表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

うさぎのぬいぐるみ

作者: 三衣 千月

 うさぎのぬいぐるみが、一人。

 右手の付け根から綿がはみ出て。

 ベンチに座って持ち主を待つ。


 赤いリボンをつけてもらったことを覚えている。一緒に公園に行ったことを覚えている。

 二人で一緒に出掛ける時には、小さなリュックに入れてもらって。


 いつからか、一緒に出掛けることはなくなって。部屋の隅に置かれていたけれど、押し入れの中が居場所になって。

 赤いリボンがほどけたけれど、それを見つけてくれることはなくて。



   〇   〇   〇



 ぱあ、と視界が明るくなった。

 押し入れの扉が開いて、私は見慣れた部屋を懐かしむ暇もなく、真っ白な部屋に持っていかれた。


 久しぶりに見る持ち主の顔はいつも一緒に遊んでいたあの頃とすっかり変わってしまっていて、たくさんのしわがあって。

 嬉しかった。それでも久しぶりに会えた。いつも一緒に遊んでいた持ち主に。


 うさぎのぬいぐるみが、一人。

 赤いリボンを、すっかり節くれた持ち主の手で直してもらって。それがとっても嬉しくて。


 うさぎのぬいぐるみが、一人。

 誰もいなくなった白い部屋の白いベッドを見る。


 真っ黒の、くろくろ光る目で白いベッドを見る。


 よく一緒に遊んだ公園に運ばれて、ベンチに、ことり。

 雨が降って、風が吹いて、また赤いリボンがほどけて。

 もう誰も、それを結んではくれない。


 うさぎのぬいぐるみが、一人。

 右手の付け根から綿がはみ出て。

 ベンチに座って持ち主を待つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