#1111。
短いです(断言)。
夜遅くにふいに思い立って書き始めたので当日には間に合いませんでした、ポッキーの日。
暇潰しにどうぞ( ´-`)
「今日ってー」
パコッ。
「痛いっ」
学校、放課後に教室を出てくるのを待っていた真島に声をかけただけなのにナゼか何かで軽くはたかれた。
「あげる」
「痛いなあ、なんなのようーーー」
ふん、と渡されたのはどこにでもあるポッキーの箱。
開封されて、中からチョコレートコーティングのポッキーが見える。
くれる、と言ってもチョコレートコーティングのやつは好きじゃないんだよね・・・せっかく貰ったけど。
「帰ろ」
学生バックの持ち手を逆手に持って肩に掛けながら言う。
教室の中か少し騒がしい、放課後なのに。
「どうしたの、あれ。いつもより人多くない?」
女子校なので女子しか居ないから人が集まるとかましい、私は少しあの雰囲気が苦手なのだけれど。
「・・・さあ、知らない」
真島の隣を歩きながら手に持ったポッキーの箱をどうするか迷う。
食べないのに持っているのもだし、返すのもだし・・・
「食べないの?」
「うーん、あまり好きなやつじゃない」
正直に言った。
そう言うと真島は少し驚いた顔をする、まさか好きじゃないとは思わなかったらしい。
「チョコだし、それを嫌いな人がいるとは・・・」
「まあ、普通はね。私のは昔食べ過ぎて苦手になっちゃったってやつ」
はい、と真島の手に返却。
「返されても、かおり・・・」
「開封済みのお菓子をくれてもーじゃない」
言い返す、そもそも未開封をくれるものじゃない?
直前まで食べながら気軽に話をしていたのならまだしも。
「食べると思ったし、お腹空いていると思ったからだよ」
と、返したポッキーの箱から1本取り出してポリっと食べた。
食べるんかいっ!? つっこみそうになる。
廊下から階段を降りる、放課後は部活動に精を出す生徒が多いのであまり見あたらない。
かくいう自分は帰宅部だ、運動が苦手だし文化的な活動もしない。
真島の方は運動神経がいいので入学してすぐに各運動部に誘われていたけれど結局どこにも入らなかった。
今でも時々、誘われているみたい。
「ダイエット中だもん」
「・・・・・・」
立ち止まって全身くまなく私を一瞥する真島。
失礼だな(苦笑)
「太ってないのに?」
社交辞令はいらない。
「太ったよ、ちょっとだけど」
「どこが。それで太っているって言ったらみんなダイエットしなきゃいけないと思うけど」
真島は運動もしてないのに痩せている。
ついでに付け加えると、遠く外国の血が混ざっているらしく瞳が薄いブラウンで茶色短髪、ちょっと見た目は背の高いボーイッシュな女子高生だ。
なので、ここ女子校ではモテる。
「気持ちの問題なの、極端なダイエットはしてないから安心して」
さすがにね、そこまではーーー
ガタン。
靴箱を開け、靴を取り出す。
バサバサバサ
バサバサバサ?
変な音がするなと思って真島の下駄箱の方を見ると下駄箱から落ちた何かを見下ろしていた。
「何の音? 大丈夫?」
「・・・別に、何でもない」
「そ。」
拾う姿を見届け、上履きを入れると取り出した靴を履く。
お腹は空いたけどポッキーじゃなく、帰りはたこ焼きを食べたい。
あのソースの香りを想像するだけで涎が出そうになる。
少し待って真島が合流した、手には拾ったものを持っていた。
「なるほど、その音だったの」
納得がいった。
人気者の真島は嫌がらせをされるわけもなく、下駄箱に入っているのはラブレターかプレゼント。
私は一度もないけどね、ごく普通の女子生徒だし(笑)。
「貰っても処分に困る」
とはいえ、ゴミ箱には捨てないのは好感が持てる。
家に帰ったらどうか分からないけれど。
返事を書いているとは聞いたことはないな。
「いいじゃない、青春の思い出、思い出」
バンバンと私は真島の肩を叩く。
「いらないよ、面倒くさい」
ぐしゃっとバックの中に押し込む。
「あ、ちょっと!読むんでしょ、それ」
「読まない、うちに帰ったらシュレッダーにかける」
また、ポリっ。
お腹が空いているのか真島は。
