔相克剣バルムンクは今の状況にうってつけ過ぎる。邪推するのも無理はない。


『アホか。考えないわけがねぇだろが。人生ってのは何が起こっても不思議じゃないんだ。いつどこで誰が敵に回るか――どんな小さな可能性だってそれを想定して備えておく。それぐらい軍人にとっちゃ当たり前のことなんだよ』


 嘘である。正直なところ、エムリスとニニーヴの二人を正面から相手にすることになるなど、さすがに想定外だった。


 というか、そんな悪夢みたいな事態になる可能性など考えたくもなかった――と言った方が正確か。まぁ、実際にはこうして実現してしまっているわけだが。


 敢えて言うまでもないだろうが、このバルムンクは別段、対エムリスおよびニニーヴを想定して作った装備ではない。


 むしろ、その逆だ。


 絶大な魔力を用いるエムリスと、膨大な聖力を扱うニニーヴ。この二人と共闘する際、彼女らの戦闘行動によって生じた余分な魔力と聖力を有効活用できないものかと考え、編み出した特殊な剣なのだ。


 それがまさか、こんな形で猛威を振るうことになろうとは。


『へえ、こら驚いた。意外どすなぁ、アルサルはんがそんなこと考えてはったやなんて』


 エムリスと同じく、通信に切り替えたニニーヴの声が頭の中に響く。


 この瞬間、俺はエムリスとニニーヴの現在位置をはっきりと感知した。


 エムリスの位置は、なんと地上。


 見れば、そこには八つ裂きになった魔竜王の遺骸。青黒い血の海に沈んでいる巨大な肉塊の群れ。そこから不意に【群青色の闇】がタールのように滲み出たかと思えば、煙よろしく宙に浮かび上がり、一点へと結集していく。


 液体のようにも気体のようにも見える闇色の〝何か〟が、やがて輪郭を持ち始め、徐々に形状を整えていく。


 果たしてそこに現れたのは――誰あろう、エムリス。


 見覚えしかない華奢な矮躯。〝蒼闇〟の名にふさわしい色をした長い髪。挑発的で挑戦的で独善的な青白い瞳。不敵な笑みを浮かべる口元。


 いつものように大判の本に腰掛け、宙に浮いている。


 しかも、玉座に座る皇帝よろしく、偉そうにふんぞり返って。


『やれやれ、ひどいことをするね。せっかくの研究材料が全部パァだ。損害賠償を請求するよ、アルサル』


 何様だお前は。


 しかし、こいつは一体どこに隠れていたというのか。今の出現のしかたは、およそ人間のそれではない。いやとっくに俺達は人外ではあるのだが。それを押しても四散しさん五裂ごれつした異形の死体――元は機械なのだから残骸とも言えるが――から、煙のように滲み出て形を為すとは。まるで悪魔ではないか。


 少なくとも魔竜王の中にコクピットスペースを作って、そこに潜んでいたわけではないらしいのはわかった。となれば、どのようにして魔竜王の内部なかにいたのか――


 俺の予想では、おそらくアイテムボックスなどに使用しているストレージの魔術の応用だ。巨大魔竜の体内に亜空間を形成し、ほんの少しの『穴』を作って魔力の経路だけ確保し、中に潜んでいたのだろう。しかも、自分の肉体をいったん黒い煙のようなものに変換した上で。


 なんともはや、これは冗談抜きで、いささか以上に怪物じみてきたではないか。


 俺が元いた世界ではこういう奴を『吸血鬼ヴァンパイア』などと呼んでいた気がするのだが、まさかその内、人間の血を欲したりなんかしないだろうな?


