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【異世界転移】をやってみた《1》  作者: とり
 第9話 ラスト・ダンジョン
92/92

s2.【異世界転移】をやったのに


 ※注意ちゅういです。


 ・このものがたりは『【異世界いせかい転移てんい】をやってみた』の、【第5話】『42.ヒーロー』のはなしです。コメディです。

 ・長編ちょうへん内容ないようのふんいきや、キャラクターのイメージをくずす可能性かのうせいがあります。

 ・以上いじょうの点に抵抗ていこうのあるかたは、まないことをおすすめします。また、もし読んでくださる場合ばあいでも、ご不快になられた時にはすぐに閲覧えつらんをやめることをおすすめします。




 これは、ユノが【コルタ】の(まち)を出てしばらく(のち)――ひとりで旅をしていたころのはなしである。



   〇



 みどり高原(こうげん)にユノはころんでいた。

 革のよろいをつけた、黒髪(くろかみ)黒目くろめ十六じゅうろく才の少年(しょうねん)である。


 わきにころがっているのは最近購入(こうにゅう)した鉄の大剣(おおけん)

 そのかたわらには、かお上半分うえはんぶんを隠す作りになった、バイザーつきのかぶとがある。


 一本いっぽん広葉樹(こうようじゅ)――秋口(あきぐち)に差しかかってもなおあおい、すずやかな樹木じゅもくの下でユノはぼんやり空を見上みあげる。

 【王国歴(おうこくれき) 四二〇(ねん)】、【二土用(にどよう)(つき)】という、なつからあきへの橋渡(はしわた)しとなる雨期をえて、空は()が広がっている。

 白くてうすいちぎれ雲が、飾りぬののように、青い空に掛かっている。


(ひまだなあ)


 胸中(きょうちゅう)でユノはうめいた。

 ためしにんでみる。


「おーい、セレンさーん」

「どうしました、ユノさま」


 空間が()けて、ひとりのおんなが出てくる。

 みどりの長髪(ちょうはつ)ながみみ白皙(はくせき)の身体に萌黄(もえぎ)のドレスをまとい、片手に(つえ)をたずさえた妖精(ようせい)若長(わかおさ)。セレンである。


「なんでこーゆーどーでもいい時はすぐに出てくるんですか」

「どーでもよくない時はユノさまのぶタイミングがわるいんです。ひとがトイレ行ってる時とかに声をかけてくるんですもの」


 ちっ、とユノは舌打(したう)ちした。


「それより、いかがされました。なにかこまったことでも?」

「ううん、ひまだからなんかおはなしでもしたいなって(おも)って」

「でも私はひまじゃないんですよ。ちっちゃい子のおむつ換えたりとか」


 くるりと(きびす)を返してセレンは空間の(あな)にもどる。


って待って」

 きてユノは彼女かのじょのスカートを引っぱった。

「じゃあセレンさん、ちょっとだけボクのはなし聞いてよ。文句があるんです」

「……ちょっとだけですよ」

 むねのまえに両腕(りょううで)を組んで、セレンはユノをあごでうながした。

「で、文句とは?」


 草の上にユノは()()()をかいた。

 両腕りょううでを広げ、とおくでお昼寝ひるねをする魔物(まもの)や、(へい)に囲まれた都市をのぞむ大高原(だいこうげん)をぐるーっとしめす。


「ここってなーんか、異世界っぽくないなって(おも)って」

「それは残念ざんねんでしたね。じゃあ私はこのへんで」

はやく帰りたいからっていいかげんな返事しないでくださいよ」


 必死にユノはセレンの腰帯(こしおび)に取りすがった。

 (した)うちしつつ、セレンは振りかえる。めんどっくさそーに。


「じゃあユノさまの言う異世界ってどんなんなんですか?」

「そりゃーファンタジーって感じの」

「いちおう言っておきますけど私はバッチリ妖精(ようせい)ですし、こうえて何百年(なんびゃくねん)も生きている不老(ふろう)長寿(ちょうじゅ)です。でもってこの世界には【魔法(まほう)】やその類似品(るいじひん)たる【気術(きじゅつ)】なんてスキルもある。モンスターもその辺に腐るほどいるし……これ以上いじょうどんなロマンをもとめるんですか?」

「自分のステータス()てみたい」


 正座(せいざ)をしてユノはわがままを言った。


「ステータスっていうのは、ボクのつよさ……【ちから】とか【スピード】とか、そういうのを数値化(すうちか)した一覧表(いちらんひょう)みたいなものなんですけど。この世界って【レベル】って概念(がいねん)はあるし、戦いの経験(けいけん)によってレベルを鍛えることもできるけど、その強さの(うち)わけをることはできないじゃないですか」

