49.セイレーン
・前回のあらすじです。
『ユノが自分の保身を考える』
・・・・・・
こっそりと少女は立ちあがった。
亜麻色の巻き毛に、一枚布のそまつな服をつけた子供だ。
年齢は十才かそこいらほど。
背中に生えているのは、怪鳥――【セイレーン】の母ゆずりの白い翼。
彼女はうずくまる女流剣士のようすを見ながら、そろりそろり足を踏み出す。
(えっ!?)
ぬっ。
と化け物めいた影が視界の隅に映り込む。
林立する針葉樹にすべったその大きなシルエットは、少女が瞬きをする間に消えた。
「どこ行こうってのよ」
松明を拾って剣士が唸った。
「……って、しゃべれないのよね」
はあ。
と剣士は息をつく。
血と脂汗にぬれた面は青白い。
「あんた、セイレーンの子どもよね? 呪歌は歌える?」
巻き毛の少女は首を横に振った。
肩を落として、剣士はレイピアを動かす。
地面に五線譜を描く。
「じゃあ、今習得して」
ふるふるふるふる。
幼い首に巻きついた、声を封じる枷が左右に震えた。
「なーに、楽勝よラクショー。人間には難しいけどね、あんた自分が天才だってもっと自覚したほうがいいわよ」
血色の悪い目元を剣士は笑わせた。
「……それに、わがまま言える立場じゃないでしょ、あんたは」
ハーフパンツのポケットに手を突っこんで、剣士が細いものを取り出す。
「私の手助けをしてくれるってなら……助けてあげるよ?」
キラリ。
火にするどく輝く。
それは一本の、鉤状にまがった針だった。