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エンドの眷属にさせられる。

「光栄に思え、貴様を眷属にする」

「はい?」


 布団で眠り、夢の中で醒めるとアヴァンギャルドな格好をしたエンド様が開口一番に渾身のドヤ顔で俺に告げてきた。俺は顎に手を当てて首を傾げる。


 眷属ってなんだっけ?ファンタジー系だと使い魔とかそんなポジションの奴がよく言われてるけど……もしかして奴隷にしてやるから喜べと言っているのか?困ったな、人間と竜じゃ思考回路が違い過ぎて理解出来ない。


「ごめん。眷属になりたくない」


 奴隷にされて喜ぶ人間などいないだろう。いや、そういう性癖の人ならば喜んで奴隷になりそうだが、俺はノーマルなので丁重に断る。


「えっ……?何を言っているのだ、貴様?」

「だから、眷属になるのは断ります」


 信じられぬものを見た表情で、呆けた顔で俺の顔を眺めた後に気を取り直したのかいつもの悪だくみをしていそうな表情で、


「終末の竜王の眷属だぞ?それがどんな光栄な事なのか矮小な人間には理解出来ないようだ。我の眷属となれば定命から逃れて永遠の命と我の力の一部が授けられるのだ。ただの人間には身に余るものだが、今回は特別に貴様を我の眷属として迎えてやろう」

「お断りします」

「なっ……あ……ッ!何故だ、理由を言え!!」

「……ッ!」

「ぁ……う……」


――竜の咆哮の如き声に俺は二、三歩後ずさる。


 空間が震える程の声量で怒号を放つエンド様は完全にご立腹であった。縦に割れた瞳孔の竜眼が紅く光り輝き、今にも飛びかからんとする姿だったのですぐさまに頭を下げて。


「眷属ってつまり奴隷って事ですよね?そうなると俺はエンド様の永遠の奴隷になれと言われても、そんな覚悟は俺にはありません!!」


 この明晰夢がいつまで続くか分からないが、それまで眷属として本格的に従属してしまったら俺の睡眠は地獄になるだろう。この我が儘な竜王様の言いなりなんて御免であるのでそう返すと。下げた頭の頭上から、


「我の眷属になりたくない……?永遠が欲しくない……?理解出来ない。この神々すら恐れる我の眷属になることは我の次に最強の存在になれるのだぞ?あぁ、そうか分からないのだな。ただの人間なのだから力を持つということの素晴らしさが分からないのだ。無知ゆえに断るのだ。そうか、そうか……それならばこうしよう」


 ぽとりっ……と血が足元の先に落ちてきた。一滴、二滴と次々に血の滴が落ちて何が起きているのか理解出来ないまま固まる。するとエンド様の両手が包むように両側から添えられて。


「――んっ!」

「うぷっ……!?……ッ!ぁぅ……!んっ、んー!!」


 不意に頭を持ち上げられると同時に唇を重ねられた。そしてその唇から熱い燃えるような液体が口内から体内に入ってくる。咄嗟に唇から逃れようとするも頭をガッチリとホールドされて、呼吸もままならないままに次々と沸き上がる熱い液体が俺の身体に注がれていく。


 俺は一体、何をされているんだ……ッ!身体が熱い!吐き出さなくちゃいけないのに止まらない!もっと欲しい……ッ!もっとこの注がれている何かが欲しい……ッ!


 俺は母親の乳を求める赤子のように、与えるられるのではなく自分の意思で貪る為に行動を始めていた。まずは足を搦めて、エンド様を押し倒す。


「なっ……あっ……ッ!ンッ――」


 そして倒れたエンド様から漏れる驚愕の声も無視して、強引に唇を重ねて更なる何かを求める為に舌を突き入れる。エンド様の口内に溢れる液体をそのまま嘗め尽くすように吸い取り、それでも渇きは飢えずに俺は唇を離して。


「もっと欲しい……もっともっともっと……くれ!!」

「そしたら我の眷属としてのその身の全てを捧げるか?もし捧げるのなら我の舌を噛み千切りその血を貪るの――んッ!」


 そうかこれは血なのか……エンド様の血か……ならもっと……ッ!


「――ッ!!がぁ……ん!!」


 言葉のままにエンド様の舌を噛み千切り、そこから迸る熱い血潮、生命の源を食らい奪い尽くす。その俺の姿にどこか嬉しそうに目を細めるエンド様は手足を搦めて逃れられないように固める。さながら蜘蛛の巣に掛かった獲物のように見動きを封じられる。


 関係ない。今の俺にはこの血だけが欲しい……もっともっと……底のない欲望を満たしたい!!もう何もかもがどうでも良い……ッ!今だけはこの血を……ッ!


