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大虐殺

「終わったようじゃな……結局の所、あの妖怪はどこの組織に所属しておるのだ?」

「分かりません。今回の事態に対しては世界中の組織から秘密裏に招集されたので、互いの情報交換もないままに予言に備えてましたから」

「世界の終わりと言う事態になっても人類は一致団結出来んとは悲しいのぅ……」


 陰陽会第二位、阿部蔵彦の言葉に重蔵は呆れと諦観の含んだ声で呟く。

 ラプラスの目と言われる最先端科学と魔術を組み合わせて作られた未来予測機に世界の滅亡が一年前に示され、各国政府はその滅亡に対抗すべくあらゆる分野のスペシャリストたちが招集された。

 そして滅亡の発端となる場所にその中でも最精鋭の科学者、魔術師、異能者が集められて滅亡に備えていたが、実態は内輪もめで連携も取れない惨憺たる有様だった。


 あの竜に対抗出来たのは実質、あの妖怪一人だけ……それも完全に殺しきれておらん。


 科学兵器も呪術も魔術も異能すらも跳ね返す最悪の竜はただ一体の妖怪の拳で沈んだ。数千人のあるゆる技術と力が、ただ一体の妖怪の拳に劣るのは異常事態であるが、それ以上に竜は完全に殺しきれずに次元の隙間に放逐されてしまったことは由々しき問題だった。


「あの化け物がまた地球に戻って来たら、ワシらはどうすれば良いのやら……」

「人類の存亡が人類以外の手にあると考えると気が重いですね」


 宙に浮いている化け猫の妖怪は集まった人間達を見下ろしている。

 竜に唯一対抗出来るのが人間ではなく人外の手に握られているのは、核ミサイルのスイッチを手にしている以上の脅威でもあった。

 つまりは今後の世界情勢はあの妖怪の所属する組織が覇権を握ることになる。


「あえて覇権を握る為に殺さなかったのか……どっちにし――なんじゃ?」

「地震……ではないですね。この揺れ方は霊子が震えている……?」


 大地ではなく空間が揺れている。物質は揺れないが霊感のあるものならば大地震が発生していると思える程の揺れの中で、重蔵の視線は空に向いていた。

 それは妖怪のよりも遥か上空に浮かびあがる街を覆う程の巨大な円環。


「滅亡の予測はどうやら正しそうじゃな……次から次へと化け物共が現れおる」


 円環の内側は漆黒に染まり、そこから大量の黒い翼の生えた悪魔に巨大な光の坂道がビルを貫通して伸びあがり異形の大軍が雄叫びを上げて隊列を組み侵攻を始める。

 数十万も超える大侵攻であるが、あの竜に比べれば遥かに弱く。そしてこちらには軍隊に加えて数千人ものプロたちが待機している。

 

「さて次は雑兵どもの掃除を始めるとするかの」


 こうして異界から侵略する謎の軍団と数千人のプロフェッショナルと軍隊の大戦争が街の中で勃発した。

 誰もが事態を正確に把握できぬままに、この混乱の中で殺し合いが始まる。




★★★


「そんな……何故、私たちの世界の魔族どもがこちらに現れるなんて……」


 天空の円環から伸びる光の坂より数十万を超える兵が下りてくる。それを魔王軍の中でも最精鋭の七死の騎士達が率いるという光景に私は絶望に染まる。


 大国すらも容易く滅ぼす数に加えて七死の騎士も投入するなんて……。完全にこの世界に侵略を始めようとしているわ。まだ勇者様も見つけてないこの状況で……。


 この世界が侵略されることをただ見ている事しか出来ない事に自責の念に責められている時――


「えっ……何が起こっているの?!」


――視界に映る魔王軍全員が炎に包まれた。


 突然の発火現象に悶え苦しむ兵士はそのまま光の坂から転落し地面へと落ちて行く。たった一瞬で大国の軍が壊滅する事態に現実を受け入れられずに思考が停止すると、次の瞬間には視界に映る魔王軍の兵士が紅い球体へと変化した。

 それは目を凝らして見れば、小さな球に肉体を無理やり詰めたかのように赤く波打っていた。何者かが燃えた兵士を小さな球体に圧縮したのだ。数十万を超える兵隊たちをたった一瞬で。


「あり得ない……こんなこと……」


 魔王軍が壊滅した喜びよりも未知の力に対する恐怖が私の心に宿っていた。

 魔法や奇跡、単純な武術で殲滅するのは理解出来る。だが何の予備動作もなしに命が理解出来ない方法で消えていくのに聖女である私は怯えていた。


 この世界は勇者様以外にも理を超えた存在が居るとでも言うの……?


 七死の騎士達すらも一瞬で屠る異世界の力の恐ろしさに身を固くして震える。



★★★



「俺の手柄を横取りするかジールめ……」


 せっかく俺が燃やした異界の兵士たちにトドメを刺した同僚を恨む。どっちにしろ俺の火力ならばほとんどは燃え尽きるのに余計な真似を。


 俺の持つ超能力はとてもシンプルな物だ。


 パイロキネシス、ただの発火能力であり視界に入るモノを任意で燃やす事が出来る。ありきたりな超能力の一種であるが、機関の研究の結果、俺の超能力の威力と範囲はケタ違いであることが分かった。


 視界に入るモノならば文字通り全てを焼き尽くせるのだ。


 火の悪魔の二つ名を持つそんな俺の得意な事は殲滅。今回のように敵が頭数を揃えてゾロゾロと向かってくるのは最高の状況と言っても良い。なにせ敵は上空からゆっくりと下りてくるので俺にとっては燃やしてくれと言っているようなものだ。


「あの竜には無意味だったが……今回の戦闘で俺の地位を盤石にするはずが邪魔しやがって……ッ!」


 毒吐きながらも、俺の視界から逃れた哀れな生贄に視線を合わせて発火能力を使う。



★★★



「うわー……これは酷いなぁ……」


 僕の上空で燃え上がり地に落ちる怪物たちを眺めながらそんな感想が漏れる。


 最初はあんな大軍が現れたからどうしようと思ったけど……思ったより人間の戦闘能力を甘く見ていたみたいだなぁ……。ほぼ瞬殺じゃないか。


「よっと……ッ!それにしてもよく燃えるねぇ……」


 化け物たちは統率が取れておらず混乱しているようだった。それは目の前で自軍が一瞬で死んだことに動揺してのことだろうが、そんな化け物も次の瞬間には見えない力で潰されたり、燃え上がったり、爆ぜたりする。何というか、最初は日本が終わるかも知れないと思った僕は馬鹿みたいだった。

 神様の部屋に上がり込み、ブチ抜かれて風通しの良くなった部屋の中で僕は椅子に座りながら一方的な大虐殺を眺める。


 レーザーが飛び、ミサイルが飛来し、火球、光球、雷撃、戦闘機の機銃掃射と科学もオカルトも関係なく化け物の軍団に容赦なく攻撃が降り注ぎ、敵はとうに戦意を喪失しても一切の容赦なく、一人として生きて帰さないという強い意志を感じる。


「ふにゃー……神様の匂い……んふー」


 僕はそんな爆雷の鳴り響く中、神様のベットに人間としての姿で横になる。感じるのは僅かに残る神様の熱と匂い。それを余さず僕の身体に取り込んで至上の幸福を感じながら。


「これ……神様になんて説明しよう……」


 枕に顔を埋めて、片方の目で上空で起きる爆発と閃光の戦場の光景を見つめて考えるのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] どの視点かちょっとわかりづらいです。
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