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●31 聖と魔の狭間 2






#Ouranos 5『さっきデメテル君から報告が上がってきた件だけど、これも君の仕業かな?』


#Hephaistos3『ふっ……流石はウラノス部長。よくぞ見破られましたね』


#Ouranos 5『いやいや、どう考えてもこれはね。だって〝姫巫女〟ちゃんは座標的に聖神界システムエリアに一番近かった子だから。ヘパ君なら真っ先に手を出していないとおかしいなぁ、とは思っていたんだけど』


#Hephaistos3『あのですねこの私が軽妙浮薄なチャラ男神おとこみたいな言い方はやめていただけますかね!? 手を出すとは何ですか、手を出すとは!』


#Ouranos 5『でも〝姫巫女〟ちゃんに何かしたんだよね?』


#Hephaistos3『……ええ、まぁ……はい……』


#Ouranos 5『はぁぁぁ……またも厄介なことをしてくれたねぇ……懸念けねんした通りというか、それ以上にひどい状況だったね。〝魔道士〟と〝姫巫女〟がぶつかりあうなんて……ポセイドン課長とアテナ君は間に合うかな?』


#Hephaistos3『も、問題ないでしょうとも! おそらくですが〝魔道士〟と〝姫巫女〟の近くには〝勇者〟アルサルめもいるのではありませんか!? 奴ならば間違いなく二人を止められるはず……!』


#Ouranos 5『うん、どうやらそのようだね。でも、ヘパ君は〝勇者〟くんを特に敵対視していなかったかい? そんな相手を頼りにするのは……それって神としてちょっとどうなのかな?』


#Hephaistos3『ぐっ、ぐぬぬぬ……』


#Ouranos 5『まったくね……そこまで悔しがるのなら、余計な小細工なんてしなければよかったのに。まぁ、あちらはポセイドン課長とアテナ君に任せるとして――ところで、これも聞いておきたいんだけど、いいかな?』


#Hephaistos3『まだ、まだですっ……! 私は策に溺れてなどは……っ!! ――なんでしょうか、ウラノス部長』


#Ouranos 5『自分の世界に没頭せずにちゃんと切り替えてくれてありがたいよ。それで聞いておきたいことはね……もしかして君、〝勇者〟くんにも何か小細工してるとかない?』


#Hephaistos3『…………』


#Ouranos 5『もしやっているんだとしたら大変だよ? 英雄ユニットが激突するだけでも大変なのに、それが三つ巴なんかになったりしたら。冗談抜きで箱庭が壊れるよね……?』


#Hephaistos3『…………』


#Ouranos 5『――うん、まぁ、答えは聞かずともその沈黙だけで大体は察せられてしまうよね。そっかぁ……まぁヘパ君だからねぇ。用意周到に色々と準備しちゃってたかぁ……』


#Hephaistos3『…………』


#Ouranos 5『けれど、よく仕込めたね? 君から聞いた話を総合すると、肝心の〝勇者〟くんが一番隙がなかったんじゃないかな?』


#Hephaistos3『…………』


#Ouranos 5『おや、どうしたのかな、ヘパ君? ここにきての完全黙秘はあまり意味ないと思うんだけど……』


#Hephaistos3『…………』


#Ouranos 5『うーん……すっかりだんまりモードに入っちゃったねぇ。もしかして――【それこそが本命】、だったりするのかな?』


#Hephaistos3『…………』


#Ouranos 5『もう反応すら見せなくなっちゃったかぁ。よほど隠しておきたいことなんだね。なるほど、かなりの思い入れのある仕掛けということかな』


#Hephaistos3『…………』


#Ouranos 5『いや、うん。これはもう仕方ないね。ひとまずデメテル君に情報共有しておこうかな。〝勇者〟くんの身辺に危険あり――とね。けれどこうなると、場合によっては、デメテル君にもスーパーアカウントで下界ダイブしてもらうことになるかもしれないねぇ?』


#Hephaistos3『……んっふふふ……無駄ですよ、無駄……』


#Ouranos 5『おっと、ヘパ君。ようやく反応があったね。喋る気になったかい?』


#Hephaistos3『無駄だと言ったのですよ、ウラノス部長! ええ、無駄ですとも! 無駄! 無駄無駄! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!』


#Ouranos 5『おおっと……これは随分とヒートアップしちゃったねぇ。急にどうしたのかな? 追い詰められて精神がバグっちゃったのかい?』


#Hephaistos3『バグってなどおりません! 私は正常ですとも! セルフクロスチェックとてオールグリーンですとも! そんなことより、無駄ですよ無駄! 何があろうとも我が悲願を阻むことは出来ません! 苦節十年! そう、箱庭内の時間にして長きにわたる十年! 入念に、そう、念には念を入れ、さい穿うがって、ずっと準備し続けてきたのですから、私は!』


#Ouranos 5『まぁまぁ、落ち着いて、落ち着いて』


#Hephaistos3『だからこそ今度ばかりはしくじるわけにはいかないのです! 何があろうと成功させなければならないのです! 我らの箱庭を守るために! かつての平穏を取り戻すために! あの美しかった〝勇者システム〟を蘇らせるために!!』


