80.ディアボロス
・前回のあらすじです。
『ユノが、自分と同じ世界から来た人たちを見つける』
中指に嵌まった、精霊のちからの宿る指輪。
(これを使えば助けられるのかな?)
砕けた石像をユノは見まわす。
状態は絶望的だった。
自分と同い年くらいの元戦士たちは、石になり、砕けて、元に戻っても死の運命は変えられそうもない。
ユノは自問した。
(でも、試してみる価値はある……?)
同郷の戦士たちが体を取りもどし、さらにバラバラになった部位を復活させる――。
(無理のある奇蹟だとは思うけど)
ユノは指輪を自分の目の前にかざした。祈りをこめる。
(って、使いかたこれで良いのかな。どうすればいいか聞いてないや)
ボッ。
灯が揺れた。
生物の動く気配がする。
ユノはカルブリヌスを掴みなおし、暗がりに目をやった。
黄金の球体が光っている。
ゾッとするほど明るくあたりを照らす眼光に、猫目石のように鋭い縦線が入った――
黒い巨体が起きる。
まるで熱気を繰るかのように、獣がひとつ呼吸をすると、火が点いた。
鬼火のなかに、竜の輪郭が浮かびあがる。
青い光を照りかえし、鈍色につやめく鱗の肌。
城を支える柱よりも太い四肢。
長いヒゲをはやした頭部は、ユノのイメージしていたドラゴンよりもいくらか和の趣が強い。
翼を持つヘビの造作に、三つの角をはやした、異形の神。
「……ディアボロス」
ユノはなんとかそれだけを言った。
『いかにも』
竜のヒゲが、意志あるもののように揺れる。
『私が全ての化生を束ねる者。お前たち人間が【魔王】と呼ぶ存在』
段差をいくつかのぼった先。
本来玉座のあるところから、竜
は動かなかった。
『妖精の長から話は聞いている』
「セレンさんから?」
ユノは目つきを険しくした。
竜は肯んずるようにうなる。
空気が重量を増す。
『対話の席は設けるようにしているのでな。その段取り、といったところだ』
ディアボロスの語気は落ちついていた。
ユノは反論をこらえる。
「対話? 誰と」
『お前とだよ。なに、悪い話じゃない』
竜は壊れた石像を一瞥した。
『そこにある勇士たちは、私の邪眼にやられた。私の眼は、浴びたものを石に変える毒を持つ』
ユノは黙っていた。
『だが、私としても他の世界の住人に危害をくわえるのは本意ではない。このまま我々に干渉せず、元の世界に帰るなら、私はお前を見逃そう』
「ここまで来させておいて……」
『茶くらいは出そう』
「ふざけるなよ」
ユノは吠えた。
だが心は、竜の提案に傾いていた。
『セレン、とお前は呼んだか。彼女に頼めば帰還は叶えてくれるだろう』
――チャンスは一度きりだ。
と、ディアボロスは念を押した。
※投稿済みの内容と食いちがっている可能性があります。
修正はおこなう予定ですが、時期は未定です。