『あらあら、エムリスはん、そんなところに隠れてはったんやね。道理で手が届かんはずやわぁ。ああもう、けったいなことしてくれよるわ』


 一方、ニニーヴはと言えば――


「……チッ。お前はお前で【そっち】かよ……!」


 舌打ちを禁じ得なかった。


 一体どこにいたのかと思えば、こちらも全くの予想外。というか、意識の死角。常識の埒外。


 なんと上空だ。


 頭上の遙か彼方。


 先程、俺が飛翔したよりもさらに高い位置。


 というか――【結界の外】。


 ニニーヴの奴め、最初から自身で張った結界の中にすらいなかったのだ。


 すぐには感知できないほど遙か高みから戦場を見下ろして、結界を張り、遠隔で聖具を操り、戦闘を行っていたのである。


「ふざけやがって……」


 我知らず低い声が漏れた。


 よもや、自ら張った結界の外にいようとは。


 流石にその可能性には思い至らなかった。というか、すっかり騙されてしまった。わざわざ声だけを結界内に送り込み、自身の位置を完全に隠蔽していようとは。


 まぁ、だが、ニニーヴらしいといえばニニーヴらしいか。


 悪気なくこういったことをやってくれるのが、あの〝白聖の姫巫女〟なのだ。


 そう、冗談抜きでニニーヴに悪気はない。


 きっと今だって、しめしめ上手く騙くらかしてやったわ、みたいなことは考えてはいまい。


 あいつは最初から上空で戦場を観察していて、その場の流れに応じて動いていただけに決まっているのだ。だからこそ悪びれない。罪悪感を持たない。


 そんなニニーヴだからこそ、八悪の因子の中でも厄介そうな〝憤怒〟と〝嫉妬〟を担当したのだ。


 とはいえ――だ。


『降りて来いよニニーヴ。そんなところにいたら顔を合わせて話も出来ねぇじゃねぇか』


 聖力の結界をぶち抜いてニニーヴを地上へ叩き落とす――この一瞬、俺は本気になった。


 文字通り『高みの見物』をしていたニニーヴに心底腹が立ったのだ。


「――〈新星裂光斬ガルス・ノヴァ〉」


 我が教え子から学んだオリジナル剣理術を、出し抜けに頭上へ向けてぶっ放した。


 思えばなかなかの偶然だ。師匠である俺の切り札が対シュラト戦で披露した〈スーパーノヴァ〉なわけだが、その弟子のファルウィンの編み出した必殺技の名前が〈新星裂光斬ガルス・ノヴァ〉とは。まぁ、ガルウィンは俺が〝銀穹の勇者〟だと知っているのだから、それにあやかってこの名前をつけたのかもしれないが。


 聖魔相克剣バルムンクの刀身から銀色の煌めきが迸り、瞬時に収束し、ゴルフスイングよろしくかち上げた斬閃が、光の怒濤どとうと化して飛翔する。


 地上から天空へ、一条の流星が真っ直ぐ上昇していく。


 限りなく予備動作を削った早撃ちだが、先程も言った通り混じりっ気なしの『本気の一撃』だ。


 魔力の性質も併せ持つ〈新星裂光斬ガルス・ノヴァ〉はニニーヴの結界を紙のように食い破り、さらに加速すらしてき上がっていく。


『ほ?』


 結界が破られたことによってニニーヴが異常に気付いたらしい。可愛らしいが、何とも間抜けな声が漏れる。


 だがもう遅い。


『――あ、しもた』


 ポツリとこぼした刹那、昇竜のごとく地上から伸び上がってきた烈光が炸裂した。


 爆ぜる。


 高エネルギー化した〝氣〟と理力が衝撃音を轟かせ、ニニーヴを起点として四方八方へと散る。


 手応えあり。直撃だ。


 と言っても、これだけで仕留められるとは露とも思ってないが。


『……ふわぁ、びっくらこいた。いつの間にバレてたんやろ?』


 暢気なことを宣うニニーヴ。


 案の定だが、不意打ちだったというのに完全に防御されてしまったらしい。声の調子から無傷であることがうかがえる。


 だが、今の一撃のおかげで聖術で隠蔽されていたであろう聖女の姿が剥き出しになった。


 俺は遠見の理術を用いて、遙か頭上へと焦点を合わせる。


 宙の一点、不可視の足場に直立している人影。


 果たしてそこにいたのは、天使かと見紛おうほどの美少女であった。


『……んん?』


 思わず声が出た。


 凄まじいまでの違和感に。


 いや、だが、無理もない。何故なら、前に会った時から十年も経過しているのだ。見た目が多少変わっていても何ら不思議ではない。


 しかし――


『んん……んんん?』


 いやおかしいだろ。【少女】だぞ、【少女】。よわい二十四になっているであろうやからが。どう見ても少女にしか見えないって。そんな馬鹿な話があるか。エムリスじゃあるまいに。


 って、そういえばニニーヴも同類だったか。


 いやもう一体どうなってるんだ、俺以外の奴らは。そういえばシュラトも以前は、肉体操作で痩身の優男になってたし。というか嫁であるレムリアとフェオドーラの言を信じるなら、子供の姿にもなっているみたいだしな。というかアレ、人格も変わっているようだったが、子供の時もやはり相応の雰囲気に変わるのだろうか?


