51.石の壁
・前回のあらすじです。
『ユノがセイレーンの歌を聞いて倒れる』
・・・・・・
冷たい物が額に載っていた。
手を動かそうとして、ひどく重いのに気がつく。
目を開ける。
ベッドの天蓋。
塔の絵のかかった石の壁。
飾り花の、清新な香りがする。
「ユノさん」
女の子がユノをのぞきこんだ。
短い、亜麻色の巻き毛に赤い瞳。
キレイに洗った顔は天使のようにあどけなく、小さい体にはシルクの長衣をまとっていた。
(アイ?)
ユノは暖かな感慨にひたりそうになって、すぐにちがうと思い直す。
ドレイ商人の荷車に、商品として詰めこまれていた少女だ。
逃がしたところを、別の人間に襲われていて――
「ここは?」
「宿屋だよ。【バーライル】っていう町の」
女の子は張り出し窓を押し開けた。
暑さの残る湿った外気が室内に吹き込む。
「大丈夫なの? 町には人がたくさんいるんじゃあ……」
「へへー」
女の子はくるりとユノに背中を見せた。
魔鳥の翼がない。
「お薬をもらったの。一日しか保たないから、毎日飲まなきゃだけど」
ユノはようよう身を起こした。
額のぬれタオルを取る。
身体は鉛のように重く、少し痺れが残っていた。