始めました終末の竜王のエンド様!
感想、デビュー、評価待ってます。
「何処だここ?」
真っ暗な空間で俺は目を覚ました。寝間着姿のまま起き上がれば、闇の中というよりは虚無の中にいるような無限の空間の中で俺は佇んでいた。手も足も光源のないこの虚無空間でもハッキリと見えて、何度か手を握っては開いて。
「本当に何処だここ?」
寝起きで微睡む頭を抱えながら、俺は光も吸い込む闇の床に再び横になり目を瞑る。
夢か……そうだよな。意識のある夢……明晰夢ってやつか。
人生初の夢の中で夢と自覚した瞬間であるが、俺は感動よりも眠気が勝っていた。これがハリウッド映画のような世界ならば大いに夢を楽しむために駆け出したのかも知れないが、ただの虚無の空間の中ではやる事がないのでそのまま眠ることにしたが――
「誰だ?なぜ人間が虚無の封印の中にいる?」
「ん……ぁ?」
――声がしたので目を開ければ、巨大な赤い月に縦に細長い楕円形の黒いクレーターが遥か上空に浮かんでいた。先ほどまでなかった、虚無の中にポツンと浮かぶ月を見つめる。
「お月様が喋ってる……」
「我は終焉のエンド。終末の竜王であるぞ。次にふざけた言葉を抜かせば貴様を殺す」
言い放った瞬間、全身が凍り付くような寒さと恐怖で魂が震えように身動きが出来なくなっていた。猛獣を目の前にした時のような原初の恐怖。
「ひぃぅ……!!」
俺は短く悲鳴を上げて赤い月を見つめる。まるで声の主が恐怖が俺の身体にじっくりと浸透するのを待つように恐怖を与え続け、極限の恐怖の中で俺は理解する。
あれは月じゃない……目だ。赤い瞳に縦長の瞳孔。百メートルを超える巨大な瞳が俺を見つめている。竜なのか……?
赤い月が目であることを理解した俺は、この異常な空間の中で息づく気配に気付く。それはあまりにも巨大で周囲が包まれていることさえ最初は理解出来なかった。そしてこの虚無の中に潜む何かは俺に語りかける。
「どうやってこの領域に来た?」
まるで心に直接語りかけるように頭の中に響く声に俺は足が竦み腰を抜かしながらも。
「わ、分かりません。気が付いたらここに居ました」
懸命に答えると虚無の中の気配は静かになり、まるで考えを巡らせるかのような沈黙が降りる。俺はとりあえず正座して次の言葉を待っていると、
「嘘ではないな。神々すらも入れない領域に入るなど不可能な筈。どのような奇跡が起こればそのような事態になるかまるで見当が付かないが……どうでも良いか」
「えっ……あれ?」
嘆息ともに気配は完全に消え去り、俺は再び虚無の中で一人になる。俺は周囲を見渡して誰も居ない事を確認して大きく息を吐き。
「なんだったんだ……アレ?竜王とか言ってたが、この明晰夢は悪夢なのか?」
思いだすだけでも身の毛のよだつ恐怖に震えながら、俺は再び地面に横になり目を瞑る。すっかり冴えた意識の中で俺は夢の終わりを願いながら意識を鎮めて行き――
――目を開けば見慣れた天井が視界映っていた。
「夢か……そうだよな、夢だよな」
俺は起き上がり時計を見れば、朝の五時半。いつもより早い起床であるが再び眠る気にもならないのでスマホで鳥の囁きをチェックしながら。
「終焉のエンドって名前がダサいよな……」
そのまんまん過ぎるネーミングセンスに苦笑しながら朝食の時間になるまでスマホを弄り続けるのだった。
★★★
無限の時が流れる虚無の封印の中で囚われた我は、幾星霜の月日の中で初めて他者の気配を察した。
この虚無の封印の中にどうやって入ってきた……もしや、我がここから抜け出る手段を知っているかも知れぬな。
それはとても弱く、封印前の我ならば意識する価値もない生命の反応だった。だが、この終わりのない永遠の中で初めて起こる異変。神々が我を恐れて封印したこの空間を破壊する情報があるならば相手をしてやる価値はある。
「あの位相に何かが居るな……ん?あぁ……我の肉体はもう朽ちたか」
数えるのも馬鹿らしい月日の中で我の肉体はとうに失い。今ではその精神、魂のみの存在になり果てていた。だがそれでも力は失われていない。例え肉体が朽ちても本質は魂にだけ宿るのだから。
そして空間を泳ぐように我の魂は小さな命に引き寄せられて――
「誰だ?なぜ人間が虚無の封印の中にいる?」
「ん……ぁ?」
――この場にもっとも相応しくない人間が地面に横になっていた。
「お月様が喋ってる……」
どうやらこの人間は霊体である我を認識出来る力はあるようだが、竜王である我の前でその態度は不敬であったので、少し魂を擦ってやることにした。
「我は終焉のエンド。終末の竜王であるぞ。次にふざけた言葉を抜かせば貴様を殺す」
「ひぃぅ……!!」
僅かな吐息。小さく加減した魂の息吹だけで人間は恐怖で固まり腰を抜かす。ここまで来ればほとんどの生物は我に従うしかない。我はこの領域に来たのか尋ねるが答えは要領を得ず、人間自身もここに来た理由すら理解してないようなので途端に興味が失せ。
つまらぬな……幾星霜の月日を重ねても、何の情報も手段も手に入らぬか。
そのまま我の足で潰す価値すらない人間を捨て置いて、元の位相に戻り再び悠久の眠りの中に入る。そして幾ばくかの間に人間の気配は消え失せたので再び目覚め。
「あの人間はどうやってこの虚無の封印から逃れたのだ……」
僅かな後悔と憤懣に苛まれながらも、いつか来る解放の時を待ち再び眠ろうとして。
「………………………………もう少しだけ会話をすれば――」
――終末の竜王、エンドに"孤独"という猛毒がゆっくりと魂に巡り始めるのだった。