 などと、どうでもいいことを頭の片隅で考えつつ、


『――若作りか?』


 我知らず呟くと、


『おんどりゃぶっ殺すでほんまに』


 物凄いドスの利いた声で恫喝どうかつされた。さらに、


『あ? 今、何て言うた? お? もっぺん言ってみぃ。いてもうたろか』


 エムリスと戦闘中だった時のように荒ぶるニニーヴ。こんな風にニニーヴからストレートに怒られるのは初めてだ。確実に〝憤怒〟の影響だと言い切れる。


 遅くなったが、現在の彼女の姿をお教えしよう。


 それ自体が輝きを放っているかのごときプラチナブロンド。サラサラでいながら芯のある髪質を持った長いそれを、可愛らしくツインテールに結っている。金でも白でもない、しかし煌めく色彩が、陽光を受けて周囲にプリズムを散りばめる。


 瞳もまた、蒼天の下でなお輝いて見える黄金ゴールド。大きくパッチリとしていて、まるで人形のように整っている。


 身につけているのは、いかにも聖女然としたデザインの祭服。〝白聖の姫巫女〟の名に由来してか、白を基調として各所に金や銀が配されている。


 総じて、天使か女神かと見紛おうほどの容貌だ。


 相変わらずと言う他ない。ニニーヴは出会った頃から、こんな風に光り輝く美貌を持った少女だった。


 ただ当たり前だが、あの頃より確実に成長している。と言ってもその変化の具合は、先程言ったように明らかにおかしいのだが。


 一見して、年の頃は十七、十八と言ったところか。初めて会った時は十三歳だったので、なかなかの成長っぷりである。全く変化の見られないエムリスとは違い、出るところが出て、引っ込むところは引っ込んでいる。


 ただ、ついさっきまで俺の隣にいたイゾリテ――まだ十五ぐらいだったと思うが――と比べると、起伏が若干乏しい。と言っても、おそらくイゾリテの方が血筋的にグラマーな体型になりやすいだけで、別段ニニーヴの発育が悪いわけではなかろう。


 しかしながら、やはりどう考えても計算が合わない。先程も言った通り、俺達四人は全員が同い年。つまり、ニニーヴも今年で二十四になる大人なのだ。


 それがどうしたことか。どこからどう見ても、俺の元いた世界で言うところの『女子高生』にしか見えないではないか。髪型が子供っぽいツインテールだけに、余計に幼さが際立っている。


 俺は遠見の理術を使っているにも関わらず、ついつい両目をすがめ、


『――いやいや、言っちゃ悪いが明らかにおかしいだろ。何だ? シュラトみたいに肉体操作の術でも身につけたのか?』


 謝罪する必要性は感じなかったので、俺は左の掌を振りながら言い返した。


『だってお前、もう二十四だろ? 流石に厳しくないか、その見た目は』


『……ほんまに死にたいようどすなぁ、アルサルはんは』


 もはや怒りを通り越したのか、ニニーヴは声のトーンは低いまま、うふふふ、と笑みをこぼした。


 しかし、ここで援護射撃が入る。


『おやおや、こいつは驚いた。随分な正統派美少女に成長しているじゃあないか、ニニーヴ』


 エムリスである。なんと拍手までしてニニーヴの容姿を褒めそやしたのだ。もちろん、皮肉であろうこと間違いない。


『そういうエムリスはんは、なんやあまり【お変わりあらへんみたいで】? 相変わらず可愛らしおすなぁ』


 地上を見下ろすニニーヴが、にっこり、と微笑んだ。声のトーンも上がっている。無論のこと、褒めているわけでは決してない。


 うーん……こいつら昔からこんなに仲悪かったっけ? それとも俺が知らないだけで、会っていない間に二人に何かあったとか?


