総力戦
「僕の邪魔をなんでするのかなぁ?!あのまま邪魔さえなければ僕は愛して貰えたのにさぁ!!」
「畜生が人間の姿をしても畜生なのが分からないのかな?主様が穢れてしまうから邪魔したのよ!あなただけずっと傍に居られるのに……私の居場所まで奪わないでよ!」
どれだけ畜生が素早く動けようと、私の面制圧の前では力を十全には扱えない。イメージはショットシェル。パチンコ玉よりも小さい弾の集まりを数十個と撃ちだして距離を保ちつつ、ひたすらに放ち続ける。
住宅街での戦闘は喧しい。私と畜生の戦闘に集中したいのに、呑気にカメラを向けて私たちを撮影する愚か者共。悲鳴と歓声が沸き上がり、サイレンが鳴り響く中で眷属同士の殺し合いを演じていた。
「本音は怖いんだよね?僕に人間としての優位すら失ってさぁ!神様に見向きもされなくなることがさぁ!お情けで眷属にして貰った下っ端の癖に粋がるなよ!奴隷!」
なんだと……ッ!黙れぇぇぇぇぇぇぇ!畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――……ッ!
何かが私の頬を掠めて盛大に血が噴き出る。見れば畜生はとうとう道具を使うことを覚えたのか、家の屋根の瓦を馬鹿げた身体能力で投擲する。
――それも私と同じように握力で砕いて散弾のように高速で投げつけながら。
「ちっ……ッ!猿知恵が……ッ!」
「それなら防いでみなよ!馬鹿にしてるけど、僕の方が賢いよ!ほらほらほら!」
砕け瓦礫が雨嵐のように私に降り注ぐ。もはや攻撃に転ずる暇も与えずに、私は影を展開して守りに入るしか出来ず――
「やっと接近出来た……ッ!ほらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、死んじゃぇっ!!」
「ぐぼぉ……グぅ……ガァぁァァぁァァぁ!!」
――その隙を畜生は見逃さずに右腕が私の腹部を貫いた。
「君にはこんなもの要らないよねぇ……ッ!ハハハ……だって僕が血を残すお手伝いをさせて貰うのだからさぁ!!」
「グ……ギゃぁ……」
そしてそのまま臓器を引き抜く。血に染まった畜生の手に掴んでいたのは私の子宮だった。それは私が役目を果たす為にとても大切な部分であり、怒りで視界が紅く染まる。
「ぽがぎぁぅあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「はははははは、そんなに叫んだって何もかわらな……えっ?」
畜生の困惑の声が聞こえる。でもそれすら私の耳を素通りして限界まで高まった怒りが私の肉体に異常をもたらした。
まず私の身体が数百倍に膨れ上がり、人間としての皮が裂けてその内側から黒い鱗が現れる。首が長くなり細長い頭に胴体はずんぐりとして背中から翼が生える。そして長い黒い尻尾は大きく振りかぶり、それだけで誰かの家の二階が吹き飛んだ。
――私は気が付けば雑居ビル程の大きな黒いドラゴンへと変化していた。
「ちょっと待ってよ……そんなのズルいよ。追い詰められて僕を軽々と超える化け物になるなんて……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!……は?」
畜生の全力の拳は私の胴体を貫通しなかった。ただ打撃の痛みだけですぐに肉体は再生して万全の状態になった私は空高く舞い上がり――
「落ち着け!天野天利!それ以上は神様の不利益となる!そんなことをしたら神様の日常生活は滅茶苦茶になるよ!何もかもを吹き飛ばすつもりなのかい?!」
――畜生の声はもう私には届かない。ただ憎しみだけが私を動かしてお腹の奥から貯めた力を解放しようと口を開く。
扱う者ですらその身を滅ぼす終焉の力が解き放たれようとしていた。限界まで膨張した光の光球は街一つ滅ぼす程度では済まされず、世界そのものに深刻なダメージを与えるだろう。
