70.稲妻
・前回のあらすじです。
『ダークエルフの男・アルゴルが、攻撃魔法の雨をふらせる』
大剣を傘にして、ユノは爆破のシャワーを防いだ。
視界の端から銀の閃光が踊り出る。
ミスリルのレイピアで、破壊の雨を蹴散らしながら、ローランがアルゴルに迫っていた。
ダークエルフの首に、少女が細い白刃を振りおろす。
ガあンッ!
火花が飛んだ。
見えない盾が阻むように、ローランの剣をはね返す。
「うっとおしい魔法っ!」
床に着地しながらローランは呻く。
アルゴルの手が光った。
昏い電気が男の指の間に迸る。
紫紺の稲妻が放射され、少女の全身を貫いた。
「ローラン!」
半壊した壁にローランは吹き飛んだ。
ユノはアルゴルに一足で詰め寄り、大剣を叩きつける。
すっ。
とアルゴルは避けた。
灰色の長髪が数本切れただけ。
皮のガードをつけたアルゴルの膝が反撃し、ユノのみぞおちを穿った。
ついでの身軽さで、ダークエルフは二度目の蹴りをユノの蟀谷にくれる。
パンドラはいてもたってもいられずに駆けつけた。
腰帯の袋から回復の石を出してユノにあてがう。
ユノは立ちあがった。ケガは癒えたが声が出ない。胃がひきつって、なかのものを出した。
(パンドラ……逃げないと……)
亜麻色の短い髪の少女にユノは目で訴える。
パンドラは気づいてない――
(……ちがう)
ユノは自分の考えを否定した。
もどかしそうにパンドラは空を見ている。
瓦解したカベの外を――
(わかってないんじゃない、パンドラは……待ってるんだ!)
曇天の荒野に夜が近づいていた。