75.ソド
・前回のあらすじです。
『ユノが仲間たちと別れ、ひとり【魔界】に行く』
やせた土地に枯れた草が生えていた。
風は冷たく、氷の刃のように全身を斬りつける。
暗澹とした世界。
魔物の住む常闇の領域――魔界。
王の居城そびえる黒い峻峰をのぞむ巌谷に、【ソド】という町がある。
【魔物】だけで構成された、その原始的な集落は、数日前にやってきた来訪者の話で持ちきりだった。
『また【勇者】が来たって?』
『こりないねえ、人間も』
『これで何人目だろう』
崖の岩肌に穴を掘った造りの建物。
人界からさらってきた半魔族や人間をおつまみに、爬虫類面の大柄な戦士【サラマンデル】たちが酒をあおっている。
猿型のモンスターが、木の洞でこっそり発酵させていたのをかすめ取ってきたのだ。
『で、今はどのあたりに?』
『城に入ったってよ。食い止めようとした一隊も全滅。防衛軍に志願しなくて正解だったぜ』
『妖精が手引きしてんだものな。いつもより早い気もするが……まあ、そんなものだわな』
『しかし、もし魔王さまが討たれれば、魔界は人間界からは完全に隔離される。今の内にいくらか狩り込んでおこうか』
三頭のサラマンデルのうち、ひとりが立ち上がった。
キキキ。
と一人が笑う。
『そうだな。特に半魔の連中はこっちで飼ってやったほうがよっぽど幸せかもしれねえ。人間さまったら、オレらよりずっと扱いがヒドイっていうじゃねえか』
『家畜や食料になるよりヒドイってどんなだ』
『おぼこか……おまえ……』
いちばん年少のサラマンデルに、さっき笑っていたやつが半眼になる。
ジョッキをカラにして、年嵩の彼らも立ち上がった。
棲家の洞を出て、人間界にわたる祠へ飛ぶ。