86.あるべきところ
・前回のあらすじです。
『ユノが魔王をたおす』
「終わりましたね」
女の声がした。
ユノは振り向く。
緑の長髪に長い耳。萌黄のドレスをまとった、新緑の季節をしのばせる装いの、妖精の美しき長。
魔王のいなくなった謁見の間に、彼女――セレンは立っていた。
「正直、最初は不安でした。まともに魔物と打ち合えるのかと」
「……でも、ボクが死んだところで、セレンさんは困らないんでしょう?」
「ええ」
セレンは笑った。替えはいくらでも利くと。
彼女は魔王の残骸のあった場所を見た。
【魔石】は無い。
ぽっかりと、虚無のように、どこかへつづくひずみができている。
「まあ、あなたにとって本意ではない結果となってしまうのは心苦しいですが」
「取り繕わなくてもいいです」
ユノはエクスカリバーに視線をやった。
剣は、生まれたての無垢なるもののようにあたたかく、希望に満ちていた。
「それにボク、この世界の人たちは、セレンさんの言うようにはいかないって思ってますから。なんだかんだで、これからも逞しく生きていけるんじゃないかな……」
セレンはムッとしたようだった。柳眉の端がピクとはねる。
「なぜそう思います」
「そうあって欲しいから」
ユノは笑った。
輝く剣をどうしようか迷った末、セレンに差し出す。
セレンは受け取った。
霊樹の杖を振るう。
のぞいた空間に、どこへともなくエクスカリバーを送る。
「それ、どこに収納されるんですか?」
「あるべき所へ」
セレンは言った。
緑の眼をユノに向ける。
「で、どうします、ユノ様」
「どうって?」
「お帰りになられますか?」
――戦いに麻痺していた感覚が、ユノの全身にもどってきた。
右の、噛みちぎられた部位が痛い。
出血に頭がくらくらする。
「帰るのであれば、あなたの本当の名前をお返しします。それで元の世界にもどれます。ここで体験した記憶も、負ったケガも、全部なかったことになるでしょう。……まあ、あなたが死ぬ前の時間にもどされる、と考えていただければよいかと」
「じゃあ、ここで起こったことは? 魔王は倒されなかったことになるんですか?」
セレンは首を横に振った。
「あくまで、あなたが『蘇生する状態』について、の話です。こちらであったことは、相変わらず、連続したものとして在りつづけます」
「てゆーか、ボク、死んだことになってたんですね……現実では」
セレンは頷いた。
「なお、もどれば二度とこの世界に来ることは叶いません」
――もう一度彼女は質問した。
「どうします? お帰りになられますか。残るとすれば、今度は逆に、もとの世界には帰れなくなりますが」
ユノは考えた。
血の不足した頭を懸命にひねる。
選択する。
※最終回は、ふたつのパターンを投稿します。
・『パターン:a』→ユノが、異世界に残る選択をする。
・『パターン:b』→ユノが、もとの世界にもどる選択をする。
(投稿する順番は、『パターン:b』が先になります)