「確かに……それは不便かとはおもいますが……」


 自分のこめかみをセレンはゆびさえた。頭痛(ずつう)をこらえる。


「わかりました。ユノさま、こうやって手をかかげて『ステータス・オープン』って言ってみてください」

「やったあ!!」


 ユノは飛びあがった。

 大高原だいこうげん仁王立(におうだ)ちして、空に手をおおきく突きだす。


「ステータス・オープン!!」


 ――。

 ……。


「……?」


 ゆっくりユノは手をろした。

 きょろきょろ。あたりを()まわす。


 どこにも(ひょう)らしきものはい。


「あのー、なんにもおこらないんですけど」

「そりゃそんなシステムはありませんからね」

(くそったれがよお)


 おもったけどユノは言わなかった。

 表情(ひょうじょう)には出ていたが。


「すみません、まさか本当ほんとうにやるとは(おも)わなかったので」

 ちょっとヒイてつぶやくセレンに、ユノはガクーッとうなだれた。


「ほかには? なにかありますか?」

 手もちぶさたにセレンは(つえ)を突く。

「はい、はーい!」

 ユノはしょうこりもなく手をあげた。


「えっとねー、ボク特許(とっきょ)とってお金持かねもちになりたい」

「では必要ひつよう書類(しょるい)をそろえて特許庁(とっきょちょう)に行ってください」

もふたもないんだよなあ……)


 憎々(にくにく)しげにユノは歯噛(はが)みする。

 地面じめんにおしりをつき、ゲートルをつけた(あし)げだす。


「じゃあ、せめてボクがおんなにモテるようにしてくださいよ。できるでしょう? 魔法まほうとか使って」

「しれっと一般人(いっぱんじん)への洗脳(せんのう)をそそのかすユノさまの神経に正直しょうじきおぞましさを(きん)じえないのですが……」


 半眼(はんがん)けつつ、セレンは()(つえ)を振ってのまえにひとつのアイテムをびだした。

 それをユノにげてよこす。


「これは? コンパクト?」


 両手(りょうて)で受けたおおきな二枚貝(にまいがい)みたいな形をあけ、かがみをのぞきこんでユノはつぶやく。


「なんの意味(いみ)が……あっ!」


 そうです。とばかりにセレンがうなずく。


「そうか! このアイテムに呪文(じゅもん)となえれば、、ボクは今日きょうからおんなの子にキャーキャー言われるモテモテくんに大変身ってわけですね! じゃあさっそく!! 手熊々屋(てくまくまや)――」

「いいえ自分のかお()てからもの言えやっていう意味(いみ)です」


 そおーいっ。

 呪文(じゅもん)中断ちゅうだんしてユノはちからの限りコンパクトを空にてた。


 草の地面じめん(こし)をおろし、三角すわりする。

 ひざを抱えてかおをうずめ、しくしく()きだす。


「……じゃあ、ボクはいったいなんのためにこの世界に来たって言うんですか」

魔王(まおう)たおしていただくためですが」


 普通にセレンはうめいた。

 ユノは溜め息をつく。


「はあ……ボクがおいしい(おも)いをできないこんな世界なんてほろびてしまえばいいんだ」

「めいわくクレーマーみたいなこと言わないでください」


 自分のあたまをセレンは抱えた。


「それではユノさま、私はそろそろ行きますね」

「えー、セレンさんもう(かえ)っちゃうんですか?」

「もうすぐおひるごはんなので」


 空間の(あし)をつっこんで、セレンは()っていった。

 みどり(はら)に、ユノはひとりになる。


「あ、手料理(てりょうり)を振るまって色んな人から賞賛(しょうさん)されたいって言うのわすれてた」

「でもユノさまていどの料理(りょうり)が手ばなしに絶賛(ぜっさん)されるほどここは貧相な食事情(しょくじじょう)してませんし」

 にゅうっ。

 と()じたはずの空間からかおを出して、セレン。


「わざわざ戻ってきてまでひやかさないでよ!」


 ユノは(つち)をつかんで妖精(ようせい)げつけた。

 今度こそ、セレンはすがたを消した。

 またひとりになった(おか)の上で、なんとなくユノは(そら)見上みあげて、


「……ちょっとくらい、カッコつけさせてくれてもいいのになあ……」


 誰にともなくぼやいた。






                        〈おわり〉





 んでいただいて、ありがとうございました。




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