番と血塗れスプラッター少女
「何故、完全に眷属に出来ぬのだ」
隣で眠る愛しい眷属がまだ完全に支配できていない事に我は少しだけ焦りを覚える。
魂すらも完全に我がモノとした筈なのに、我の命令に従わずに拒否することが出来るユウトを不思議に思いながら、記憶の共有で見たユウトに近付くゴミ共を思いだす。
「我の命令に従わぬ限りはユウトはあのゴミ共に穢されると思うと……」
転移陣で呼び出そうとする者、不相応にもユウトの眷属になる人間、ユウトとが話しかけられて喜ぶ幽霊。どれもこれも我がこの虚無の中に囚われなければ滅ぼしてやっているのに、ただユウトと記憶を覗き見ることしか出来ないのが歯がゆかった。
「最後は我のモノに帰ってくるとはいえ、この胸の締められる思いは耐えられぬ」
耐えられぬから我はそのまま舌を噛み切り、眠っているユウトに血を注ぐ。口を開けさせたユウトの口に我の舌から零れる血が落ちて行くのを、魂が痺れるような興奮の中で一滴、また一滴と注いでいく。
そして気配がより我の眷属として強くなることに喜びを感じ我慢出来ずに唇を重ねて貪る。
「――んっぁ……エンド様」
「くちゅ……ちゅ、んっ……我の血を飲め、もっともっと魂を染めさせろ」
ユウトは命じられるままに乳飲み子のように我を求める姿に、独占欲と支配欲が満たされていくのを感じて、我の力の虜となるように全てを流し込んでいく。
これで我のモノ、もう誰もが手を出せぬ存在としてもっと力を注がなければ。
決して殺されぬよう、犯されぬよう、奪われぬようにユウトの魂をより強靭により強く力を注いで出来上がったのは――
「しまった……これは注ぎ過ぎた。だがこれ程の雄に育つとは我の番に相応しい」
――いつの間にか我よりも強い存在になっていた。
我が弱くなった訳ではなく、我の注ぐ力に適応して与えた力の何十倍も増幅させてその身に宿していた。今ではあれ程までに矮小だった人間が、産まれてから一度も感じたことのない番として雄を求める本能が下腹部に熱を持たせる。
今のユウトなら我を孕ませるのも可能なはず……。欲しい……我とユウトの仔が欲しい。血族が増える喜びを我は知りたい。
「どうしまたした、エンド様?めっちゃ涎垂れてますけど」
「のう……ユウトは仔がどれだけ欲しい?そして我を抱きしめてくれ」
「えっ?子供ですか……ちゃんと面倒見れる程ですから多くて三、四人ですかね」
「そうか……三、四人も欲しいのか……ふはは、分かった」
我は初めて他者の腕の中に抱かれて庇護される安心を覚えた。最強であった我が決して知り得ぬはずの感覚が、我の心を満たしてユウトの答えを嬉しく思う。
三、四人……ふはは、この世を何度滅ぼしても足りぬ程の仔を欲するとは……我の血族が世界を滅ぼしていく光景を想像すると……あぁ……最高だ。
我とユウトの血を引く愛しい仔たちが世界を滅ぼす姿を想像して昂揚を隠せない。そして最後には我らすらも滅ぼしてくれると考えると――
「こっちの終焉の方が良いかも知れぬな」
「えっ?どっちの終焉ですか?」
――我が仔の手で終わりを迎えることに絶頂してしまった。
小刻みに震える我を心配して抱きしめるユウトのキスをしながら、
「ユウト……我と終焉をもたらす仔たちを作ろうぞ」
「ち、父親としての責任考えるとのいきなり子供を持つのは――」
「――ダメだ。これはもう我が決めた。さぁ、ユウトの仔種を寄越す……の?」
さぁ、番として交尾を始めようとした瞬間に我はストンと地面に落ちる。そしてしばらく呆けて、何が起こったのか理解して。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!これから良い所だったのに……ッ!肝心な所で夢から目を覚めるでない!ユウト!」
完全に発情して身体も心も準備満タンという所でお預けを食らい、ひさしぶりに我は世界を滅ぼす最強の一撃を怒りに任せて虚無に放つ。
しかし虚無の中ではそれは虚しく那由他の先まで飛んでいき消える。我は持て余した魂を慰める為にユウトが着ていた古着の中に身を突っ込みながら、ユウトの匂いのする服を全身に巻きつけて、
「ここは……我慢だ!次に来る時に完璧な状態で始める為に欲求をコントロールせねば」
子を為すという大仕事の為に我の肉体も精神も最高のコンディションを維持を続けてユウトが来るまで、必死に欲望を発散しないようにユウトの着ていた服に包まれながら目を瞑り耐えるのであった。
☆☆☆
「流石に世界を滅ぼす力を持つ子供の父親とか責任重大でメンタルが死ぬよ……」
俺は危ない所で目が覚めてベッドの上で安堵する。あのまま場の雰囲気と勢いに飲まれて行き着く所まで行ってしまいそうなので、自身の幸運に感謝しながらも。
「次……眠るときに確実にエンドに襲われるよな……どうしよう」
実験でエンド様は夢から連れ出せないが、母親のハムスターが夢に出入り可能だったので、必然的にもし子供が出来たらこちらの世界に連れて行くことになるだろう。
「将来的に親になるのは良いけど……今、親になるのはなぁ……。せめてあと五年位待って欲しいけど、あの状態のエンド様は絶対に止められない……」
傲慢不遜、世界最強故に自身の望みは叶えられて当然と思っているし、そういう思考になるのは仕方ないが、今になってその欲求を持ったのが謎だった。
「エンド様が自分で格が違うから子など為せないと言っておきながら、あの目からして確実に子供を作れる状態に俺かエンド様の身体が変化しているんだろうな……マジでどうしよう」
嫌なわけではないが、年齢的にも精神的にもまだ準備が整っていないのでせめて色々と成長してからにして欲しいと思っていると――
「主様。始末を付けました」
「…………玄関から来ようよ、天野天利さん。もうベランダに居るから仕方ないけど」
――憑き物が取れたように華やかな笑顔で全身血だらけの学生服を着た天野天利がベランダに立っていた。
その返り血が一般人からは見えないとはいえ、頭からバケツに入った血を被ったような天野天利は華やかな笑顔も相まって相当にホラーだった。
俺はそんな天野天利さんを見ながら、薬壺家を庇護する神が死んで大変じゃないかなぁ……と思いながらも、ベランダから血塗れスプラッター少女を招き入れるのだった。




