64.カルブリヌス
・前回のあらすじです。
『塔の二階へいく道すがら、ユノがカルブリヌスを使わない理由を話す』
壁の向こうに曇天の荒野が広がっていた。
塔の破れ目からヒョウッと吹きこむ風は、湿気を孕んでいるのに鋭くて寒々しい。
ユノは言った。
「今更で悪いけど、まだカルブリヌスを使う気はないよボク。もしそれが目当てだったって言うなら……ごめんなさいだけど」
「残念だとは思うわ」
ローランは先へ進んだ。
ユノは項垂れる。
銀髪の少女のベルトには、ミスリル銀でこさえた細身の剣が揺れていた。
邪のちからが濃い悪魔タイプのモンスターや、幻惑や弱化の魔法に対して大きな効果を発揮する――聖なる剣。
「きみのその武器でもここを踏破するのは難しいの? レベルも高いんだし……いけそうな気がするけど」
「番人がメチャ強いのよ。こっちも今更で悪いけどね」
バツが悪そうにローランは苦笑いをした。
ユノもぎこちなく笑い返す。
「セレンとはどうなの?」
魔物の気配がないか警戒しつつ、ローランは階上を目指した。
ユノは首を横に振る。
「もうだいぶん会ってないっていうか……まあ、たまにはあの人のほうから出てくるし、話すんだけど」
「歯切れ悪いわね」
「……あの人のちからを借りるのがイヤになって……そのー」
掌をユノは二階の広い踊り場に向けた。
いくつもの大柱のひとつに狙いを定める。
ポヒュン……。
煙が破裂する。
「【気術】が全然つかえなくなっちゃって」
「……妖精との『信用』が要になってる技だからね。キライになったらそーなるわよね」
ローランは半眼になってこめかみを掻いた。
ユノも項垂れる。
「ごめんね……なんか」
「良いわよ。どーせカルブリヌスだっていざってなったら使ってくれるんだろうし」
人差し指をユノに向けて、ローランは不器用にウインクした。
「それまでは、あんた自身の力量に期待してるわ」
「うん、がんばるよ」
ユノは頷いた。
塔をのぼっていく。