「真島、ひどいーーー」
「ひどいって、しょうがないじゃない興味がないんだから」
心外だという表情をする。
まあ、確かに知らない子からラブレターを貰ってもねえ・・・
真島には性格上、それを楽しむという考え方がないのだし。
私だったら可愛い子からなら返事を書いちゃうけどな。
ポリポリポリ。
学校を出て商店街まで歩く道すがら、食べきるつもりだろうか。
「たこ焼き、たこ焼き♪」
心はうきうきスキップしたいくらい。
魅惑の寄り道、買い食い。
校則では禁止されていないのでまったく問題はない。
「これも美味しいんだけど」
「それは真島のものじゃない、私はいらない」
「これのカロリーとたこ焼きのカロリー、どっちが高いと思う?」
「言うな、みなまで言うな」
私は手を真島の前に突きだして拒否する。
分かっているのよ、私だって粉物たこ焼きのカロリーの高さは。
でも、あの誘惑にはあらがえない。
一度、食べたいと思ったら食べないと夜寝れなくなる。
食べた過ぎて。
「そっちの方が太るよ」
ポリっ。
「うるさいなあ、ポッキー、ポッキーってなんなのよ・・・んぐっ」
口の中にポッキーが一本押し込められた。
ポリっ、おっとーーー
くわえて途中から折れてしまったので手で受け止める。
「美味しいでしょ?」
「好きじゃないって言ったのに」
「嫌いとは言わなかったし、かおり」
再び歩き出す。
「まあ」
「今日のたこ焼き、つきあうから私にもつきあってよ」
いつもの寄り道買い食いコースだけど今日はちょっと違うみたい。
「なにに?」
しばらく歩いて行くと公園が現れて、真島はこっちと指を指す。
公園に寄り道する気らしい、何の用だろうかと思いつつ付いてゆく。
茂みの近くにぽつんと木の長イスがあったのでそこに座らせられる。
本当になにをさせられるのか・・・不安しかない。
「これ、やってみたかんたんだよね」
「これ?」
真島は最後の1本らしきポッキーを持つ。
「ほんとはさ、学校の誰も居ないところでやりたかったけどかおりは全然そんな雰囲気じゃないし。ポッキーも食べないって言うし」
「はぁ? よく分からないんだけど」
真島が姿勢を正して私の方を向いた。
なにを・・・と思ったら。
「・・・えっと・・・これは?」
戸惑う。
実際に見ると恥ずかしい、やるのも絶対に恥ずかしい。
向かい合っている真島の口にはポッキー、半分以上は外に出ている。
「知ってるでしょ?」
「・・・知っているけど、なんで真島としなきゃならないのよ!」
思いっきり拒否反応。
嫌、じゃなくて照れの拒否。
ただの遊びでもそれは拒否したくなる。
「私はかおりとしたいのに」
「私は嫌」
「なんで? 私のことが嫌いなの?」
「嫌いな訳ないじゃない、こういうふざけたことをするのが苦手なの」
見ているだけならいい、可愛いなあー微笑ましいなあーと。
当事者になるのは恥ずかしい。
「今月の私の誕生日のプレゼントはいらないから、”これ”して欲しい」
誕生日のプレゼント<ポッキーゲームか。
今まで全然こんなことなかったのになぜに今?(苦笑)
「去年、こんなことなかったでしょうに何で今年は?」
「去年もしたかったけど、かおりにそんな隙は無かったしバカにしていたし・・・」
と、しょんぼりと言う。
なかなかそんな真島の姿は拝めないので貴重だ。
「友達同士のじゃれ合い以外だったら、バカップルのすることじゃないの。恥ずかしすぎて嫌なの」
「かおりー」
だから、そんな顔するなっーの。
ワンコが怒られてすがりつくような顔は。
もうーーーしょうがないなあ・・・
頭をかく。
首を振って周囲を見た。
よし、誰もいない。
「・・・分かった、やってあげる」
まさか自分がこんなことをするはめになろうとは。
「ほんとに?」
「もう、一回こっきりだからね」
「ん!」
ぱあっと表情が明るくなる、ゲンキンな奴ーーー
さっそく、とポッキーをくわえて付きだしてくる。
やってあげると言ったけれどやっぱり照れてしまう。
ほらほら、と催促してくるし真島の奴は。
一瞬だけだし!ポッキーがなくなるなんですぐだし!
