73.祭壇
・前回のあらすじです。
『ユノたちがアルゴルを倒す』
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うっすらと光を感じる。
水気をふくんだ朝の気配。
まぶたが震えて、ユノは目を覚ました。
筋肉を酷使しすぎて気を失っていたらしい。
銀髪の少女――ローランと、魔鳥の少女パンドラがのぞきこんでいる。
「や、起きたわね」
「全身が痛い……」
「そりゃそーよ、あんだけ無茶な使いかたされちゃあね」
「私が悪いの?」
ローランに水を向けられて、パンドラがムッとくちをすぼめる。
「ほめてんのよパンドラあんた大物になるわよ」
ユノは体を起こした。腕や額から出ていた血は止まり、傷もふさがっている。
セイレーンの少女の頭をたたいて、ローランが立ち上がる。彼女のケガも癒えていた。
「【霊樹の里】に行くの?」
ふたりを見上げてユノは訊いた。
大部屋の扉は開いていて、奥には祭壇がある。
光の柱が、天にむかって伸びている。
「あんたも来たいならつれてくけど?」
ローランが言って、ユノは迷った。
近くに紫の石が落ちている。
それを拾う。
「これは?」
「アルゴルの魔石よ。魔界に飛ばすちからを持ってる」
掌に、ずしりとユノは石の重みを感じる。
「あのさ、ローラン」
「なに?」
「ボクが霊樹の里に行ってるあいだにも、たくさんの人が……魔物に苦しめられるのかな」
「ええ」
ユノは立ち上がった。
取り落としていた大剣を拾い、背の鞘に直す。
「アルゴルにボクが言ってたこと聞いてた?」
「時間かせぎに言ってたやつ?」
「うん。でも……」
「ほんとの気持ちなんでしょ」
ユノは視線を落とした。朝の日が分厚い雲にはばまれて、塔の最上階をうっすらとしか照らさなかった。
「きみならどうする?」
「なにが」
「助けたくない人たちを助けるために、命を張る意味ってあるのかなって……」
「無いわね」
ローランの答えは簡潔だった。
「でも、あんたは多分、誰かの為になりたくて、この世界に来たんだと思う」
「召ばれたんだよ。セレンさんに」
「あいつはそーゆー奴しか選ばないのよ」
けったくそ悪そうに腕を組んで、ローランはあさってのほうを向いた。