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どっちが上か

「もし何かあったらすぐに父さんに相談するんだぞ?」

「…………えっ?あ、ああ相談するよ。吸血するにも相手の許可なくちゃ吸えないみたいだから」


 朝食の最中、父さんが突然話しかけてきたのでしばらく思考停止して、そういえば天野天利は吸血鬼で俺の血が好物って設定を思い出して曖昧に頷く。

 

「しかし吸血鬼なんて化け物がこの世に存在するとはなぁ……こんなこと警察にも相談できないしどうしたもんか」

「放っておいて良いよ。吸血するだけで別に人を殺す訳でもないし」

「それが優斗を狙っているのが心配なんだが……もし他にも吸血鬼がいて全員が狙って来たらどうするんだ?」

「許可なくちゃ吸えないから大丈夫だって」


 難しい顔で唸る父さんは本当に俺の事を心配して考えている。超常的な存在を目にして母さんも少し怖がっていたが、これが一般的な感性なのだろう。


 天野天利の眷属バレが続いていけば、いつかは吸血鬼ということで誤魔化しきれなくなるな……というか、本人ですら興奮すると瞳の色が変わるって完全に肉体のコントロールが出来てないし……。はぁ……面倒くさい。


 魂の適性なのか分け与えられた力の量なのか分からないが、俺は完全にエンド様の眷属としての力を制御出来ていた。きなこも感情の高ぶりから瞳の色が変わることもあるが霊視の力がなければ見えないので問題ないだろう。

 俺はちらりと脛を擦るきなこを見て今朝の激情はなんだったのか考える。


 俺が目覚めてから悲しんだり、怒ったり、憎悪を募らせたりしてたけど……まさかエンド様に対して激情を持ってるのかな……?朝は流石に精神的に死にかけたのを見て、その原因たるエンド様に怒りを向けるのは分かるけど止めさせないとなぁ……。


 今のきなこの頭の中は幸せで一杯であるが、何かの拍子に夢の中にきなこを連れて行くと悲劇が起こる。多分、出会って数秒で血煙すら残さずに消えるだろう。エンド様の独占欲は絶対者故の底なしであるから俺の眷属なんて目の前に居たら確実に許さない。

 俺は食パンを食べながらいつものように過ごしていると――


「大変よ……あの化け物が優斗を待っているわ!」

「なに?!家の前で待つとは……いつまで息子を付け狙う気だ……ッ!」


 夕凪家は完全に天野天利を化け物扱いしているが、本人は眷属であることを誇りに思っているので喜びそうである。

 毎朝、迎えに来ますと言っていたが家を出るまでまだ三十分以上も時間がある。このまま天野天利を放置したら見てくれは良い彼女が、近隣住民の好奇の目に晒されるのは避けたかった。


「こっちを見て笑っているぞ……ッ!


 父さんと母さんはモンスターパニック映画に出てくる登場人物のように、カーテンの隙間からそっと天野天利を眺めて緊張した面持ちで観察を始める。


「あの化け物は吸血鬼で許可がないと家に入れないと言っていた。だからこっちが何かしなければ向こうは何も出来ない」

「そうね……このまま大人しく引き下がってくれるのなら良いけど、最悪の場合は警察に連絡をした方が良いかしら?」


 手に汗握る両親には悪いが、放っておいても悪いので俺は玄関に向かう。


「天野さん。まだ時間あるから入ったらどう?」

「――ッ!はい!上がらせてもらいます!」


 俺を見て喜色を浮かべて敷居を跨ごうとした瞬間、きなこが前に出てきて天野天利を睨んでいた。気配から眷属であることを理解している筈なのに警戒を緩めずにジッと見つめ。


「君はユウト様の眷属だよね?」

「えっ?うん……そうだよ。あなたもそうでしょ?そして何で私を睨んでいるのかな?」


 警戒を緩めないきなこに天野天利は困惑を隠せずにいた。そしてそれの何が癪に障ったのか、きなこは怒りを心の内側に強く抱きながら。


「君はユウト様の何なの?」

「――ん?」


 ここにきて天野天利さんの表情が硬くなる。顔は他所行きの笑顔のままであるが、内面から沸き立つイラつきが俺にも伝わってくる。一瞬にして冷めた表情できなこを見下ろし。


「私は主様の奴隷だよ?それであなたは主様の何なの?」

「ふ……なんだ奴隷かぁ……。僕はユウト様のペットだよ。その目気に食わないから止めてくれないかな?なんで僕が奴隷風情に見下ろされなきゃならないのさ」

「…………主様。それでは上がらせてもらいますね」


 鼻で笑ったきなこに怒りのホルテージは最大限に上がり瞳が紅くなる。それでも笑みを崩さずに横を通り抜けようとすると――


「無視しないで欲しいな……奴隷の分際で」

「私は主様の奴隷であって、あなたの奴隷でも何でもないんだよ?あー……ごめんね。猫には難しい話だったかな?」


――進行方向に立ち塞がったきなこは見下した態度で天野天利を見つめる。


 俺は一触触発の二人の雰囲気にうんざりとして。


「眷属マウント取り合うのは勝手だけど……やるなら人気のない所でやってくれないか?」

「そうですね……ちょっとこのペットには躾が必要みたいですので」

「ユウト様のペットである僕に奴隷が偉そうにしないで欲しいな。そうだね。決着は実力で見せつけてあげるよ」


 俺の言葉をそのまま受け入れて、一人と一匹は街の中へと消えて行く。これから行われるであろうキャットファイトを想像して、どっちが勝つか気になるが――


「なんなんだ……あの化け物?一人でブツブツと喋って何処かに消えたぞ?」


――きなこが見えない両親が天野天利の会話に引いていた。


「天野さんは霊も見えるみたいだから、何か因縁でも付けて喧嘩しに行ったみたい」

「吸血鬼に続いて幽霊とは……我が家もおかしな化け物たちが集まってきているな」


 俺が最低限しか二人の会話に参加しなかったのは両親がこちらを窺っていたからだ。傍から見れば天野天利がエア会話して勝手にどこかに行くという正気じゃない行動に見えていただろう。