鼓舞する(笑)
笑いどころじゃないよ? 本人にしたら切実なんだから。
さすがに至近距離で顔が整っている真島をじっと見ながらは無理。
普段は気さくに話しているけどよく見れば美形だし・・・なのでポッキーの反対側をくわえたら目をつぶった。
でも、それがいけなかった。
うん、油断した。
まさかポッキーを食べきってそのままキスをしてるとはーーー
しかも、両手を押さえられてのディープなやつ。
ちょっと、私ファーストキスなんですけど!(悲鳴)
直後は、逃げられなくてもがいたけど臑を蹴ってやったら私を離した。
「痛いなあ・・・」
蹴られた臑をさすりながら真島は言う。
痛がりながらにやけているのがムカつく。
「ふざけるなーーーーーぁ!!」
ボンッ
バックをぶつけた、思いっきり。
「痛っ、痛いって」
ボンッ
「ごめん!悪かった、ごめん」
誰もいない夕暮れの公園のベンチで女子高校生が2人、なにやっているんだか・・・
私の怒りは収まらない。
唇が軽く触れるくらいだったらこんなに怒らなかったと思う。
遊びだ、と割り切れるから。
でも、あんなにがっつりキスされたらーーー
「もう・・・信じられないーー」
じんわりと涙腺緩んできた、湧いてくるのは悔しさ。
にじんできた涙を私は手の甲で拭う。
「・・・ごめん、かおり」
真島の態度が変わる、やっと分かったらしい。
自分のしたことの結果が。
「ごめん」
「帰る」
バックを持って立ち上がった。
「かおり」
立ち上がった私の腕を真島が掴む、ずいぶんと強く。
その強さに私は見ないつもりだった彼女を見た。
「待って、私の話を聞いて」
「なにを? いいわけを?」
いつもより真剣な表情に後ずさってしまう。
「ごめん、あんなキスをしてしまったのは謝る」
「最初からそのつもりだったんでしょう?」
ポッキーはカモフラージュ。
「違うよ、最初は本当に単純にポッキーだけ食べるだけだった。でも・・・そのまましたくなっちゃってあのままーーー」
で、あのディープキス?
さすがにそれには引く、女子高生のするキスじゃなくない?
まあ、私は初めてのキスだからそれがそうかどうか分からないけれど。
流れている血がなせる技なのか・・・
「私、初めてだったんだからね」
「えっ」
そんなに驚かなくてもいいじゃない。
昨今、小学生でも経験済みなのは知ってるけど機会がなかったのよ。
「再びの・・・ごめん」
と、謝りながらも離してはくれない。
「ーーー責任は取ってくれるの?」
「えっ」
言ってみる、真島がどう考えているのか。
責任と言ったって口実、ただ本当にキスをしたかっただけなのかどうか。
なのに真島はまじめな顔で私に答える。
「私は何とも思っていない子にキスなんてしない、あのラブレターだって読まないのはかおりが居るから・・・」
ポッキーから思わぬことに発展してしまった。
居心地良かった私と真島の関係が変わってしまうかもしれない。
そっちの方が怖かった。
「私は、かおりのことが好きだよ」
目をつぶる。
聞きたくなかったような、聞きたかったようなーーー
多分、意識的に避けていたのだと思う。
普段が楽しかったから、真島の態度から気づいていても逸らしてしまっていた。
「かおりは? 私のことが嫌い? 私にキスされて嫌だった?」
聞いてくる。
ーーーバカね、嫌いなわけないじゃない。
そう言ってやろうと思ったらグウウウウとお腹が鳴った。
何というタイミングで・・・(苦笑)
まじめに言おうと思っていた私は笑ってしまう。
なごませてどうすんのよ、私。
真島はというと、どう反応していいのか分からずに狼狽している。
「たこ焼きは真島のおごりね」
「かおり・・・」
「ああ、もう!たこ焼きだけじゃ怒りが収まらないわ、今川焼きもよ?」
私が言うとやっと真島はいつもの表情に戻った。
小さく笑って『分かった、何でもおごる』と言う。
腕を掴んでいた手が離れたので私はその手を取る。
「かおり?」
「私も好きよ、真島のこと」
言ってしまった、とうとう。
まあ、真面目な雰囲気の中言うより私には言いやすい。
これでひょんなことから両思いなことがはっきりと分かってしまったし、これは付き合う流れよね。
「良かった」
「でも、いきなり最初からあんなキスは止めてよね。私、びっくりしたんだから」
手をつないで2人で歩く、再び商店街に向けて。
「うっ・・・ついーーー今度は普通のキスにする」
でも、アレは相当慣れていたような気がする・・・キス未経験の私でも分かるくらいに。
不意に一瞬、そんな疑念がよぎったけれどまあ、たこ焼きと今川焼きのおごりに免じて忘れることにしよう。
ポッキーが縁結びになるとは····
私は心の中で苦笑したのだった。