66.ダークエルフ
・前回のあらすじです。
『ユノ一行が塔の最上階にやってくる』
「アールヴ?」
塔の最上階にいた男にユノは怪訝になった。
男の耳は長く先細りしている。
皮膚は浅黒く紫のまじった色。
髪は灰がかっていて、輪郭がよく見えるように総髪にしていた。
若々しく輝く両目は獅子のような金色だった。実年齢は不明だが、およそ二十代前半ごろの若い外観である。
「ダークエルフよ」
ユノの問いにローランが答えた。
『エルフ』はメルクリウスにおいて『妖精』を示す古い言葉。
ダークエルフは、はぐれのアールヴが魔物の軍門にくだり、本来では決して手に入れられない膂力と破滅の魔法を得た闇の帰依者である。
「【霊樹の里】にお戻りになられるので?」
ダークエルフの男は、金の目を隙なく細めた。
どことなく狐に似た表情。
男と充分に距離を置いたまま、声をかけられた少女――ローランは顎を上向ける。
「ええ、つっても通す気は無いんでしょ、アルゴル」
男――アルゴルは頷いた。
「魔王ディアボロス様の命ですゆえ、いくら巫女様といえど」
「巫女?」
ユノはローランを二度見した。
「ローランが? でも、巫女様って――」
隣りで彼女が青い目を伏せる。
「黙っててごめんなさいね、ちょっと事情があって……」
ブンブン。ユノはかぶりを振った。
「ローラン、ボク巫女さんってもっとこう……おしとやかで清楚で純真でおとなしい人しかなれないって思ってたんだけど……」
「あんた後で覚えてなさいよ」
銀色のおかっぱの下でローランはイライラと眉を震わせた。