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【異世界転移】をやってみた《1》  作者: とり
 第9話 ラスト・ダンジョン
87/92

85.勇者



 ・前回のあらすじです。

『カルブリヌスが石化せきかし、ユノの腕が、りゅうわれる』




 ユノは()いた。右半身みぎはんしんかるくなる。


 ()の腕から(した)がない。

 肉の(すじ)と、唾液(だえき)のまじった血が、(せん)となって空中くうちゅうれる。


 ヘビに(にら)まれたかえる


 硬直(こうちょく)するユノを、ディアボロスはあたまから(まる)のみにした。

 ながい首を上向うえむけて、ゴクリと嚥下(えんげ)する。


 〇


 脈動(みゃくどう)おとがする。

 あつく、せまく、湿度(しつど)が高い。


 外観(がいかん)――巨竜(きょりゅう)というおおきさに見合みあわない、窮屈(きゅうくつ)な器官だった。それが胃なのか(ちょう)なのか。(へび)という生態(せいたい)に詳しくないユノは知らない。


 しゅうしゅう。

 かお(よろい)を溶かしているのは消化液(しょうかえき)


 窒息(ちっそく)か。

 溶解(ようかい)か。

 どちらがはやいかはわからないが、このまま留まっていれば、やがてちから尽きてりゅう養分(ようぶん)になるだろう。


 ――チカッ。


 薄暗うすぐら(うろ)おくで、なにかが(するど)く光る。

 狭隘(きょうあい)消化(しょうか)器官(きかん)を、おそらくは(くだ)りの方角ほうがくにユノは這って進んだ。


 石の(けん)がある。

 それを掴んだまま(かた)まった、自分の(うで)


 光はそこにあった。


 (つか)をギュッと握りしめる、五本ごほん(ゆび)のちょうどまん(なか)

 精霊(せいれい)のちからを()びた、小さな宝石(ほうせき)をつけた指輪ゆびわ


 ――むだ使(づか)いすんじゃないわよ。


 銀色(ぎんいろ)(かみ)の少女の忠告ちゅうこく脳裏(のうり)をよぎる。

 ユノのくちもとが一瞬(いっしゅん)ほころぶ。


 彼は()った。

 左手で、りゅう内壁(ないへき)して。


 自分の右手みぎてを取る。


 いのりをささげる。


 〇


 魔界(まかい)まち【ソド】は騒然(そうぜん)としていた。


『なんだあれ』

『だれの魔法(まほう)だ?』

『いや、て、あれは……』


 (がけ)住居じゅうきょから飛びだして、トカゲやさる悪魔あくまみたいな形をもった異形(いぎょう)生物(せいぶつ)たちが、やまのほうをあおぎる。


 魔王城(まおうじょう)のある(けわ)しい山。魔界で最も天に近く、稜線(りょうせん)鋭利(えいり)俊峰(しゅんぽう)に、一本(いっぽん)の光のはしら()っている。


 若年(じゃくねん)のモンスターは、暗い空からそそぐソレを見て首をかしげた。

 知識ふかい年配者(ねんぱいしゃ)は、かおおおって、(なげ)いた。


 〇


 光のはしら(りゅう)はら(つらぬ)いていた。


 ディアボロスはおもくうめく。

 ()をねじり、柱の中心ちゅうしん()まれる一振(ひとふ)りの存在に()づく。


『まさか……』


 まばゆい輝きのなかで、ユノが剣を掴んだ。


 神剣(しんけん)エクスカリバー。


 死した(つるぎ)、カルブリヌスが、精霊(せいれい)加護(かご)を受け、強靭(きょうじん)な刃へと()なおされたすがた。


 ユノは剣を一閃(いっせん)する。

 竜の胴が()け、隙間すきまからおう()に出る。


 ディアボロスが、彼の(あたま)を潰さんときばける。


『させるものかあああ……ッ!!』


 剣がひるがえった。

 おそろしくかるく。


 魔王(まおう)――ディアボロスの首を()つ。


 地面じめんれた。


 竜のあたま(ゆか)(ころ)がる。


『なぜ……』


 ながいヒゲが、最後の抵抗のようにれた。

 血を()いたかお口惜(くちお)しげにゆがむ。


『……妖精(ようせい)から聞かなかったのか。この世界の末路(まつろ)を。人間どものたどる未来(みらい)を』


()いたよ。魔王まおうがいなくなれば、やがて人は(ほろ)びるって」

 かすれた声でユノは答えた。


『ならばなぜ……こんなことをしたところで――』


「あなたが、言ったとおりなんだよ……ディアボロス」


 魔王は不可解(ふかかい)そうに眉間みけん(しわ)をよせた。


よわいくせに、いきなりすごいちからを手に入れて……()いあがって、自分だったらわるいヤツからたくさんの人をすくえるって自惚(うぬぼ)れてる、傲慢(ごうまん)人種(じんしゅ)――」


 ユノは微笑(ほほえ)んだ。

 ディアボロスがくずれていく。


「――ボクは『勇者(ゆうしゃ)』だ」


 りゅう(かお)はい()る。

 巨大きょだい胴体(どうたい)が、あと()うようにチリと()す。


 あお()()らす広間ひろまに、黒い灰燼(かいじん)が積もる。

 (かぜ)が吹いて、ディアボロスの残骸(ざんがい)をさらっていく。


 風は冷たかった。

 (ふえ)のようなおと(ともな)っていた。


 それは魔王まおう慟哭(どうこく)だとユノは思った。


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