58.魔王
・前回のあらすじです。
『ユノたちが買い物をすませる』
・・・・・・
「ご無沙汰しています」
ぼうと火が灯った。
光は青く、万年薄闇に鎖された霧の世界をおぼろに照らす。
魔界の王城。
玉座の間にあたる部屋である。
玉座には竜がいた。
巨きなヘビの身体に翼を生やし、とぐろを巻いてやすまる御姿。
頭部につき出た三本の角は黄色く濁り、上顎に伸びた一対のヒゲは、齢を裏付けるように長い。
王は眼を見ひらいた。
鉄のような硬質な顔面に、金色の光沢がのぞく。
『セレネディアナか』
呼ばれて、セレネディアナ――セレンは頭を垂れた。
『他世界からまた魔を祓う勇士を召致したそうだな。性懲りもなく』
「私も光の一端を担う身です故、それくらいは」
セレンが答える。
緑の長髪が、ブローチで留めた肩かけの背中に滑った。
『【金竜】を盗んだとも聞いている。われわれ【魔族】の繁栄を、おまえは望んでいるのではなかったのか』
「人に与する気はありません。魔王さま、あなたとも」
竜は起き上った。
短く、剣呑に節くれだった太い四肢。
人間を一睨みで石に変える邪眼をすぼめ――
しかし妖精であるセレンには効果がない。
『なにを企んでいる』
「回帰です」
王は、あるはずのない眉をひそめた。
※いくつかの文章を変更しました。(以下はその一例です)
・旧→『他世界から、魔を祓う勇士を召致したそうだな』
・改→『他世界から、また魔を祓う勇士を召致したそうだな。しょうこりもなく』