 エンド様の血が体内に注がれ内に、内側から燃え上がる身体は徐々に別の何かに変貌を遂げていくのを感じる。根源的な魂すらも汚染する強力な毒だと知りながらも求めずにはいられずに――


「はぁ……はぁ……!!あ、がぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「これで契約は完了した。ふはは……これで永遠の虚無の中に我の寄る辺が出来る!!」


――数時間の吸血の末、俺の身体は燃え上がる。全身の毛穴から火が噴き出るように火達磨になり苦しみ悶える俺を喜悦に歪め笑いながらエンド様は見ていた。


「我のモノ……ッ!貴様はもう我のモノだ!!何処にも行かせはせぬ!この虚無の封印の中で互いに孤独を慰め合おう!ふはははははははははははは――」


 狂笑が虚無の中で響き続け、俺は内側から燃える炎に身体を焼き尽くされ。そして新しい身体に生まれ変わろうとしていた。それは不死鳥の灰のように、燃えて灰になる傍から新しい身体に再生を始めて、地獄のようなリサイクルの果てに――


「ぁ、うぁ……ひゃ、はは……身体が熱い……力が溢れる……」

「貴様は生まれ変わったのだ、我の眷属としてな。……そういえば名を聞いてなかったな名乗れ」

「俺は名前は夕凪優斗(ゆうなぎ ゆうと)

「そうか、ユウトか。ユウトはもう我の眷属だ。その新たなる魂に命令を刻もう」


――肉体は新しく作り変わり、燃えた影響で全裸で仰向けになる俺を見下ろしながら、エンド様は最初の命令を、まだ生まれ変わったばかりの魂に絶対服従の命令を刻もうとして。


「ユウト。貴様は我の――」



「んぁ……?朝か……」


 肝心な所で目を覚ましてしまった。俺は夢の余韻なのか燃え盛る熱を体内に宿しながらも異変に気付いた。


「なんで俺、全裸なんだ……?えっ、あれ寝間着は……?」


 ふと肌触りがおかしな事に気付いて布団を捲れば全裸であった。パンツも何もかもが何処かに消えてしまったようだ。そして強く脈動する己の肉体を感じて。


「何が起こったのか知らないけど……とりあえず今日が休日で良かった」


 全身から異常な程に力が漲り、今にも暴れ出したい気持ちを抑えながらベットで仰向けになる。頭も今までにない程に冴え渡り、クリアな視界と聴覚の中で天井を見上げ。


「この身体が醒めるまではしばらく横になっておくか」


 気になる事は山ほどあるが、今一番の異変は肉体の変化なのでほとぼりが冷めるまではPS4を起動して動画サイトを視聴するのであった。



★★★



「ごめん。眷属になりたくない」


 そう人間が口にした時、我は理解出来なかった。この世でもっとも強い終末の竜王の眷属になることは、どんな愚か者でもあり得ぬ筈だ。


「えっ……?何を言っているのだ、貴様?」

「だから、眷属になるのは断ります」


 二度聞いて、我は生を受けてから初めて呆然とした。そしてすぐにこの人間の世界には魔法も存在せぬ事を思い出して、一から我の眷属になる素晴らしさを説いてやることにする。


「終末の竜王の眷属だぞ?それがどんな光栄な事なのか矮小な人間には理解出来ないようだ。我の眷属となれば定命から逃れて永遠の命と我の力の一部が授けられるのだ。ただの人間には身に余るものだが、今回は特別に貴様を我の眷属として迎えてやろう」

「お断りします」

「なっ……あ……ッ!何故だ、理由を言え!!」


 我はとうとう心底理解出来ない人間に対して苛立ち咆哮してしまう。その瞬間に人間が二、三歩我から後ずさる姿を見て。


「ぁ……う……」


 我に怯える人間の姿に心の底から狼狽えてしまった。我が欲するモノが我を拒絶する姿に自分でも意外な程に心が揺れる。


 たかが人間如きに拒絶されたからと何故焦る……ッ!我は終焉のエンド。終末の竜王だ!あらゆる生命から恐れられ、神々すらも忌み嫌われた我が……今更、たかが人間一人に拒絶されたからと言って……。


「眷属ってつまり奴隷って事ですよね?そうなると俺はエンド様の永遠の奴隷になれと言われても、そんな覚悟は俺にはありません!!」


 人間はそう叫んで頭を下げた。ますます我はその人間が分からなくなった。我の奴隷になることの何が問題なのか?永遠の何が嫌なのか?そして覚悟がないとはなんなのか?そこまで考えて、我はやっと答えに辿り着く。


「我の眷属になりたくない……?永遠が欲しくない……?理解出来ない。この神々すら恐れる我の眷属になることは我の次に最強の存在になれるのだぞ?あぁ、そうか分からないのだな。ただの人間なのだから力を持つということの素晴らしさが分からないのだ。無知ゆえに断るのだ。そうか、そうか……それならばこうしよう」


 つまりはこの人間は矮小ゆえに、力も永遠の価値すらも分からないのだな。ならば我が無理矢理にでもその魂に教えれば良い話ではないか。


 我は舌を噛み切り、舌から血を滴らせる。この世でもっとも強力な力を秘めた竜王の魂を混ぜた血を口に含み――


「――んっ!」


――我は人間の口の中に無理やり、我の魂の籠められた特別な血を注いでやる。


 あぁ……これが子に乳をやる母の気持ちなのだな……。必死に我の血を貪る人間の姿がとても愛おしい。ほら……もっと飲むのだ、求めるのだ……ッ!


