71.枷(かせ)
・前回のあらすじです。
『ユノたちがアルゴルに打ちのめされる』
ぐいっ。
パンドラはユノの肩掛け鞄を引っ張った。
背伸びしてユノに耳打ちをする。
「ユノさん、この中に私がつけていた首輪があって――」
荷物の半分はユノが持っていた。
あわててユノは片手でバッグを探る。
カギがはずれて二つの半円になった、鉄の輪っかを取り出す。
――【魔封じの枷】。
(いちかばちか)
ダークエルフの男をユノは睨んだ。
細身に民族的な装束の、『狩人』を彷彿とさせる青年に狙いを定める。
視界のはしにローランが映り込む。
瓦礫の下で、彼女はぴくりとも動かない。
(ローラン、生きてるのか――)
どおお!
心配は爆ぜた魔法によって切断された。
外套で砂埃を払い、狙撃手である痩身のシルエットにユノは駆ける。
「厄介なものを持ってますね……」
苦く顔を引きつらせ、ダークエルフ――アルゴルは、迫るユノを迎え撃つ。
――魔法の矢がユノの肩を抉る。
砕けた肉が、血と共に噴く。
(頼む――!!)
痛みにしびれる腕でユノは首輪を投擲した。
鉄塊が、アルゴル目掛けて飛んでいく。
ふわっ。
跳躍した青年のクツ底をかすめて、枷は向こう側へと飛んでいった。
(やばい!)
宙で矢をつがえるダークエルフにユノは身構える。
巨大な魔力の一撃がアルゴルの手から放たれた。
黒い光が膨らんで、フロア一帯を包みこむ。
爆風が、ユノとパンドラを塔の外にはじき飛ばす。
――ガッ!
大剣をユノは外壁に突き立てた。パンドラの腕をつかまえて、宙ぶらりんになる。
もうもうとあふれる煙から、アルゴルが姿を見せる。
「あなたが魔界へ行くだけでしたら、私も喜んで通してさしあげたのですがね」
冥土のみやげとばかりにアルゴルは吐露した。
ユノは問い返す。
「魔界に? どうして」
アルゴルは滔々と語る。
「それが私の役目だからです。霊樹への門を守り、魔界への橋渡しをおこなう。事実、あなた以外の勇者は、みんな諍いなく通してきましたからね」
「塔は……閉じてたんじゃないの? 扉は呪文が無いと……」
顎をしゃくってアルゴルは塔の全容を示した。
「侵入の術なんていくらでもありますよ。こんな襤褸屋なんですよ?」
各階層のあちこちで、レンガのカベはくずれ、穴ぼこを作っていた。
「勇者をそんなすんなり通していいの? だって魔界には、あなたの王さまがいるんでしょ?」
「我々の、です」
アルゴルはユノの間違いを矯正した。
「構いませんよべつに。あなたが与えられたであろうカルブリヌスは、未完成の武器。ディアボロス様の敵ではありません」
「魔王はそんなに強いの? ていうか未完成って?」
「あなたと仲良くおしゃべりする気はありませんよ。このへんで――」
魔法の矢をアルゴルは魔力の弓に補充した。
ユノはさけぶ。
「話によっちゃあ、ボクは魔族にチカラを貸す。人間を制圧したいんでしょ? ボクだって、この世界の人たちには辟易してたんだ。そのうえこっちに勝算が無いっていうなら、魔族側に寝がえりだってするさ!」
「……正気ですか?」
弓は構えたまま、アルゴルは金色の目をすがめた。




