56.パペルの塔
・前回のあらすじです。
『ユノがローランから依頼をされる』
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ユノはローランの誘いを受けることにした。
目標は、ここバーライルの町から北に行ったところにある荒野――そこにある【パペルの塔】と呼ばれる半壊した高層建築物だ。
出発は二日後。
その間に、ユノは旅の準備をすることにしたのだが。
・・・・・・
「ユノさん、これなんかどう?」
「うーん良いんじゃないかな」
「って見てないじゃん」
ユノは手持無沙汰に商品棚のナイフを取っていた。
鞘から抜いた刀身に自分の顔が映る。
一年間の【異世界】での生活を経て、ユノの風貌は世間ずれしたものになっていた。
拗ねて尖った眦。
影をまとった黒い瞳。
連続する野営でバサバサに傷んだ短い黒い髪。
麻のパーカーと綿のロングパンツの私服に、護身用のダガーをうしろ腰に挿して、常にあたりを警戒している。
ユノはパンドラと共にメインストリートの雑貨屋に来ていた。
十才ほどの小さな身体に、今日は短衣とフレアスカートのいでたちで、ボブショートの亜麻色の髪の女の子――パンドラはむくれた。
「駄目だよ。髪飾り、ちゃんと選ばないと」
「って言っても、そんな安物で――」
「ごほん!」
カウンターで太った店主が咳払いする。
ユノは自分のくちを押さえて、つづく言葉を呑み込んだ。