52.苦い薬
・前回のあらすじです。
『少女の看病でユノが目を覚ます』
部屋は広かった。
クローゼットと洗面台、文机があってなお団らん用のソファがある。
良質な宿屋だとユノは直感した。そして誰がここの宿泊料金を払うのだろうと震撼した。
ユノはベッドに横たわったまま、少女を見た。
「きみがボクを運んで来てくれたの?」
「ううん」
ふるふると少女は亜麻色の髪を揺らす。
「信号弾で人を呼んで……町の門兵さんが来てくれたの」
少女は唐突に、ぱっと手をたたいた。
ローブを直して居ずまいをただす。
「ユノさん、そういえば私、まだ名乗ってなかった。パンドラって言います」
ぺこ、と少女――パンドラはおじぎをした。
それからベッドわきの小卓からコップを取り、煎薬を入れて水と混ぜる。
「あなたのことはローランから聞いたの。いろいろと手配してくれたのも彼女」
水薬をユノは受け取った。
「ローランっていうのは――」
「ユノさんが斬りかかった娘」
ごくり。
ぎこちなくユノは喉を鳴らした。
ぬるい液体が胃にしたたり、身体のだるさをほぐす。
「その子もいるの? この近くに」
ユノは苦い薬を一気にあおり、ばつの悪さと共に飲みくだした。
不味い。
「ちょっとだけ話したいとは思ってるんだ。ボクのこと、どこで知ったのかとか訊きたいし」
「それが――その……」
パンドラは入り口のほうに歩いた。
フックに掛けていた旅用の肩かけ鞄を下ろし、ユノに返す。
「ユノさん、ローランはね……」
赤い目を伏せて、パンドラは俯いた。
渡された鞄をなかば抱きしめるようにして、ユノは彼女の言葉を聞いていた。




