82.波紋
・前回のあらすじです。
『ユノと、魔王ディアボロスの戦いがはじまる』
雄叫びがユノの鼓膜を劈いた。
黒曜の壁が、アーチが、波紋の衝撃に罅割れる。
周囲で、かろうじて形を保っていた石像が砕けた。
圧迫する竜のひと鳴きを、ユノは地面にかじりつくようにして踏ん張ってこらえる。
(耐えられないほどじゃない……!)
――今だ!
と自分を奮い立たせ、剣を片手に走りだす。鱗の表皮を尻目に――やわらかそうな、腹部に狙いを定める。
ドンッ。
太い肢が脇に落ちる。
風圧にヒヤリ汗を落としながら、蛇竜――ディアボロスの腹に滑り込む。
魔を討つ白刃を振り上げる。
カンッ。
「っ!」
間のぬけた音がした。
ビリビリ手にシビれる感覚。
とぼしい松明の灯かりを反射して、こぼれた金属のかけらが、七色のきらめきを伴って散る。
(刃が……!)
人を、
魔の森の銀狼を、
いとも容易く切り、つらぬいた名刀が、あっけなく削れなまくらに堕す。
竜が跳んだ。
胴の下に隠れていたユノの身体が晒される。
(まずい!)
ずしんと背後で地が揺れる。
振動にいすくみ、反応が遅れた。
長い尾がぐるりと回転する。
バックステップしたユノを、鉄柱のごときひと薙ぎが殴打する。
「がふっ…………!!」
鎧の下で、胸部が鈍い音をたてる。
腹の奥で臓腑が押し潰される。
身体が打ちあがり、吹きぬけに飛んだ。
上階のてすりを越え、カベに激突する。
土煙が上がり、壁面が崩れる。
糸の切れた人形のようになった全身が、瓦礫に埋もれる。




