9.スミス
・前回のあらすじです。
『ユノがカルブリヌスを使うのを怖がる』
・・・・・・
日当たりの悪い細道に職人街はあった。
煉瓦造りの家並みにはさまれて、一軒だけ、木造の家屋がある。
『スミス・ドヴェルグ』。
そんな看板のかかった武具店に、ユノとセレンは入っていった。
「いらっしゃい」
低い挨拶が鳴った。
白髪の伸びた老人が、カウンターに座っている。背は低い。
ユノはペコリと老店主に頭を下げた。
皮をなめしてつくった防具が、店のスタンドに展示されている。
壁には剣や槍が掛かっていた。
セレンが武器をながめる。
取って、ユノに渡す。
「初心者向け……かどうかは分かりませんが、オーソドックスなのはブロード・ソードですね」
「おっ、も……」
――がくんっ。
ユノは上体を落とした。
刃の部分が床につく。
城で引いたき抜いた剣は、羽のように軽かったのに。
「お兄さん、新人の冒険者?」
カウンターで、老店主が目をすぼめる。
「アールヴをお伴にするってなあ……あんた、よっぽど仲間にめぐまれてないんだなぁ」
「ご心配なく。ここでの用事をすませたら、私は郷へ帰るので」
「えっ!? ついて来てくれないんですかっ?」
ユノはセレンに取りすがった。
「仕事がありますので。面倒を看るのはここまでです」
「お兄さん」
店主が立ちあがる。
座っていた時よりも、背は小さくなっていた。
「妖精ってのは基本、人間嫌いなのさ」
男は鉱山の妖精――〈ドワーフ〉だった。
剣立ての壺から、ドワーフの男は短めのものを、一振り出す。それはセール中の商品だった。
「このへんの魔物相手なら、こいつで充分だな」
ブロード・ソードよりも刀身のみじかい武器――ショート・ソードと呼ばれる剣である。
ドワーフは、それをユノに渡した。
おそるおそる、ユノは両手で剣の柄を握り締める。
「あ、これなら……扱えそうかな」
「それじゃあ、お買いあげということで」
無骨な手が上を向く。
セレンがユノに、巾着袋を寄越す。
「陛下より今朝たまわった資金です。あなたの衣装も、これで購入しました」
(ちゃっかりしてるなあ……)
ユノはお金を受け取った。
銀貨と銅貨が、袋にはたっぷりと入っていた。
「ボクは王様に会いに行かなくてもよかったんですか?」
「声はかけたのですが、うなされていましたので。こちらで勝手に、済ませておきました」
ユノは苦笑いをした。
ドワーフに代金を払う。
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