「なっ……あっ……ッ!ンッ――」


 気が付けば人間に足を絡められて押し倒される。そして理性の失い掛けながらも我を求める人間を見つめ。


「もっと欲しい……もっともっともっと……くれ!!」

「そしたら我の眷属としてのその身の全てを捧げるか?もし捧げるのなら我の舌を噛み千切りその血を貪るの――んッ!」


 そんなに慌てなくても良いのだぞ?もっともっと我を求めるのだ。そしてその身を我の血で犯して染め上げる。そして我の眷属として生まれ変われ!


「――ッ!!がぁ……ん!!」


 言い終わるより早く人間は我の舌を噛み千切り、そこから溢れる血を啜っていた。心にまた新たなる感情が芽生えるのを感じながら、この愛おしく愚かな人間が心変りなど絶対にせぬように四肢を搦めて拘束する。そんなことすら気にも留めない人間の姿を嬉しく思い――


「はぁ……はぁ……!!あ、がぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「これで契約は完了した。ふはは……これで永遠の虚無の中に我の寄る辺が出来る!!」


――遂に我の血が魂の全てに染み渡り生まれ変わりの時を迎えた。


 燃え上がり灰になり再生し我の眷属に相応しい肉体に作り変わる。ゆっくりとその身を焼き尽くされ、そして徐々に我の同族へと生まれ変わる光景に興奮が隠せなかった。


「我のモノ……ッ!貴様はもう我のモノだ!!何処にも行かせはせぬ!この虚無の封印の中で互いに孤独を慰め合おう!ふはははははははははははは――」


 この虚無の封印の中で、我の眷属が同族が誕生しようとしている!これであの人間の魂が我のモノになった!この地獄の責め苦で、終わりのない永遠の道連れが……我の孤独がとうとう打ち払われる……ッ!はやく、はやく我の眷属になるのだ!


「ぁ、うぁ……ひゃ、はは……身体が熱い……力が溢れる……」


 この匂い、気配、そして力。間違いなく我の眷属。あぁ、早くその名を知りたい……その名を呼びたい。この無限の時の道連れの名を教えてくれ。


「貴様は生まれ変わったのだ、我の眷属としてな。……そういえば名を聞いてなかったな名乗れ」


 だが決して本心は顔には見せない。心の中で幾星霜ぶりの征服欲と新たに芽生えた感情が強く刺激されるのを感じながら人間に命じる。


「俺は名前は夕凪優斗(ゆうなぎ ゆうと)


 夕凪優斗(ゆうなぎ ゆうと)!それがこの人間の名か!ユウト、ユウト、ユウト……ッ!お前は我の愛玩奴隷としてたっぷり可愛がってやるからな!


「そうか、ユウトか。ユウトはもう我の眷属だ。その新たなる魂に命令を刻もう」


 世界を滅ぼす以上の快楽が電流のようにこの身に流れるのを感じながら、生まれ変わったばかりの柔らかい魂に我の絶対的な命令を刻む事に鉄仮面が今にも剥がれそうになる。


 刻む!刻む!刻む!早くこのユウトに我のモノとしての命令を魂に刻むのだ!そしてやっとやっとやっと、この虚無の封印の孤独から解放される!


「ユウト。貴様は我の――」


 より強く生まれたばかりの新たなる眷属のユウトの魂に最初の命令を刻む瞬間に――


「永遠の愛しい奴隷となる……のだ?」


――ユウトは命令を刻む瞬間に消失した。


「ユウト、ユウト、ユウト……?何処だ?何処にいる?」


 うわ言のような虚無の中にユウトを探すが見つからず、そして再び孤独が襲い始める。


 ユウトが消えた……また我はこの虚無で独り……嫌だ嫌だ嫌だ……ッ!


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ユウトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」


 独りを意識した瞬間に虚無の孤独が心を犯し始める。そして求めてやまないユウトの名を何度も何度も叫びながら、再び終末の竜王のエンドは深い絶望の谷底に落ち始めるが――


「ユウト……我のモノ……我のモノになったぞ。ふはは……」


――蹲り小さな希望に縋るエンドの瞳にはユウトに対する狂気の炎が宿り始めていた。


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