「わからん……」


 誰にも聞こえないよう小声で呟くと、さらに女傑二人の会話が続いた。


『まぁ、ボクの肉体は魔力の影響でね。こう見えて、ゆっくりだけど成長中さ。いずれは最適な成長具合で老化が停止して、永遠にそのままになる予定だよ。いわゆる〝最盛期〟という状態でね。でもニニーヴ、君は? 聖力に森羅万象の理をねじ曲げるなんてことは出来なかったと思うのだけどね』


 飄々ひょうひょううそぶくエムリスの口調は、やや普段のものに戻りつつある。まだ少し、抑揚が薄い気もするが許容範囲内だろう。


『ウチも似たようなもんやで。ほなら、今の姿がウチの〝最盛期〟ちゅうことなんやろね。えっへん』


 両手を腰に当て、わざとらしく胸を張るニニーヴ。大きくも小さくもないサイズのそれが内側から衣服を押し上げ、絶妙なるシワと陰を作る。


『よくもまぁ豪語するものだね。君こそ相変わらずだ。恥を恥とも思わないところが、特にね』


『せやろ? それがウチの可愛いところなんよ。ようわかってはるやん、エムリスはんも』


 エムリスの露骨な皮肉に、しかしニニーヴは一切の痛痒を感じていない様子だ。


『そういったところが〝あざとい〟と、ボクは言っているのだけどね』


『嬉しいわぁ。そんな褒めても何も出ぇへんで?』


 エムリスの当てこすりがニニーヴに通用しないのは今に始まったことではないが、昔と比べると若干ニニーヴの対応がより一層逞しくなったような気がする。かつてはエムリスがどれだけ小言を言おうとも、ニニーヴは頓着することなくスルーするのが定番だったが――年を経た今では、いい感じに押し出しが強くなっているではないか。これをコミュニケーション能力の向上と言っていいものかどうかは、ちょっと迷い所だが。


 はぁ、とエムリスから吐息の気配。


『やはり相変わらずだね。まったく嫌味の言う甲斐もない。まぁ、そんな君だからこそ〝憤怒〟と〝嫉妬〟を任せたのだけれど』


 うふん、とニニーヴが艶っぽく微笑む。


『そうなん? やけどエムリスはんは、見た目はともかく、中身はえらい変わりはったなぁ。性根のひねくれ具合に磨きがかかっとるんとちゃいます? 〝怠惰〟と〝残虐〟の影響なんやろか』


 チクチク――否、バチバチか?――と刺す言葉の応酬をしながら、高空に身を置いていたニニーヴがやにわに降下を始める。


 こうして俺達に見つかったからには、もう離れた場所にいる意味などない。【続き】をするにせよ、停戦するにせよ、まずはニニーヴも結界内に入ってから――そういった暗黙の了解が俺達の間にあった。


 ふふ、とエムリスが笑う。


『いやはや、さっきから思っていたけれど、君だって以前と比べて随分と言うようになったじゃあないか。先程なんて珍しく声を荒げていたようだけれど、アレが昔は見せてくれなかった君の〝素〟だったのかい? それとも……君だって八悪の因子の影響を強く受けているんじゃあないかな、ニニーヴ?』


 ニニーヴが唇を尖らせて、拗ねたような気配を見せる。


『へえ、そうどすなぁ。さっきはえらい恥ずかしいところを見せてもうて、ほんま申し訳ないどすわぁ。そやけど、あんまりイジらんといてくれはる? 血液が沸騰してしまうよってに』


 やがてニニーヴが聖力で張り巡らされた結界内に入った。途端、周囲の空気がビリビリと帯電したかのように震える。いや、これは女傑二人の間に流れる険悪な雰囲気を、俺がそう錯覚しているだけか?


