55.罰
・前回のあらすじです。
『ユノがグレた経緯を話す』
「ローランって言ったよね」
「ええ」
ユノは長椅子に座る女剣士を見おろした。
今日はお互いに武具をつけていない。剣士という職からは遠い、私服すがただった。
「きみはその……ひょっとして、ボクを捕まえに来たの? 騎士か何かとか?」
「鋭いわね。騎士じゃないけど」
ローランはスカートのポケットから紙切れをヒラつかせた。
「それは?」
「ギルドの依頼書。その控えよ。『ドレイ商を襲う通り魔をやっつけてください』ってね」」
よく見ようと伸ばしたユノの手を、ローランがひょいとかわす。
「ボクをどうするの?」
ユノの質問に、ローランは広場をパトロール中の男を顎で示した。
ペンドラゴン王国の徽章をさげた巡回騎士の制服に、ロングスピアを携えた警邏隊員だ。
「あの人にでもあなたを突き出せば私はクエスト達成。晴れて報酬を手にし、あんたは然るべき調査を受けたのち、罰を受ける。死刑ってのが妥当かしらね」
彼女の横に座っていたパンドラが息を飲んだ。
「ローラン、なんとかできないの? ユノさんのこと」
「そーゆー目で見られるの、ものすごく困るんだけど」
「…………」
ユノは片眉をピクつかせた。
「ボクのやったことが――誰かを助けることが、そんなに悪いことなの?」
「はき違えてんじゃないわよ。あんたは立派な人殺しなのよ」
ローランは弾みをつけて立ち上がった。
青い目に射すくめられて――ユノは睨み返す。
「ユノ」
フッと真顔になって、ローランのほうがあさっての方角を向いた。
「わたしは【霊樹の里】に行くつもり」
「れい……じゅ?」
ローランは頷いた。
「妖精たちの住む所よ」
ユノは一瞬セレンのことを思い出した。
「ちょっと特殊な場所だから、手続きがめんどくさいけど」
「何をしに行くの?」
ユノは固唾を呑んで訊いた。
答えてくれるだろうかと少し不安になる。
「盗られたものがあるのよ。それを返してもらいに」
「盗られたって? なにを?」
「私の宝物」
微笑して、すぐにそれは少女の銀の前髪の陰にかくれた。
「ただ、危ない橋渡んなくちゃいけなくてね。私は半年間この界隈で、戦力になりそうな人を探していた」
ユノは自分のこめかみを掻いた。
「えっと……それで?」
「んも~っニブいわねー。あんたの手え貸してほしいっつってんのよ。そしたらあんたのことくらいなら、まあ、どうにかしてやれるわ」
「きみが?」
ユノはうろんげに目をすがめた。
「だって、騎士じゃないならどう見ても盗賊か――良くって悪徳商人ってとこじゃないか。そんなきみに何ができるって言うのさ?」
「うっさいわね。のるの? のらないの?」
ローランは腕組みしてムスッとユノを睨んだ。
「ユノさん」
パンドラが祈るようにつぶやく。