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【異世界転移】をやってみた《1》  作者: とり
 第7話 雨期(うき)
55/92

53.市場(いちば)



 ・前回のあらすじです。


 『ユノがローランのことを気にかける』





 ・・・・・・


「これは買い取れねえなあ」


「えーっ、何でよ」


 古都(こと)【バーライル】の市場(いちば)

 (たん)物をあつかう露店(ろてん)に、彼女――ローランはいた。


 【二土用(にどよう)(つき) 第(はち)日】。


 十五(じゅうご)日にわたる季節の変わり目の中で、今日は貴重(きちょう)な快晴だ。

 午後からくずれるにおいもなく、雲ひとつない青空の下、バーライルの住民も根無し草の旅人(たびびと)も、ここぞとばかり外に繰り出して陽気(ようき)に任せて店をのぞき、硬貨(コイン)を流す。


「デザインは、まあ悪くないんだが……何で出来(でき)てるんだこれ? 得体(えたい)が知れねえ」

「……リンネル? キャラコかなあ。そーだわこれ(ちょう)高級(こうきゅう)素材(そざい)で出来てますっつってお貴族さまに高値でふっかけてみれば? きっと引っかかってくれるわよ」

「おれに()(くび)になれってかじょうちゃん……」


 カクンと店主(てんしゅ)はうなだれた。

 商人(しょうにん)互助(ごじょ)組合(くみあい)帽子ぼうしごと、禿げたあたまをバリバリ()く。


「とにかくウチじゃああつかえないよ。はいっ、よそに行った行った!」

「けち」

「見つけたよ……」


 ぬうっ。

 (はん)そでの少年がローランのうしろに立つ。


「ギャあッ!」

「うっ? っぎゃああ!!」


 店主と、彼につられてうしろを確かめたローランが立て続けに跳び退(すさ)る。


「このっ……どろぼー!!」


 少年――ユノは(さけ)んだ。

 銀髪(ぎんぱつ)のおかっぱの――今日はノースリーブのシャツにスカートすがたの――少女を指差して。


「ボクのかばんカラッポじゃないか! 中身どこやったの? 返してよ!」


 ペタンコになった(かた)掛け鞄をユノは(たた)いた。

 布製(ぬのせい)のそれは、パスンパスンとむなしくくだけだった。


「うっさいわねー、とっくに売っちゃったわよ」


 ローランは異郷(いきょう)(ふく)手帳(てちょう)商人(しょうにん)の男から回収かいしゅうしながらユノに悪態をつく。


「【ジェム】をあんなに()めこんで、何するつもりだったんだか」


 (みせ)でもやる気~?

 とからかう少女からユノは〈制服(せいふく)〉と〈生徒手帳(せいとてちょう)〉をひったくった。


「大事にしてたんだよっ。これとかもボクのじゃないか、なに勝手なことしてんだよ……」


 (うば)い返したものをユノはかばんに詰め込む。


「ユノさーん、待ってー」


 人込みからパンドラがやって来る。


「おいおい、盗品の横流しなんて冗談じょうだんじゃないよ」


 店主はえだみたいな手をシッシッとはらって、ふたりの迷惑客を追っぱらった。

 ローランが肩をすくめる。ユノのおこった顔を見る。


「まっ、そんだけ元気ならもう大丈夫よね。私の漢方(かんぽう)、よく効いたでしょ?」

「すっごく。まずかった」


 ユノは、やっと()いついたパンドラの手を引いた。

 昼前(ひるまえ)の買いもの(きゃく)でごった返す市場いちばを三人は歩く。


「それで? きみは誰なの? ボクのこと、どこで知ったの」

「ペンドラゴンのお城で見たのよ。あんたはみごと選定(せんてい)(けん)を引きて、それに物申(ものもう)したシグ=モンドという戦士と決闘(けっとう)した。で、勢いあまって彼を()(ころ)し、自分のやったことにビビッて腰をかした」


 ローランはユノたちの前を行っていた。

 彼女は八百屋(やおや)の果実や屋台(やたい)のホットドッグをながめながら、


「それが街道(かいどう)で通り魔なんて……いったいどうしちゃったの? あの頃のあんたのほうが、わたしは()きだった」

「きみなんかに好かれたって……」


 どきり。

 とユノは足を止めた。

 ローランが微笑(ほほえ)んで見つめている。


 ピタリと(あお)い目をユノに()わせて、彼女は問いかけた。


「なんかイヤなことでもあったの?」



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