でも今の私にはそんなことはどうでもよかった。
ただ滅ぼしたい。その欲求のみに従って力を限界まで溜めて私はそのまま畜生の居る大地ごと滅ぼそうと首を下に向けた瞬間。
「グゥ……?」
細長い何かが私の胴体にぶつかり爆ぜた。
痛みよりも衝撃に驚いて攻撃を止めた私は更に二発目、三発、四発目、と次々に何かがぶつかり爆ぜる。そしてここに来てその正体が何か理解した。
ミサイル……?自国内でミサイルを撃ち込むなんて正気じゃない……それに対応速度があまりにも早すぎる……私がドラゴンになって十分もしない内に配備するなんて……。
世界に大打撃を与えようとした自分を棚上げして、自国内でミサイルを放つ日本政府に驚愕していると、黒い三角形の飛翔物が目の入る。それが五機隊列を組んで私の遥か上空を飛び。
「ガァゥ……ッ!」
十数発のミサイルが私に向けて発射されてそれら全てが直撃した。
だがそれもほんのつかの間の痛みを与えるだけに留まり、すぐさまに肉体を回復した私はハエを払うべく、口から終焉の力を放とうとすれば次は半透明な鎖が私の頭に巻きつき邪魔をする。
「ほぅほぅほぅ……この歳になって予言通りに滅びが現れるとは……」
次は時代錯誤の陰陽師のような老人と若い男女の数人がビルの上に立っていた。そして見れば視界の内に、アフリカの呪術師のような格好の人間、アメリカのシャーマン、山伏、顔に布を巻いたスーツの人間、修行僧のような痩せた人間、果てはドレスのような格好をしたステッキを持つ少女、霊媒師、坊主。
この街には数千人の以上の力を持った人間たちが国籍人種を問わず集合していた。
そしてその数千人からの攻撃と予測される異常事態の数々が私の身体に迫る。
全身が燃え上がり、光の剣が突き刺そうと飛び、眠気、怠さ、視力の低下、金縛り、力の奔流、文字が空を飛び私の周囲を覆う、次元の裂け目から手が伸びて掴む。数多の視線が空から私を見下ろしてレーザーのように光の収束が私を穿つように降り注ぎ、数万の戦士の亡霊が殺到するが――
「滅べ」
――ただその一言で攻撃の全てが霧散した。
多種多様な技も全ては終焉、終わりには敵わない。終わりを宿す私には死はない。なぜなら私自身が死の化身でもあるからだ。それを止められる存在が居るとすれば唯一、
「まぁ、なんか知らないけどさぁ。総力戦って燃えるよね」
私のすぐ耳元で私に対抗できる畜生が囁く。反撃するよりも早く、拳に力を溜めた畜生は悪戯っ子のように笑い。
「地の果てまで、宇宙の果てまで吹っ飛んでよ!おかげで僕も新しい力の使い方を身に着けたし――――食らえ」
振りかぶった拳は私に当たる直前で止まり――いや、私の目の前の空間を殴り亀裂を発生させて真っ黒な闇が目の前に現れて。
「転身、キャットウォーク」
トン。
一瞬で私の背後に回った畜生はその暗闇に向けて私を蹴り出した。空間の裂け目は僅か数秒で修復されて、私は未知の次元へと放り出される。
「ぎな゛ごぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉ゛ぉ゛ぉ゛゛ぉぉぉぉぉ゛ぉ!!」
天地も分からぬ次元の狭間で絶叫を上げながら、血を吐く叫びを上げて元の主様の居る世界に戻ろうと足掻く途中で何かが私に引っ掛かり。
「おぉ!終焉の神をとうとう我らは呼び出せた!これで我が祖国を滅ぼした憎き――」
「黙れぇ……ッ!」
未知の世界で数千の人間に囲まれ、私は溜まっていた終焉の力を解き放ち世界を一つ滅ぼした。大地も何もかもが枯れて死んだ世界をドラゴンのまま飛び回りながら。
「きなこ……私は絶対にかぇるからな゛ぁあ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛!」
異空間に送られた私は滅んだ世界で主様を奪う怨敵に復讐を誓うのだった。