『ああ、思った通りだね。もしかしたらとは思っていたのだけれど――【君も限界が近かったんだね、ニニーヴ】』


『へえ、まさかとは思っとったんやけど、そないなこと言いはるっちゅうことは――【エムリスはんもなんやね】?』


 空気が凍り付いた。


 今の二人の会話は『不穏』の一言だけでは片付けられないほど、聞き過ごせないものだった。


『――おい待て、お前らまさか……』


 背中から脳天へ、嫌な予感が一気に突き抜ける。


 そうしている間にもニニーヴの降下は続き、いつしか肉眼で確認できる距離にまで来ていた。


 久々にこの目で見る、〝白聖の姫巫女〟ニニーヴの姿。降下に合わせて祭服のたっぷりとした布がはためき、まさしく天使か女神の降臨かのよう。


 改めて見るだに、エムリスとは正反対の人物だと思う。エムリスが闇属性なら、ニニーヴは光属性。陰キャと陽キャ。まるで太極図のように対照的で、対極的な二人。


 くすっ、とエムリスが【苦しげ】に笑った。大判の本の上で、なおもふんぞり返った体勢のまま。


『ああ、そのまさかだよアルサル。お察しの通りさ』


 えへっ、とニニーヴが困ったように微笑んだ。


『ほんま堪忍なぁ、アルサルはん。ウチら、もうアカンみたいやわ』


 地上のエムリスと、空中のニニーヴが互いに顔を見合わせ、視線を交わす。


『一応言い訳をしておくけれど、これでもボク達は頑張った方だと思うよ。自分で言うのは本当に何なのだけれど、今の今までそれなりに理性を保っていたのが不思議なほどさ。どうにか、どうやらボクと同じ状態だったらしいニニーヴと【じゃれ合ってガス抜き】することで、進行を遅延させていたつもりだったのだけどね……』


『へえ、もうそろそろ誤魔化しが利かんようなってきた、ちゅうわけよ。やけど、ウチもエムリスはんもちゃんと気張ったんやで? そこんとこはようわかって欲しいわぁ。おかげで、それなりに状況は整っとるやろ?』


 待て。待てって。いや本当に待ってくれ。


『残念だけど、ボクとニニーヴはこれから本格的に〝暴走〟する。もう八悪の因子の活性を抑えられそうにない。ボクとしたことが、本当に迂闊だった。おそらくだけど、アルファードに何かしらの細工がされていたらしい。まさかくだんの聖神がここまで用意周到だったなんてね。正直、してやられたよ』


 本格的に、って何だ。今までのは全然そうじゃなかったってことか。


 つまり――この騒動が始まってからこっち、エムリスもニニーヴも〝暴走〟を避けるために八悪の因子から生まれる影響を少しでもやわらげるため、互いに争っていたってことなのか?


『ウチもや。ほんま、いつどこで仕込まれたんやろなぁ。気が付いたらこうなってしもうてて。アルサルはん、申し訳ないんやけど……もう手遅れみたいなんどす。あとはあんさんに任せてもうてもかまへんよね?』


 これまでの一連――あの無意味に見えた大喧嘩が、実際には二人にとって精一杯の抵抗だった、と。


 暴走寸前の因子の力を小出しにすることで、どうにか本格的な〝暴走〟を後回しにしていた、と。


 俺に喧嘩を売ってきたのも、そう。何とかエネルギーを発散させることで、可能であれば〝暴走〟を未然に防ごうと――


『もちろんのこと、完全な〝暴走〟状態に入る前に断絶結界を張るよ。正直ボクにとっては半ばどうでもいいことなのだけど、この世界が滅ぶのはアルサルにとっては悲しいことなんだろう? 一応、それだけは避けないといけないからね』


 エムリスの呼吸が、ゆっくりと深いものに変化していく。限界が近いというのは、どうも本当らしい。その息づかいは、確かに崖っぷちに立っている人間のそれだった。


『できたらシュラトはんもここにおっとってくれた方がよかったんやけどねぇ。時間稼ぎもここまでやし、どうも間に合えへんみたいやわ。ままならんもんやなぁ』


 のほほーん、とまるで他人事のように宣うニニーヴ。だがその口振りに反して、こちらも呼吸が荒くなりつつある。自らの奥底から迫り来る何か――胃の腑からせり上がってくる何かをこらえるように。


 直後。




禁呪きんじゅ解放かいほう――」




神威しんい降臨こうりん――」




 エムリスとニニーヴの二人が、同時にそれぞれの切り札を切った。


 不思議と通信によらず、そのことがわかった。わからいでか。


 ただでさえ並ではなかった魔力と聖力が、ここに来て倍増どころか桁違いに膨れ上がったのだから。


 俺の手の中の聖魔相克剣バルムンクが新たなエネルギー供給を得て雄叫びを上げる。


 二人の真意ならわかっている。


 どうせ〝暴走〟して奥の手を出すことになるのなら、先に自ら解放して、その力で都合のいい状況を作り出そうと――そういうつもりなのだ。


 故に、




「 断絶アイソレーション 」




「 封緘シーリング 」




 続けて二人の口から強い言霊が紡がれ、響き渡った。


 魔力と聖力、魔術と聖術。


 二種の相反する力が充満するイーザローン平野。


 その周辺が、瞬時に【密封】された。


 魔界の央都エイターンでやったのと同じ要領だ。暴走しているシュラトと本気で相対するため、戦場を世界から隔絶する。そうすることによって、外界への影響を完全に断つ。


 今回はエムリスだけでなく、さらにニニーヴの力をも併用してより強力な結界が形成された。


 膨大な魔力による断絶と、絶大な聖力による封緘ふうかん。反発しあう力による二重結界。だが魔と聖の力は互いに打ち消し合うことなく、むしろ反発がいい感じにシナジー効果を発揮して強度を増しているようだ。ちょうど俺の聖魔相克剣バルムンクのように。


