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【異世界転移】をやってみた《1》  作者: とり
 第9話 ラスト・ダンジョン
85/92

83.かばん


 ・前回のあらすじです。

『ユノがディアボロスの一撃いちげきに吹っ飛ばされる』



 ぴく。


 指先ゆびさきが動く。

 瓦礫の(やま)がくずれる。


 神経(しんけい)麻痺まひした体にむち打って、ユノは(かた)に引っかけたかばんをまさぐった。


 回復(かいふく)よう(くすり)――あるいは、魔石(ジェム)もとめる。

 ザリッ……。


(……っ!)


 すな感触(かんしょく)つめたる。

 鞄に溜まった粒子(りゅうし)を、ちからの入らない手でひきずり出す。


(どうして……)


 あかあおの粒が、血によごれたゆび隙間すきまをこぼれちる。

 それはもはや、使いようのない、ジェムの()てたすがただった。


 ところどころにじっている(あや)うい閃きは、硝子がらす(びん)の割れたもの。

 ながれた()(ぐすり)れて、ちがいにも(はな)やかに、美しく輝く。


(――あ!)


 ユノはおもい出した。

 (りゅう)が、戦いのはじめに()えた瞬間しゅんかんを。


(あれは、牽制(けんせい)のためのものじゃなかった……。ボクの持っているアイテムを、(こわ)すのが目的だったんだ!)


 ドロリと(ひたい)から垂れる血をぬぐう。


 風がユノの黒いかみでた。

 りゅう()ぶ。

 胴長(どうなが)巨躯(きょく)に比して、飾りのように小さなつばさが、空圧くうあつ()む。


あそばれている)


 黒い竜――ディアボロスのおおきな金の(まなこ)とカチった。

 石化(せきか)の毒はやって来ない。


 ながい首が、グワとユノ目掛めがけてびる。


 ユノは体をよこたおした。

 かばんをかなぐりて、()うようにはしりだす。

 竜がいかける。

 巨大(きょだい)あぎとが、ばくばく二階(にかい)ゆかを噛み潰す。

 ――ユノの足場に亀裂(きれつ)が伸びる。


 最後の()みつきを、ユノは高く飛んでかわした。

 をひねって、竜の頭部(とうぶ)ちる。


 (つの)つの隙間すきまにはさまったのは僥倖(ぎょうこう)

 右手みぎてに掴んでいた(つるぎ)を振りぬく。

 竜の脳天(のうてん)()つ。


 ギィン!


 ()するどおとをたて切っ先を欠いた。


 魔王(まおう)ディアボロスが首をもたげる。


 バランスをくずし、ユノは(けわ)しい()ビレの(そば)をすべりちる。


「このおっ!」


 空中(くうちゅう)をまろびながら、ユノは二度(にど)、三度、オリハルコンの(けん)を振るった。


 カンっ。カあン!


 (うろこ)表皮(ひょうひ)がむなしい感触かんしょくを返す。選定の剣(カルブリヌス)が、切れあじを落としていく。


(どうすればっ!)


 ユノは広間(ひろま)ゆかり立った。


 頭上(ずじょう)からりゅう(かお)せまる。獲物(えもの)まるのみにせんと、ランランと双眸(そうぼう)を光らせて。


(そうだ!)


 ユノは背中せなか武器(ぶき)を引きぬいた。自分の身長しんちょうほどもある、両手持ち(ツヴァイハンダー)(かん)する大剣(おおけん)


 リーチにものを言わせた刀身(とうしん)を、()りせまるりゅう顔面(がんめん)に突き出す。


『グオおおおおおお!!!』


 (てつ)を鍛えた(やいば)が金の()(つらぬ)いた。

 左の眼球(がんきゅう)から、なみだとも血ともつかない(にご)った液体がながれる。


 ――ディアボロスが頭部を振りまわす。


(いける!)


 両手りょうてでユノはカルブリヌスを握りしめた。

 大剣おおけんあばれる竜にさらわれて、空中くうちゅうをさまよっている。


両目りょうめを潰してしまえば――)


 光明(こうみょう)に心臓の鼓動(こどう)はやくなる。

 その興奮(こうふん)は、ゆっくりと下がっていった。


 天井てんじょうから――竜が暴走(ぼうそう)し、飛んだところから――閃光(せんこう)()る。


 ガしゃあッ!

 閃きは、武骨(ぶこつ)悲鳴ひめいをあげて、黒曜石(こくようせき)(ゆか)墜落(ついらく)した。


 しゅうしゅうと、墨色(すみいろ)けむりがあがっている。


 (くろ)ずんだ液体にぬれた、ながやいば両手用(りょうてよう)(グリップ)


 ユノがさっき手放てばなした、ツヴァイハンダーだ。


 精魂(せいこん)つきてたように、それはユノの足元あしもと(いし)になった。

 すなへと()ちる。


『ぐっ……。いまのは効いたぞ』


 潰れた片目(かため)――ディアボロスの左目ひだりめからは、白煙(はくえん)があがっていた。


『私もすこし、()()()()ぎたようだ……』


 けむりが途絶え、りゅうの首が持ち()がる。


 ()が。

 縦長たてなが瞳孔(どうこう)と、活力(かつりょく)ちた光沢(こうたく)をともなって復活(ふっかつ)する。


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