7.瞬殺
・前回のあらすじです。
『戦士が主人公にケンカを売る』
クレイモア。
全長百九十センチもある長剣を、男――シグは担ぐように構えていた。
戦闘開始の声が鳴ると共に、シグが床を蹴る。
上段から、ユノ目掛けて一気に剣を振り下ろす。
「ひっ!」
ユノは強張っていた。
肩に迫る刀身に、でたらめに武器を振りまわす。
硬質な音が弾けた。
折れた刃が、地面に落ちる。
ばっ!!
赤い飛沫があがる。
(え!?)
自分の肩をユノは触った。傷は無い。
顔面に血潮を浴びる。
シグの上半身が、グラリとずれた。
金属の鎧ごと、彼の身体はスパリと切れて、地面に落ちてころがった。
数秒後。
立ったままだった胸から下の身体も、バランスをくずして倒れる。
「勝者をユノとする」
玉座から、王は決闘の終わりを告げた。
兵士たちが、あわててシグの死体を片付ける。
ユノは尻餅をついた。
返り血で汚れた全身が、ガタガタと震えていた。
玉座の間にいた戦士たちは、遠巻きになって、『勇者』になった少年を眺めていた。
「帰りましょうか、ユノさま」
セレンがユノの横に立つ。
壇上の王に、彼女は言った。
「明日も、お目通りを願いたいのですが」
「準備をしておこう」
ペンドラゴン王は唸った。
靴を鳴らして、セレンは広間を出る。
ついてこないユノを、彼女は一度だけ振り返った。
そして、先に帰っていった。
「いやな思いをさせたな」
王は肩からちからを抜いて、ユノに謝罪した。
兵士たちが、横から少年の腕を取って支える。
「つ、つかまるんですか? ボク……」
「あの若者の死なら気に病むな。決闘による殺人は、罪にはならん」
担架に載せて運ばれていく若者の死体に、王は十字を切った。
もう一度ユノを見る。
「戦いのない世界で育ったのだろうな、そなたは。私としても、平穏な郷の人間を、戦禍に投じたくはなかった。だが、あの妖姫は……」
豊かに伸びたヒゲごと、王は自分のくちを覆った。
「グチっぽくなったな、すまない。ただな、ユノと言ったか」
ユノは王を見上げた。
「あの妖精を信用しすぎぬことだな。あれは有用とあれば、神の側にも、魔族の側にもつく種族ゆえ」
玉座にもたれかかり、王は兵士にユノを送るよう命じた。
ユノは城を出た。
それから兵士の呼んだ辻馬車に乗って、宿屋まで運んでもらった。