#Ouranos 5『うんうん、わかったから。わかったから少し落ち着こうか、ヘパ君。何度も言うけど、君に悪気がないのはわかっているからね?』


#Hephaistos3『これはもはや勝負なのです! 決戦なのです! 乾坤一擲けんこんいってきの賭けなのです! こうなってはるかるかの大一番! 箱庭に秩序が戻るか、あるいは完膚かんぷなきまでに滅びてしまうか! どちらかしかあり得ないのですよ!!』


#Ouranos 5『うーん……それはちょっと、結論を急ぎすぎなんじゃないかな? 何もそう極端から極端へ走らなくてもいいと思うんだけどねぇ』


#Hephaistos3『いいえ、いいえ! ここからが分水嶺ぶんすいれいにして天王山てんのうざんです! ああ、どうかご笑覧あれ! このヘパイストスが丹精込めて用意した最強の【毒】を! これをもって必ずやあのアルサルめを抹殺してみせましょうとも!!』


#Ouranos 5『ヘパ君ねぇ……まぁ、もうそうやってあおることしか出来ないからなんだろうけど、それでも悪あがきもここまで来ると流石に褒められたものじゃないよ?』


#Hephaistos3『んっふふふ……ウラノス部長、それがどうしたと言うのです? 私はね、愛する箱庭に全てを懸けているのですよ……! この美しくない――そう、今の箱庭は美しくない……とても美しいなどとは、口が裂けても言えない……いいえ、いっそ醜悪しゅうあくの極み……っ! 誰とも知らぬ第三者の手が入った、いびつに過ぎるおぞましき空間……! 必ずやこの手で粛清しゅくせいし、そして粛正しゅくせいしてくれますとも……!!』


#Ouranos 5『うーん……少し追い詰めすぎてしまったかな? すっかり自家中毒に陥っちゃったみたいだね。自分の世界に没頭して帰ってきそうにないなぁ、これは』


#Hephaistos3『んっふふふ……見ていなさい、アルサル……きっと私の【毒】があなたを……んっふふふ……』


#Ouranos 5『仕方ないねぇ、少し休憩しようか。やれやれ……こうしている内にポセイドン課長とアテナ君が間に合って、つつがなく解決してくれればいいんだけど……そうはならないんだろうねぇ、きっと。はぁ……あ、デメテル君ちょっといいかい? 情報共有をしておくよ。実は――』




 ■




 死の嵐が吹き荒れる戦場となった『イーザローン平野』は、さらなる阿鼻叫喚の地獄へと化していた。


 当たり前だ。なにせ魔王を討伐した英雄の内、二人が激突しているのだから。


 いまや『イーザローン平野』ではエムリスの魔力と、ニニーヴの聖力がせめぎ合う、まさに光と闇の戦いが繰り広げらていた。


 エムリスの膨大な魔力に負けず劣らず、ニニーヴの聖力もまた絶大だ。


 竜玉を介してエムリスが聖竜アルファードの群を支配、そして魔竜へと異形化させたように、ニニーヴもまた周囲にある聖具のことごとくを配下に収めていた。


 かつてのニニーヴの言葉を借りるなら、それは『クラスタ化』になるだろうか。


 ヴァナルライガー軍が運用していた聖狼フェンリルガンズはもちろんのこと、北のニルヴァンアイゼンが持ち込んだ聖駒せいくヴァニルヨーツンに、さらには各勢力が手にしていたヒートブレイドなどの白兵武器まで。


 それら全てが一律、ニニーヴの支配下に入った。何もかもが、彼女の意志一つで自由自在に動くよう紐付けされたのだ。


 無論、言うまでもないが聖竜アルファードはエムリスの魔力におかされているため、ニニーヴの制御下には入らなかった。


 斯くして、空飛ぶ機械竜が破壊のブレスを吐き散らし、地を駆ける機械狼が火炎と雷電と砲弾を乱射し、命を持たない機械兵士が外付けないしは内蔵された武装を駆使し、さらには持ち主の手から離れた白兵武器がまるで生きているかのように宙を舞う地獄が生まれた。


 もう滅茶苦茶だ。


 こうなっては軍隊の存在など意味を成さない。


 ヴァナルライガー軍もニルヴァンアイゼン軍も、冒険者集団も聖堂騎士団も中小勢力の残党も、総じて人間の集団に価値はなくなった。


 次元の違いすぎる戦いを前に、彼らに為す術は何もない。


 聖狼フェンリルガンズと聖駒ヴァニルヨーツンを運用していた兵士は、コントロールを受け付けなくなった聖具に見切りをつけ、尻尾を巻いて逃走した。


 聖術士ボルガンこと聖神ヘパイストスの画策によって白兵戦用の聖具を横流ししてもらった連中も、その手から得物を奪われたことによって、あられもなく散り散りになった。


 このままここにいたら死ぬ――そんなことはサルでもわかる理屈だった。


 だからこそ『イーザローン平野』にいた人間達は、蜘蛛の子を散らすように戦場から離れていった。


 もはや戦場の主役は人間から、二人の英雄――否、魔王と聖女へと移り変わったのだ。


 人間同士の長閑のどかな戦争は終わった。


 ここからは、怪物同士による地獄の死闘が始まる。









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