 ただ見方を変えれば、これから八悪の因子によって完全に〝暴走〟するであろうエムリスとニニーヴと共に、俺はこの空間に【閉じ込められた】ということでもある。


 まったく洒落にならない話だった。


『……ごめんよ、アルサル。ここまで好き勝手にやっておいて、最後に丸投げする羽目になるなんてね。流石のボクも反省している。本当さ』


 珍しいことにエムリスが殊勝な態度を見せた。言葉通り、流石に反省しなければならないところまで来た、との自覚があるらしい。悔しさ半分、申し訳なさ半分といった様子だ。


『堪忍なぁ、アルサルはん。ウチも不本意の極みなんやけど……でも、よかったわ。アルサルはんがおって。あんさんなら、きっとウチもエムリスはんも止めてくれはるやろ?』


 ニニーヴの方は言葉ほど申し訳なく思ってはいないようだ。言葉の端々にそこはかとない軽さが漂っている。逆に言えば、それだけ俺のことを信頼してくれているということなのだろうが。


 もはや言葉もない。


 俺は大きな、それは大きな溜息を一つ。


『…………オーケー、わかった』


 長い沈黙を破り、ただ目の前の事態を丸呑みにした。


 ここまで来たら、ウダウダと文句を言っても始まるまい。


 現実は目の前にある。どうしようもないほどに。


 やるしかない。だから、やる。


 それだけの話だ。


『二人とも俺が止めてやる。心置きなくやってくれ。好きなだけ暴れまくって力を使い果たしてやれ。それで落ち着くってんならめっけもんだろ。ま、病気の治療みたいなもんだな』


 グッと親指を立て、俺は胸を張って請け負った。


『……本当にごめん』


『堪忍、な……』


 おいおい、ガチトーンで謝るのやめろよ。これじゃ俺が強がっているみたいじゃないか。


 故に、俺は豪語する。いつものように。




『勇者を舐めるなよ?』




 不敵に笑って、俺はバルムンクを納刀した。魔と聖の力がせめぎ合う剣が、ふっ、と消失する。


 これから本気で〝暴走〟する〝魔道士〟と〝姫巫女〟を相手にするのだ。


 こちらも、伝家の宝刀を抜く他あるまい。


『心配しなくても、一瞬でケリをつけてやるよ』


 右の掌を左胸に当てる。


 エムリスとニニーヴが結界を張り、今この場は世界から完全に隔離された。もはや何が起ころうとも外界に影響が出ることはない。当然、戦いが終わるまでは誰も出られず、誰も入ってこれないということでもあるが――だからこそ。


 あいつらが本気を出せるのなら。


 俺だってそうなのだ。


 ふふっ、とエムリスとニニーヴが笑う気配。何故だか、妙に微笑ましいものでも見たかのような笑みで、俺にはその意味するところはよくわからない。


 やや気の抜けた声で、エムリスが言った。


『あはは、安心したよ。なら任せたよ、ボクらの〝勇者〟様』


 やけに嬉しそうに、ニニーヴが言う。


『やっぱアルサルはんやなぁ。あんさんしか勝たんわぁ』


 何か含みを感じるが、ここは素直に賛辞として受け取っておこう。


 そして、まるで今際の際に最後の吐息をこぼすように、二人が呟いた。


『じゃあ、よろしく――』


『おたのもうします――』


 次の瞬間、二人の意識が【落ちた】ことを俺は悟った。


 それぞれの瞳から光が失せ、顔から表情がするりと抜け落ちたが故に。


 だが、俺はもう聞こえていないだろう二人に告げる。


『任せろ』


 たった一言を。


 エムリスとニニーヴの意識が失われ、代わりに二人の肉体を八悪の因子が支配していく。


 その脈動を感じながら、俺は右手に力を込め、唇から言葉を放った。




星剣せいけん抜刀ばっとう――!」









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