うさぎのぬいぐるみ
うさぎのぬいぐるみが、一人。
右手の付け根から綿がはみ出て。
ベンチに座って持ち主を待つ。
赤いリボンをつけてもらったことを覚えている。一緒に公園に行ったことを覚えている。
二人で一緒に出掛ける時には、小さなリュックに入れてもらって。
いつからか、一緒に出掛けることはなくなって。部屋の隅に置かれていたけれど、押し入れの中が居場所になって。
赤いリボンがほどけたけれど、それを見つけてくれることはなくて。
〇 〇 〇
ぱあ、と視界が明るくなった。
押し入れの扉が開いて、私は見慣れた部屋を懐かしむ暇もなく、真っ白な部屋に持っていかれた。
久しぶりに見る持ち主の顔はいつも一緒に遊んでいたあの頃とすっかり変わってしまっていて、たくさんのしわがあって。
嬉しかった。それでも久しぶりに会えた。いつも一緒に遊んでいた持ち主に。
うさぎのぬいぐるみが、一人。
赤いリボンを、すっかり節くれた持ち主の手で直してもらって。それがとっても嬉しくて。
うさぎのぬいぐるみが、一人。
誰もいなくなった白い部屋の白いベッドを見る。
真っ黒の、くろくろ光る目で白いベッドを見る。
よく一緒に遊んだ公園に運ばれて、ベンチに、ことり。
雨が降って、風が吹いて、また赤いリボンがほどけて。
もう誰も、それを結んではくれない。
うさぎのぬいぐるみが、一人。
右手の付け根から綿がはみ出て。
ベンチに座って持ち主を待つ。