「それじゃあ、俺は用も済んだし部屋に戻るね」

「あ……あぁ、次からは相談してから玄関を開けなさい」

「はーい」


 父さんに釘を刺されつつも適当に返事をして、俺は部屋に戻りパソコンを起動する。

 きなこに聞いた妖怪たちが使う怪奇ネットに好奇心でアクセスする。事前に妖力という力を使って接続するらしいが詳しい仕組みは俺もきなこもよく分かっていなかった。


「地元の妖怪事情は……これか……うわぁ」


 各市町村別に立てられたスレッドの海の中から地元のスレッドを見つけ出し。俺は書かれている内容に気まずい思いをした。

 話題は薬壺厄災の惨殺死体の肉片が市中に巻き散らかされ、あの神を殺せる正体不明の凶悪な妖怪が他所からやってきたと大騒ぎをしていた。俺はスクロールしながら書かれている内容に目を通して。


「最近の情報化社会も妖怪に浸透しているのかぁ……天野天利が晒されないか心配だな」


 近代化の波に飲まれる妖怪たちのネット事情に感心しながら、他に面白い話はないか周辺の市町村のスレッドを読むのであった。



★★★


「君はユウト様の眷属だよね?」

「えっ?うん……そうだよ。あなたもそうでしょ?そして何で私を睨んでいるのかな?」


 気に食わない……僕を歯牙にもかけないその態度が気に食わない。


 目の前の人間の女は僕の事を一切気にしていなかった。まるで取るに足らない相手だと言わんばかりに視線は神様に向けている。何様のつもりで馴れ馴れしく神様に話しかけているのか知りたくて。


「君はユウト様の何なの?」

「――ん?」


 ここに来て、この人間の女は僕に本性を見せた。冷めた視線で僕を見下ろして邪魔ものだと言わんばかりの態度で、


「私は主様の奴隷だよ?それであなたは主様の何なの?」

「ふ……なんだ奴隷かぁ……。僕はユウト様のペットだよ。その目気に食わないから止めてくれないかな?なんで僕が奴隷風情に見下ろされなきゃならないのさ」


 尋ねるので、僕は優越感に浸りながら答える。所詮は神様の奴隷。僕は神様に愛されるペット。どちらが格上か一目瞭然だったのでその不躾な視線が僕を不快にさせる。


「…………主様。それでは上がらせてもらいますね」


 余裕を見せてるつもりだろうけど……君の目は紅くなってるよ?


「無視しないで欲しいな……奴隷の分際で」

「私は主様の奴隷であって、あなたの奴隷でも何でもないんだよ?あー……ごめんね。猫には難しい話だったかな?」


 格下の癖に僕を侮辱するこの人間の女に強い怒りを抱いた。このまま噛み殺してやろうかと思ったけど、神様の一応は奴隷であるモノなので殺気をぶつけるだけに留めて置く。

 生意気にも人間の女も僕に殺気をぶつけてきて、このまま殺し合いに突入する寸前で――


「眷属マウント取り合うのは勝手だけど……やるなら人気のない所でやってくれないか?」

「そうですね……ちょっとこのペットには躾が必要みたいですので」

「ユウト様のペットである僕に奴隷が偉そうにしないで欲しいな。そうだね。決着は実力で見せつけてあげるよ」


――神様が僕たちに格付けする為の機会を与えてくれた。


 互いに視線をぶつけたまま、神様の言いつけ通りに人気のない所を目指して歩く。本当ならペットとして神様の傍に居るのが当然なのだけど、どうしてもこの人間の女とはハッキリと格下としての烙印を押してやりたかった。


「加減出来なくて殺しちゃったらごめんね。猫ちゃん」

「君は相応しくない眷属だね。僕たちはユウト様の所有物なんだよ?そんな殺すなんて不利益なことは僕は絶対しないなぁ……半殺しで勘弁してあげるよ」

「畜生の癖に人間の言葉を使えて偉いわね」

「人間の癖にユウト様の利益を考えられない君に褒められても嬉しくないね」


 今にも互いに殺し合いが始まりそうだけど、ギリギリの所で僕たちは踏みとどまっていた。人気のない所でやれと言われた以上は絶対に神様の眷属として遂行しなくちゃならない。

 僕たちは近くの雑木林の中に入り、完全に周囲の目がないことを確認して。


「それじゃあ始めようか、人間の女」

「あら、あなたは身体も大きく出来るのね。このまま猫を踏みつぶしたら後味悪いからちょうど良かったわ。痛めつけても良心が痛まないもの」


 僕の体躯は虎のように大きくなり、人間の女は爪が鋭くなり気配が変わる。ここで僕たちは互いにハッキリと神様の眷属であることを理解する。そして――


「本当に死なないでね?弱くて使えなくても神様の眷属なんだから」

「それはこっちの台詞よ。子猫ちゃん」


――終焉の力を宿した者同士の激戦が始まった。


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